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神の雷(トール・ハンマー)〜家族を奪われた天才物理学者の逆行転生。未来の知識で四大勢力に復讐する〜  作者: 天音天成
第4章:歴史の分岐点〜孤島攻防戦〜

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第76話 空を埋め尽くす絶望と、神の盾(アイギス)の起動

 南太平洋の赤道直下に位置する、絶海の孤島要塞『ニヴルヘイム』。

 その周囲数百キロメートルの海域を、アメリカ、中国、ロシア、欧州連合からなる『G4多国籍軍』の大艦隊が完全に封鎖していた。


 空母、イージス艦、巡洋艦、そして無数の輸送艦からなる鋼鉄の包囲網。

 アメリカ軍の空母『ジェラルド・R・フォード』の戦闘指揮所(CIC)では、多国籍軍の総司令官を務めるアメリカ海軍の提督が、戦術モニターに映る孤島のシルエットを血走った目で睨みつけていた。


「――十四年前の屈辱を、今こそ晴らす時だ」

 提督は、隣に立つ中国とロシアの連絡将校たちに向かって低く唸った。


「イージス社は、我々の最新鋭機を宇宙からのEMPで焼き切った。だからこそ我々は、高度な電子頭脳を捨てた。フライ・バイ・ワイヤも、ステルスコーティングも必要ない。ただ目標に向かって真っ直ぐに飛ぶだけの『安価な爆弾』を、奴らの処理能力を物理的に超える数だけ叩き込む!」


 彼らがこの数年間、国家予算を枯渇させてまで大量生産し、輸送艦に詰め込んできたのは、旧式の巡航ミサイル『トマホーク』のデッドコピーと、AIを持たずGPSの座標のみで突撃する無人特攻ドローンの群れだった。

 その総数は、実に数百万機。

 いかにイージス社の防衛網が強力であろうと、一日に十万、二十万という物理的な質量が雨霰と降り注げば、迎撃システムは必ず弾切れ(リロード)を起こし、あるいは砲身が焼き切れる。


「全艦隊、および後方の爆撃機部隊へ通達! 第一波、攻撃開始ファイア・アット・ウィル!」

 提督の号令と共に、大艦隊のVLS(垂直発射システム)から、無数の炎の尾が天に向けて噴き上がった。


 シュゴォォォォォッ!!


 鼓膜を劈くような轟音の連鎖。

 数千、数万の巡航ミサイルが次々と発射され、さらに輸送艦の甲板からは、カタパルトで打ち出された黒い特攻ドローンの群れが、蜂の巣をつついたように空へと舞い上がっていく。

