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神の雷(トール・ハンマー)〜家族を奪われた天才物理学者の逆行転生。未来の知識で四大勢力に復讐する〜  作者: 天音天成
第4章:歴史の分岐点〜孤島攻防戦〜

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第79話 迫る軍靴と、解き放たれる神の槍

 南太平洋の絶海に浮かぶ孤島要塞『ニヴルヘイム』。

 その空と海を埋め尽くしていた数百万発のミサイルとドローンの雨が、突如として『目に見える形』で島の海岸線へと到達し始めていた。


 これまでは、上空五十キロメートルで青白いプラズマのアイギス・シールドがすべてを蒸発させ、海面の黒いスウォーム・ドローンが特攻ボートを食い破っていた。

 だが、宗一の「海岸線を放棄し、防衛線を地下の居住ブロックと指令室周辺のみに縮小しろ」という命令により、外側の盾が意図的に解除されたのだ。


 ズドォォォォンッ!!

 ドゴォォォォンッ!!


 迎撃されなかった旧式の巡航ミサイルが、島のジャングルや偽装された地上施設に次々と着弾し、猛烈な爆発と炎の柱を上げ始めた。

 数週間に及ぶ完璧な防衛線がついに「決壊」したと判断したG4(臨時四ヶ国協調体制)の大艦隊は、狂喜乱舞して残存する全戦力を一気に前進させた。


「――敵の上陸用舟艇および水陸両用装甲車、海岸線への着上陸を開始しました。その数、およそ五千。……アメリカ海軍のネイビーシールズ、ロシアのスペツナズ、中国の特殊部隊の混成部隊です」


 地下数百メートルのサイバー・コントロールルーム。

 橘玲奈が、地上で燃え上がる島の監視カメラ映像を見つめながら、冷徹な声で報告を上げた。


「ご苦労。……ようやく重い腰を上げて、島に足を踏み入れてくれたか」

 私は特注のレザーチェアに座ったまま、モニターに映る迷彩服の兵士たちが、炎上する地上施設へとアリの群れのように雪崩れ込んでいく様を見下ろした。


「ヴィクトル、地下への侵入ルートの封鎖状況は?」

『完璧です、ボス』

 暗号化通信の画面で、ヴィクトル・イワノフが強化外骨格のヘルメットを小脇に抱えながら答える。

『地上からこの地下施設へ通じるエレベーターシャフトおよび換気ダクトは、すべてチタン合金の分厚い隔壁で物理的にロックしました。彼らが携帯用の爆薬でこじ開けようとしても、突破には最低でも数週間はかかります』


「よし。彼らには、地上の『空き箱』を制圧したという勝利の美酒に、思う存分酔いしれてもらおう」

 私は手元のキーボードを操作し、ヴァルハラの諜報網『神のオーディンズ・アイ』を通じて傍受している、G4首脳陣の極秘オンライン会議の音声をメインモニターへと出力した。


     * * *


 アメリカ、ワシントンD.C.。

 ホワイトハウスの地下に設けられた大統領危機管理センター(PEOC)では、湧き上がるような歓声と拍手が鳴り響いていた。


「――大統領! 極東の統合司令部より報告! 我が軍のネイビーシールズが、ニヴルヘイムの海岸防衛線を突破! 地上の主要施設を次々と制圧下に置いています!」

「イージス社のプラズマ防壁は完全に沈黙! 奴らのエネルギーも、ついに底を突いたようです!」


 若き強硬派の将校たちが、興奮で顔を紅潮させながら報告を上げる。

 大統領の席に座る男も、長年の重圧から解放されたように深く息を吐き出し、満足げに頷いた。


「よくやった。数百万のミサイルとドローンを犠牲にした甲斐があったというものだ」

 大統領は、テーブルの上に広げられた極東の海図を見下ろした。

「神盾宗一がどれほど未来の技術を持っていようと、地球上の資源と物量には勝てない。我々G4の『人類としての総力』が、あの悪魔を打ち倒したのだ」


「地下施設への侵入にはまだ時間がかかるようですが、彼らが閉じ込められているのは確実です。もはや奴らは袋のネズミです」

 CIA長官が、冷酷な笑みを浮かべて言葉を継いだ。


「ならば、次のフェーズへ移行しよう」

 大統領は、ゆっくりと立ち上がり、中国、ロシア、欧州の首脳たちと繋がった極秘の暗号回線のモニターへ向けて宣言した。


「イージス・イノベーションズの無力化が確認された今、我々が最も恐れていた『宇宙からの脅威』は去った。……これより、我々はかねてからの合意通り、テロリストを匿っていた日本政府に対する『治安維持活動』を開始する」


 モニターの向こうで、各国の首脳たちが深く頷く。

 彼らの瞳には、かつての冷戦時代の亡霊のような、ドロドロとした領土的野心と欲望が燃え上がっていた。


「極東の島国は、クリーンエネルギーの独占によって不当な富を蓄えすぎた。我々G4の平和維持軍を日本本土へ上陸させ、政府機能を停止・管理下に置く。……そして、あの莫大な近海資源とインフラを、我々大国が正当な『戦後処理』として四分割し、共同管理するのだ」


