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神の雷(トール・ハンマー)〜家族を奪われた天才物理学者の逆行転生。未来の知識で四大勢力に復讐する〜  作者: 天音天成
第4章:歴史の分岐点〜孤島攻防戦〜

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第80話 天空からの質量と、海の底へ沈む傲慢(第4章完)

 南太平洋、孤島要塞ニヴルヘイムの沖合に展開するG4(臨時四ヶ国協調体制)の合同大艦隊。

 その中核を担うアメリカ海軍の最新鋭原子力空母『ジェラルド・R・フォード』の戦闘指揮所(CIC)は、数週間に及ぶ泥沼の飽和特攻の末に手にした「勝利」の熱狂に包み込まれていた。


「提督! 各国の特殊部隊から報告! ニヴルヘイムの地上施設群、および主要な地下隔壁への爆破準備が完了しました! イージス社のプラズマ防壁は依然として完全に沈黙しています!」

 通信士が、興奮で上ずった声で報告する。


「よくやった! 我々の数百万のミサイルが、ついに極東の悪魔のエネルギーを枯渇させたのだ!」

 提督は、隣に立つ中国とロシアの連絡将校たちと固い握手を交わし、満面の笑みを浮かべた。

「諸君、我々G4はついに歴史的な勝利を手にした。これで世界のエネルギー覇権も、宇宙の支配権も、すべて我々の手に戻ってくる。……本国の首脳陣も、日本列島の治安維持(分割統治)に向けて、すでに行動を開始したそうだ」


「ええ! 極東の悪魔も、我々人類の総力たる『物量』の前には、ついにエネルギーが尽きて地下へ逃げ込むしかなかったというわけだ! これで、黄色い猿どもは永遠に我々の足元で泥を啜ることになる!」

 ロシアの将校が、残忍な笑みを浮かべて高らかに宣言する。


 彼らは、自分たちの軍事力と忍耐が勝利をもたらしたのだと、本気で信じ切っていた。

 自分たちが放った数百万のミサイルによって、イージス社の防衛システムが限界を迎え、沈黙したのだと。

 これから彼らは、地下に引きこもった神盾宗一の首に縄をつけ、技術をすべて奪い取り、自国の英雄として凱旋するのだ。その輝かしい未来図に、彼らの傲慢なプライドは完全に満たされていた。


 だが、その祝祭の空気は、突如として鳴り響いたけたたましい『対空警報レッドアラート』によって一瞬で引き裂かれた。


『――警告! 警告! SPYレーダーに多数の飛翔体を捕捉! その数……およそ百!!』

 オペレーターが、信じられないものを見る目で画面を凝視し、悲鳴を上げた。


「なんだと!? 残存していたイージスの対空ミサイルか!?」

 提督が慌ててコンソールに駆け寄る。

「違います! 飛翔体は島からではありません……宇宙そらからです!! 高度四百キロメートルの熱圏から、極超音速で当艦隊の真上へ向かって落下してきます!!」


「宇宙から……だと!?」


 提督は、血の気を失った顔で艦橋の窓へ飛びつき、空を見上げた。

 まだ夕暮れの薄暗い空に、数え切れないほどの『流れ星』が、不気味な青白い光の尾を引いて降り注いでくるのが見えた。

 それはロマンチックな天体ショーなどではない。音速の二十五倍という、人類が迎撃することなど絶対に不可能な速度で落ちてくる、純粋な物理的質量の雨だった。


「ば、馬鹿な……! イージス社の通信衛星はただのインフラだぞ! まさか、あれの中に巨大な質量兵器(キネティック弾)を隠していたというのか!?」

 中国の連絡将校が、腰を抜かして床にへたり込んだ。


「全艦、対空戦闘用意!! 撃ち落とせ! 何としても迎撃しろォォォッ!!」

 提督が狂乱したように怒号を飛ばす。


 空母を護衛するイージス駆逐艦や巡洋艦のVLS(垂直発射システム)から、数十発の迎撃ミサイル(SM-3)が一斉に発射された。

 だが、マッハ二五で落下してくる百発の『神の槍』に対して、現代のミサイル防衛システムなど子供のパチンコ玉にも等しかった。


 宇宙空間の『神の雷』から電磁加速されて射出された、全長十メートルにも及ぶ巨大なタングステン合金弾。

 それは、周囲を数万度のプラズマの膜で覆われ、大気との摩擦熱を完全に相殺しながら、文字通り『光の槍』となって空を切り裂いている。

 迎撃ミサイルが直撃したとしても、その強靭なタングステンの質量とプラズマの壁に弾かれ、あるいは到達する前に空中で燃え尽きてしまった。


 そして、最初の『一撃』が、海面に達した。


 ズバァァァァァンッ!!