 それは、空を黒く塗りつぶすほどの、文字通りの『飽和特攻スウォーム』だった。

 太陽の光すら遮られ、南太平洋の青い空が、大国の執念と狂気によってどす黒い死の雲へと変貌したのだ。


「行け……! 極東の悪魔を、その島ごと海の底へ沈めてしまえ!」

 提督は、レーダー画面を真っ赤に染め尽くす味方の飛翔体の群れを見て、勝利を確信した狂笑を漏らした。


 彼らは信じ切っていた。

 この絶対的な物量の前に、ひれ伏さない存在など地球上にはいないと。


     * * *


「――ボス。G4の艦隊より、第一波の攻撃を確認しました。……飛来する飛翔体の数、およそ五万」


 ニヴルヘイム地下、中央作戦司令室メイン・コントロールルーム

 橘玲奈が、壁面の巨大なホログラム・モニターを見上げながら、極めて冷静な声で報告した。

 モニターには、島を取り囲むように全方位から殺到してくる無数の赤い光点が、レーダーを完全に埋め尽くすように表示されている。


「さらに後続として、数十万機のドローン群が接近中。彼らは文字通り、空の隙間を埋め尽くすほどの『弾幕』で、我が要塞を物理的にすり潰すつもりのようです」

「ご苦労。……実に大国らしい、想像力に欠けた力技だな」


 私は、特注のレザーチェアに深く腰掛けたまま、手元のグラスに入った冷たい炭酸水を一口飲んだ。


「彼らは、私が『数に限りがある迎撃ミサイル』や『弾薬を消費する対空砲』で防御すると本気で思い込んでいる。……自らの常識の範疇でしか、物事を測れないのだ」

 私は、暗号化通信の分割画面に映るDr.クリス・ウォーカーへと視線を向けた。


「クリス。お前の『芸術品』の出番だ」

『ヒャッハー!! 待ってたぜボス! 俺の指はもうウズウズして限界だ!!』


 クリスは血走った目を見開き、コンソールに覆い被さるようにしてキーボードを激しく叩き始めた。


『いいか大国の馬鹿ども! 俺たちの要塞の地下には、深海のメタンハイドレートプラントから直結された極太のエネルギーパイプが繋がってるんだ! つまり、俺たちの撃つ「弾」は、実体を持たない『無尽蔵のエネルギーそのもの』だってことを教えてやるぜ!』


 クリスがエンターキーを叩き割らんばかりの勢いで打ち込んだ瞬間。

 司令室の照明が一段階暗くなり、代わりに無数のモニターが、一斉に青白い光を放ち始めた。


『――戦術防衛AI、完全自律モードへ移行。迎撃用量子スーパーコンピュータ、稼働率100パーセント。……『完全自律型プラズマ・迎撃システム(アイギス・シールド)』、起動します』


 無機質なAIの電子音声が、司令室に冷たく響き渡る。


 その瞬間、孤島『ニヴルヘイム』の地表の至る所――ジャングルの木々の間、偽装された岩肌、そして海岸線の地下サイロから、無数のパラボラ状の『砲台』が一斉に姿を現した。

 砲身は存在しない。あるのは、強力な磁場を形成するための超電導リングと、その中心で青白く瞬くプラズマのコアだけだ。


『全飛翔体の軌道、ミリ秒単位で予測完了。……迎撃開始ファイア


 AIの音声と共に、島全体から、数百、数千の『青白いレーザーのような光の束』が、音もなく空へ向けて放射された。


 シュバッ! バキィィィンッ!!


 空を埋め尽くして飛来していた五万発の旧式ミサイルと特攻ドローン。

 それらが島の上空五十キロメートルの防空圏に侵入した瞬間、下から立ち上った青白いプラズマの光線が、正確無比にその弾頭と胴体を貫いた。


 爆発すら、起きなかった。

 数万度に達するプラズマの熱線を浴びたミサイルたちは、その運動エネルギーを保ったまま、空中で一瞬にしてドロドロに溶解し、次いで文字通り『蒸発』したのだ。

 まるで、巨大な見えないシールドに衝突して、チリとなって消え去っていくかのように。


『ハッハッハッ!! 見ろよボス! 俺のアイギス・シールドの前じゃ、何万発撃ち込もうが、ただの「雨粒」が蒸発するのと変わらねえ!』

 クリスが狂喜の絶叫を上げる。


『量子スーパーコンピュータが、飛んでくるすべてのゴミの軌道を先読みして、一番効率の良い順番でプラズマを照射し続けてる! 熱暴走を防ぐための海水冷却システムも完璧だ! 弾切れもオーバーヒートも、未来永劫起きねえぜ!!』