 大統領が、赤いペンを取り出し、日本地図の上に無慈悲な直線を三本引いた。


「北海道および東北はロシア。関東および中枢インフラは我がアメリカ。関西から西日本は中国。そして九州および四国は欧州が担当する。……文句はないな?」

『異議なし』

『我が国も直ちに極東軍を動かそう』


 彼らは、自分たちが歴史の勝者になったと信じて疑わなかった。

 日本の分割統治。

 それは、大国としての傲慢なプライドと、資源に対する際限のない強欲さが生み出した、人類の歴史における最悪の到達点だった。


     * * *


「……やはり、歴史の修正力は、彼らをまったく同じ『結論』へと導くのか」


 地球の裏側。ニヴルヘイムの地下コントロールルームで、私は低く、這うような声で呟いた。


 モニターに映し出された、赤い線で四分割された日本地図。

 その光景を見た瞬間、私の心臓の奥底で、かつてないほどに重く、ドス黒いマグマのような『激怒』が沸騰し始めるのを感じた。


 西暦2065年。私がアメリカの地下研究所のモニター越しに見た、あの絶望の光景。

 大国どもが結託し、私の家族を焼き尽くし、日本を分割統治したあの忌まわしい記憶が、目の前の現実と完全にオーバーラップ(同化)していた。


「玲奈。日本の状況は」

 私が問うと、玲奈がタブレットを素早く操作し、東京の街頭カメラの映像を展開した。


「大国の首脳陣の決議と同時に、すでにアメリカの第七艦隊、ロシアの太平洋艦隊、中国の北海艦隊の残存部隊が、日本近海の封鎖を開始しています。さらに各国の輸送機が、成田、羽田、関西国際空港などに続々と着陸の準備を進めている模様です。……日本政府の官僚たちは、為す術もなく恐慌状態に陥っています」


「彼らは自分たちの覇権を守るためならば、他国の主権を蹂躙し、何百万人の市民の平和な日常を平然と踏みにじる。その根源的な腐敗と狂気は、どれほど未来の技術で脅しをかけようとも、決して治ることはないのだな」

 私は、ギリッと奥歯を噛み締めた。


 私がどれほど防壁を厚くしようとも。彼らの軍事プロジェクトを自滅に追い込もうとも。

 彼らは「大国」という皮を被った獣の群れだ。その本質を叩き潰さなければ、私の家族の真の平穏は永遠に訪れない。


「……彼らをこのまま夢の中で遊ばせておく時間は、終わった」


 私はゆっくりと立ち上がり、コントロールデスクに両手をついて画面を睨みつけた。


「彼らは、私が『数百万の飽和攻撃』の前に屈し、地下に逃げ込んだ敗北者だと確信している。そして、私の祖国を分割し、勝利の美酒に酔いしれている」

 私は、窓ガラスに映る自分の極低温の瞳を真っ直ぐに見据えた。


「その傲慢な希望の頂から、彼らを一気に、そして永遠に這い上がれない絶望の底へと叩き落とす。……クリス、タングステン弾の射出準備は整っているな?」


『ヒャッハー!! 待ってたぜボス! 俺の指はもう限界だ!!』

 南太平洋のさらに地下深く、動力炉の制御室から、Dr.クリス・ウォーカーの狂気に満ちた咆哮が響き渡った。

電磁加速砲レールガンへの通電は完了してる! いつでも発射シークエンスに移行できるぜ!』


「よし。軌道上の『神のトール・ハンマー』の最終セーフティを解除しろ」

 私は、冷酷な死神の声で命じた。

「ターゲットは、太平洋上に展開し、我々の島を包囲している『G4合同大艦隊』だ」


『了解だぜ!! 連中の艦隊のド真ん中に、宇宙からの『物理的な重み』をぶち込んでやる!!』


クリスがエンターキーを叩き割らんばかりの勢いで打ち込んだ瞬間。

 サイバー・コントロールルームの照明が一段階暗くなり、無数のモニターが一斉に真っ赤な『臨戦態勢』の表示へと切り替わった。


『――トール・ハンマー・プロトコル、最終フェーズ。電磁加速砲へのエネルギー充填率100パーセント』

 無機質なAIの電子音声が、冷たく響き渡る。

 壁面の巨大なホログラム・マップでは、高度四百キロメートルの宇宙空間を周回していた十字型の要塞が、光学迷彩を解き、その巨大な砲身を地球の海面へ向けて深く傾けていく様子が描かれていた。


「ボス。第一波から第百波まで、ターゲット・ロック完了しました」

 玲奈が、猛烈な速度でキーボードを叩きながら報告する。

「大気圏への突入角度、すべて『スキップ軌道』で計算終了です。タングステン弾の周囲にプラズマの被膜を展開し、大気との摩擦熱を相殺します。マッハ二五(秒速八キロメートル)という極超音速の質量兵器として、艦隊の真上から正確に撃ち下ろされます。……着弾まで、あと百二十秒」


「見事だ」

 私は、深く息を吐き出し、モニターに映る太平洋の海図を見下ろした。


これこそが、圧倒的な物量を誇る大国に対する、私からの『真の回答』だ。

 ミサイルの雨を凌ぐのではなく、その雨を降らせている雲の根本を、神の力で物理的に消滅させる。


「彼らが、歓喜の絶頂で自らの勝利を確信している、まさにその瞬間に」

 極東の悪魔の瞳には、一切の躊躇も慈悲もなかった。


宇宙そらから、裁きの槍を降らせてやれ」


愛する家族が笑う地下の聖域の上で。

 人類最大の軍事力と、宇宙からの絶対的な質量兵器が激突する『真の審判の日』が、ついにその幕を開けようとしていた。

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