 轟音すらも置き去りにする速度で、隣を航行していた中国の最新鋭ミサイル駆逐艦に、青白い光が突き刺さった。

 爆発の炎すら上がらない。

 数百トンの超硬合金の塊が、マッハ二五の運動エネルギーを持ったまま艦体を中央から貫通し、そのまま海底へと突き抜けていったのだ。


「あ……あぁ……」

 提督は、その光景を前に、完全に言葉を失った。


 巨大な最新鋭の軍艦が、まるで濡れた紙切れのようにくしゃくしゃにひしゃげ、真っ二つにへし折られた。切断面からは高熱の水蒸気が噴き上がり、数秒のうちに渦を巻いて、海の底へと引きずり込まれていく。

 生存者の悲鳴すら上がらない。一瞬の出来事だった。


 ズドォォン! バキィィィンッ!!

 次々と降り注ぐ星のメテオ・ストライク

 ロシアのミサイル巡洋艦が、欧州のフリゲート艦が、そしてアメリカの巨大な補給艦が、次々と物理的な質量によって粉砕され、海の藻屑と消えていく。

 彼らが誇ったイージスシステムも、分厚い装甲も、人類の歴史上かつてない規模の合同艦隊も、この宇宙からの圧倒的な暴力の前には何の役にも立たなかった。


「……提督! 回避不可能です! 当艦の真上にも……複数が直撃します!!」


 オペレーターの絶望的な絶叫が、艦橋に響き渡る。

 提督が最期に見たのは、空を真昼のように青白く染め上げながら、自分の頭上へ向かって一直線に落ちてくる、絶望という名の巨大な光の槍だった。


     * * *


「――着弾確認。目標海域に展開していたG4合同大艦隊、および輸送船団の九十九パーセントが、物理的に大破・轟沈しました。……残存艦は完全にコントロールを失い、海域は壊滅状態です」


 ニヴルヘイムの地下、サイバー・コントロールルーム。

 玲奈の無機質な報告が、静まり返った部屋に響いた。


「ご苦労。……見事な流星群だったな」

 私は特注のレザーチェアに深く腰掛けたまま、モニターに映る太平洋の惨状を見下ろした。

 先ほどまで海を埋め尽くしていた鋼鉄の大艦隊は、今や赤熱する残骸と化し、無数の水柱と共に海の底へと沈んでいく。


 これが、彼らが「物量」を誇った代償だ。

 彼らが数百万機のミサイルとドローンを使って私の盾を削ろうとするなら、私は宇宙からマッハ二五の質量兵器を撃ち下ろし、彼らの暴力の根源を船ごと海の底へ叩き潰す。

 宇宙の質量の前では、地球上の軍事力などただのゴミ屑に等しいという現実を、彼らはその命をもって理解したことだろう。


『ヒャッハー!! 見たかよ大国どものマヌケ面!』

 分割画面の向こうで、南太平洋の要塞にいるDr.クリス・ウォーカーが、歓喜の咆哮を上げた。

『俺たちの『神の雷』のタングステン弾の前じゃ、最新鋭の軍艦も紙切れと同じだ! 上陸して俺たちの島をほっつき歩いてる特殊部隊の連中も、海を埋め尽くす残骸を見て絶望のどん底だろうぜ!』


「ボス。これで太平洋のG4戦力は完全に消滅しました。島に上陸した特殊部隊も、退路を断たれて完全に孤立しています」

 玲奈が、タブレットを操作しながら息を吐き出す。

「ですが……艦隊が全滅したという事実は、間もなく彼らの本国へ伝わります。大国の首脳陣は、自国の主力艦隊を失ったことに激怒し、もはや理性を保つことはできないでしょう」


「ああ。彼らは間違いなく、最終手段に出る」


 私は立ち上がり、壁面に広がる巨大な世界地図を冷酷に見据えた。


「通常戦力で勝てないと悟った大国が、自らの覇権と命を守るために選ぶ道は、ただ一つ。……ICBM(大陸間弾道ミサイル)による、核攻撃だ」


 私の言葉に、玲奈も、モニター越しのヴィクトルやクリスも、息を呑んで沈黙した。

 国家の存亡を懸け、完全に理性を失った大国の首脳陣。彼らが、イージス社の南太平洋要塞、あるいは私のいるこの六本木へ向けて、「世界を終わらせるボタン」に手をかけるのは、もはや時間の問題だ。


「彼らが『核』という最悪の選択肢に手を伸ばしたその瞬間。……彼らが、人類を滅ぼす大義名分を自ら作り上げたその時こそが」


 私は、宇宙空間で私の命と直結して静かに回る、巨大な十字の兵器『神の雷』の威容を思い描いた。

 今放った百発のタングステン弾は、あくまで彼らの艦隊を沈めるための『小手調べ』に過ぎない。弾薬庫には、まだ各国の首都を物理的に消滅させるだけの弾薬が、完璧な状態で装填されているのだ。


「私が、歴史の修正力ごと彼らをこの世界から完全に消去し、真の平和を確立するための『審判の日』となる」


 極東の悪魔の瞳には、かつてないほどに深く、冷たい地獄の炎が燃え上がっていた。


【第4章:歴史の分岐点〜孤島攻防戦〜 完】

【読者の皆様へのお願い】

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