 モニターの映像では、空を黒く染めていた大国のミサイル群が、島の上空で次々と青白い閃光に飲み込まれ、不気味なほど静かに消滅し続けている。

 それは戦闘というよりも、巨大な焼却炉にゴミが放り込まれていくような、一方的で作業的な光景だった。


「見事だ。彼らの『飽和』という概念そのものを、物理的に焼き尽くしているな」

 私は、完璧に機能する防衛網を見上げ、冷酷な笑みを深めた。


「ボス。G4の艦隊司令部では、現在完全なパニックが起きているようです」

 玲奈が、傍受した通信ログのデータを展開しながら嘲笑った。

「彼らのレーダー上では、放ったミサイルが島に届く前に次々とロストしていくため、『何が起きているのか全く理解できない』と悲鳴を上げています」


     * * *


「な……何が起きている!? 第一波の五万発が、すべて撃ち落とされただと!?」


 空母の戦闘指揮所(CIC)で、提督が信じられないものを見る目でモニターに噛み付いていた。


「着弾の報告は!? 一発くらいは島の施設に着弾したはずだろう!」

「ぜ、ゼロです! 被害報告はおろか、爆発の閃光すら観測されていません! すべての飛翔体が、島の上空五十キロのラインで、突如としてレーダーから消失しています!!」

 オペレーターが、恐怖で裏返った声で叫ぶ。


「馬鹿な……! 迎撃ミサイルを撃っている形跡もないのに、五万発のミサイルが空中で消えるなどという物理現象があるわけがない!」

 中国の連絡将校が、頭を抱えて絶叫した。

「奴ら、一体どんな魔法を使っているんだ……!」


「ひ、怯むな! 第二波、第三波を出し続けろ!」

 提督は、額から滝のような冷や汗を流しながら、半狂乱で怒号を飛ばした。

「相手がどんな防空システムを持っていようと、限界は必ず来る! すべてのドローンとミサイルを撃ち尽くしてでも、あの島を海の底へ沈めるんだ!!」


 大国のプライドと、後戻りできない狂気に取り憑かれた彼らは、もはや自らの目を塞ぎ、ひたすらに飛翔体を空へ打ち上げ続けるしかなかった。


 だが、彼らが何十万、何百万という特攻兵器を空へ解き放とうとも。

 ニヴルヘイムの島から立ち上る青白いプラズマの壁は、一切の揺らぎを見せることなく、ただ無慈悲に、そして粛々と、すべての飛翔体を空中で蒸発させ続けていた。


     * * *


「――大国どもは、自らの『希望』が通用しない現実を受け入れられず、無駄な弾幕を張り続けているようですね」


 サイバー・コントロールルームで、玲奈が呆れたようにため息をついた。

「いくら撃ち込んでも、すべてが空中でチリになるだけ。……彼らが国家予算を枯渇させてまで用意した人類最大の軍事力が、ただの『花火大会以下の無意味な浪費』に終わる。彼らの絶望は、どれほどのものになるでしょうか」


「まだだ、玲奈。彼らの絶望は、こんなものでは終わらない」


 私はレザーチェアから立ち上がり、コントロールデスクに両手をついた。

 壁面のホログラム・モニターには、空を埋め尽くす敵のミサイル群と、それを完璧に防ぎ切るアイギス・シールドの光が美しく交錯している。


「ヴィクトル、聞こえているか」

 私が呼びかけると、分割画面に完全武装したヴィクトル・イワノフの姿が映し出された。彼は今、島の海岸線に築かれた第一防衛ラインの地下壕で、シャドウの精鋭たちと共に待機している。


『はっ。地上の防衛線、異常ありません。……しかしボス、空からの飽和攻撃が通用しないと悟れば、連中は必ず『次の手』に出ます』

「ああ。空が駄目なら、次は『海』だ」


 私は、モニターに映る太平洋の海中ソナーのデータを指し示した。


「彼らは、潜水艦からの海中魚雷や、レーダーを掻い潜る海面すれすれの無人特攻ボートによる、水際からの波状攻撃に切り替えてくるだろう。……空のプラズマ迎撃の死角を突こうという算段だ」


『愚かな。我々の第二のスウォーム・ドローンの存在を知らずに、自ら死地へ飛び込んでくるとは』

 ヴィクトルの顔に、獲物を待ち構える狼の獰猛な笑みが浮かぶ。


「彼らに、海すらも我々の領域であることを教えてやれ。……島に近づくあらゆる有機物・無機物を、一粒残らずすり潰せ」


『御意のままに。……極東の悪魔の真の恐ろしさを、彼らの骨の髄まで刻み込んでご覧に入れます』


 通信が切れ、私は深く息を吐き出した。


 空を焦がす無数のミサイルと、それを焼き尽くすプラズマの閃光。

 人類の歴史上、最も激しく、そして最も『一方的な』防衛戦は、まだその序幕を開けたに過ぎない。

 大国どもが国家の命運を懸けて放つすべての暴力が完全に粉砕されたその瞬間に、私が宇宙から下す本当の『絶望の裁き』に向け、冷酷なカウントダウンは確実にゼロへと近づいていた。

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