第7話 ちゃぶ台の上の世界覇権と、一億ドルの降伏
「迂回する? 裁判で破滅させる? ……どうぞご勝手に」
私は手元にあったガラケーを操作し、ちゃぶ台の上にコトリと置いた。
小さな液晶画面には、英文とハングルで書かれた数通の受信メールが表示されている。
「韓国のサムスン電子と、中国のファーウェイ極東支局から、それぞれ明日の午後に私と面会したいという熱烈なアポイントが入っている。彼らなら、君たちよりよっぽど話が分かるかもしれないな」
『――ッ!?』
リチャードの顔面から、一瞬にして血の気が引いた。
傍らに控えていた法務担当のエリート日本人も、信じられないものを見るようにガラケーの画面を覗き込み、息を呑んだ。
APEX社の最大のライバルたち。もし私のこの『次世代マルチタッチパネル』の技術が彼らの手に渡ればどうなるか。
数年先まで、いや、永遠にスマートフォンの市場シェアを完全に奪われることになる。それはAPEX社にとって、会社の存続すら揺るがす絶対に避けなければならない最悪のシナリオだ。
「さあ、どうする? 特許の全額買い取りには絶対応じない。私が要求するのは『ライセンス契約』だ」
私は彼らの焦燥をせせら笑うように、静かに、だが絶対的な威圧感を込めて条件を突きつけた。
「我が社の技術を組み込んだ端末一台につき、利益の数パーセントをライセンス料として永続的に支払うこと。御社と独占契約を結んでやってもいいが、そのための初期契約金として、最低でも一億ドル(約百億円)を要求する」
『い、一億ドルだと!? 馬鹿な、そんな額、極東の統括本部長である私の権限では……絶対に決済できない!』
「なら、今すぐカリフォルニアの本社に電話をかけろ。ミラーか、あるいはCEOに直接繋いでもいい。私の技術の真の価値と、それをライバル企業に奪われることの恐怖は、彼らが一番よく理解しているはずだ」
私の有無を言わさぬ覇気に当てられ、リチャードはガタガタと震える手でスマートフォンを取り出し、本社へと国際電話をかけた。
時刻はアメリカ西海岸の深夜。だが、事態の深刻さに開発責任者のミラー、そしてAPEXのCEOが即座に電話口に出たようだ。
リチャードが早口の英語で状況と私の要求を伝えると、電話の向こうから、通話漏れするほどの凄まじい怒号が響き渡った。
『――ふざけるなリチャード! その男を絶対に逃がすな! 一億ドルだろうが十億ドルだろうが払ってやる! 今すぐその場で契約書にサインさせろ!!』
CEOの悲痛な叫びに、リチャードは「イエス、ボス……」と蚊の鳴くような声で答えるしかなかった。
――数分後。
電話を切ったリチャードは、滝のような汗を流しながら、私の前で深々と頭を下げた。いや、半ばちゃぶ台に額を擦りつけるような、土下座に近い姿勢だった。
『……ミスター・カミタテ。あなたの、条件を、呑みます。独占契約金一億ドル、および、端末ごとのライセンス料の支払い……すべて、要求通りに』
先ほどまでの傲慢なエリートの面影はどこにもない。
完全にプライドをへし折られ、圧倒的な『力』の前にひれ伏す敗者の姿がそこにあった。
「商談成立だ。法務手続きは、後日そちらの弁護士と進めよう」
私は冷めた麦茶を一口飲み、彼らに退室を促した。
これが、世界を支配する大国や巨大企業との、正しい付き合い方だ。
彼らは自分より下の者にはどこまでも傲慢だが、圧倒的な力を見せつけられれば、いとも容易く這いつくばる。
2065年、日本の富を不当に奪い、祖国と家族を焼き払った四大勢力の連中にも、いずれ同じように――いや、数万倍の絶望と恐怖を味わわせて這いつくばらせてやる。
「……ふふっ、あはははっ」
彼らが逃げるようにボロアパートから去った後、私は一人で声を上げて笑った。
口座に振り込まれる百億円という莫大な軍資金。
ここから、私の『神の雷』建造計画が、いよいよ本格的に動き出すのだ。
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