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神の雷(トール・ハンマー)〜家族を奪われた天才物理学者の逆行転生。未来の知識で四大勢力に復讐する〜  作者: 天音天成
第1章:逆行と起業と無双

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第6話 ボロアパートへの来訪者と、傲慢な買収劇

 APEX社にあのメールを送信してから、わずか三日後のことだった。


 うだるような暑さの阿佐ヶ谷。

 結衣がパートへ出かけ、私が一人で今後の組織図を練り上げていると、築四十年のボロアパートの前に、不釣り合いな黒塗りの最高級ハイヤーが横付けされた。


 車から降りてきたのは、仕立ての良いイタリア製のスーツに身を包んだ三人の男たち。

 先頭を歩くのは、APEX社の極東アジア統括本部長を務める白人男性、リチャード・コールマン。その後ろには、通訳兼法務担当のエリート日本人と、護衛らしき屈強な男が続いている。


 彼らは汗だくになりながら外階段を上り、私の部屋のチャイムを鳴らした。


「失礼いたします。APEX社の極東アジア統括本部長、リチャード・コールマンです。本日は神盾宗一様とお約束を――」


 ドアを開けた彼らは、絶句した。

 無理もない。世界時価総額トップクラスの巨大企業の幹部を出迎えたのは、色褪せた畳に、歪んだちゃぶ台、そして首を振る古びた扇風機という、あまりにも貧相な六畳一間だったのだから。


「……ここが、あのオーパーツを生み出したラボ、ですか?」

 日本人エリートが、信じられないという顔で室内を見渡す。


「狭くて悪いな。適当に座ってくれ。麦茶くらいなら出せるが?」

 私が胡坐をかいたままそう言うと、彼らは露骨に眉をひそめながらも、高級スーツの裾を汚さないように気をつけながら畳に正座した。


 本部長のリチャードが、鷹揚な笑みを浮かべて口を開く。


『ミスター・カミタテ。単刀直入に言いましょう。我々はあなたの送ってきたプロトタイプの動画と、特許庁のデータベースに強い感銘を受けました。我が社の次期デバイスに、あのアルゴリズムを独占採用したい』


「光栄だね。で、条件は?」


『我々APEX社は、あなたの特許権をすべて買い取ります。提示額は……三百万ドル(約三億円)です。日本の若き研究者にとって、一生遊んで暮らせる破格の額でしょう』


 通訳の男がドヤ顔で日本語に翻訳する。

 彼らの腹の内は透けて見えていた。

 どこの馬の骨とも知れない若造が、偶然スゴイものを発明してしまった。ボロアパートに住む貧乏人なら、三億円という大金をちらつかせれば、有頂天になって尻尾を振り、権利をすべて明け渡すだろう、と。


 あまりにも舐め腐った態度に、私は笑いを堪えきれなかった。


「……くくっ、あっはははは!」

『な、なにがおかしいのですか!』

「いや、失礼。世界最高のテック企業が、随分とセコい商売をするものだと思ってね。三億円? その額で、あのアルゴリズムの価値の『一万分の一』でも買えると思ったか?」


 私の冷ややかな声に、リチャードの顔から愛想笑いが消えた。


「いいか、リチャード。君たちの開発部門が現在抱えている問題を教えてやろう」

 私はちゃぶ台の上に肘をつき、彼らの目を真っ直ぐに見据えた。


「次期モデルである『第4世代』スマートフォンの試作機は、静電容量方式のタッチパネルのチューニングに致命的な欠陥を抱えている。特に、指がわずかに湿っている状態での誤作動率が15%を超えているはずだ。さらに、君たちが来年リリースを予定しているOSのアップデートには、マルチタスク機能の追加が組み込まれている。だが、現状のタッチ制御の遅延レイテンシでは、ユーザーはストレスで端末を壁に投げつけるだろうな」


『なっ……!?』


 リチャードと法務担当の男が、同時に息を呑んだ。

 それはAPEX社の本社開発部と、限られた役員しか知らないトップシークレットだ。外部の人間が知り得るはずのない情報である。


『き、貴様、なぜ我が社の極秘情報を……ハッキングしたのか!?』

「私の知能ならそれも容易いが、そんな下品な真似はしない。現在の未熟な素材産業のレベルと、君たちが公開している過去の特許群を逆算すれば、次にどこで壁にぶつかるかなど、小学生のパズルより簡単に予測できる」


 私は扇風機の風を浴びながら、冷たい視線で彼らを見下ろした。


「私の技術がないと、君たちの次期モデルは確実な『失敗作』になる。株価は暴落し、ジョブズの威光に泥を塗ることになるぞ。それを、たった三億円のハシタ金で解決しようなどと……笑わせるな」


 図星を突かれ、青ざめたリチャードの顔に、明確な『焦り』と『怒り』が浮かんだ。

 超大国のエリートとして見下していた相手に、完全に手玉に取られていることに気づいたのだ。


『……っ、ふ、ふざけるな! 我が社を脅迫するつもりか!』


 リチャードはついに本性を現し、威圧的な声で吠えた。


『あなたのような無名の個人の特許など、我が社の強大な法務部と資金力で、いくらでも迂回して無効化できるんだぞ! これ以上の欲をかくなら、一セントも払わずに裁判で君を破滅させることもできる!』


 脅し文句を吐き捨てるエリートたち。

 だが、私はその言葉を聞いて、さらに深く、悪魔のように微笑んだ。

 彼らがそう吠えることすら、歴史の確定事項のように分かっていたからだ。


「迂回する? 裁判で破滅させる? ……どうぞご勝手に」


 私は手元にあったガラケーを開き、ちゃぶ台の上にコトリと置いた。

 そこには、世界経済の勢力図を根底から覆す、決定的な『カード』が握られていた。

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