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神の雷(トール・ハンマー)〜家族を奪われた天才物理学者の逆行転生。未来の知識で四大勢力に復讐する〜  作者: 天音天成
第2章:暗闘と影の軍団

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第21話 宇宙への野望と、資源の壁

今後のストーリー展開の為、第2部:第21話以降を大幅に改稿いたしました

 西暦2016年、春。

 私がアメリカのCIA工作員を代々木公園で『蒸発』させ、宇宙開発への本格的な進出を宣言してから、約三年の歳月が流れていた。


 前世で私がアメリカの地下研究所で絶望に呑まれ、自ら命を絶ったあの年から数えれば、実に五十年以上も過去の時代である。


「パパ、みてみて! おしろ、できたよ!」


 都内の超高級タワーマンションの最上階。防弾ガラスと最新鋭のセキュリティシステムによって厳重に守られた広大なリビングで、私は四歳になった愛娘のサチコとブロック遊びに興じていた。


「おお、これは見事な城だ。この高さでありながら全く崩れない。土台の重心計算と、各層の力学的な荷重分散が見事に成立している。サチの空間認識能力は間違いなく天才の領域だ。いずれイージス社の次世代ロケットの設計は君に任せよう」

「えへへー、パパ、もっともっとたかくする!」


 満面の笑みでカラフルなブロックの塔を自慢してくるサチコの頭を撫でると、彼女は私の胸に無邪気に飛び込んできた。

 生後八ヶ月だったあの頃から時が経ち、彼女は言葉を流暢に操り、元気に走り回るようになった。その健やかな成長の過程を一日も逃すことなく見守れることは、私の冷え切った魂にとって唯一の救済であり、絶対的な光だった。


「もう、宗一くん。あまり甘やかさないでよね。お城っていうか、ただ同じ色のブロックを縦に積んだだけじゃない」


 アイランドキッチンから、エプロン姿の結衣が呆れたように笑いながら麦茶の入ったグラスを運んでくる。

 結衣の体調も万全だ。私の資金とコネクションを使って定期的に世界最高峰の医療チームによる検診を受けさせており、前世で彼女を奪った病魔の影すら一切寄せ付けていない。


「いいや、サチの積むブロックには完璧な黄金比が隠されている。彼女の才能は私が保証する」

「はいはい、世界を牛耳る親バカCEOは、休日の午後くらいお仕事の小難しい言葉を忘れてちょうだい」


 結衣はクスリと笑い、私とサチコの隣の絨毯に腰を下ろした。

 幸せな時間だ。この温もりに満ちた空間こそが、私が何に代えても守り抜くべき世界のすべてだった。


『――ピィーッ……通信エラー。対象のシグナルをロストしました』


 不意に、脳裏に鋭いノイズが走る。

 私がどれだけ平和を享受しようとも、前世でこの愛する家族が青白い閃光に飲み込まれ、一瞬にして消滅したあの光景が、フラッシュバックとして私の魂を苛むのだ。


 ホログラムの映像越しに見た、二十歳に成長した孫のユウキと、五十三歳のサチコ。

 彼らが何か言葉を発しようと口を開きかけた瞬間、音すらも置き去りにする超絶的なプラズマの爆圧が新宿のマンションを包み込んだ。

 彼らは悲鳴を上げる間も、痛みに顔を歪める時間すら与えられず、私の目の前で一瞬にして黒い炭の塊となり、光の奔流の中に完全に消滅した。


 アメリカ、中国、ロシア、欧州連合。あの『四大勢力』と呼ばれる強欲なハイエナたちは、私が何もしなければいずれ必ず結託し、この美しい日常を無慈悲に焼き尽くす。

 私は彼らを許さない。絶対にだ。


「パパ? どうしたの? こわいかおしてるよ?」

「……いや、なんでもないよ。サチのお城が崩れないか、真剣に見ていただけだ」


 私は柔和な父親の仮面を被り直し、愛娘を優しく抱きしめた。

 サチコが私の膝の上で遊び疲れてスヤスヤと寝息を立て始めたのを見計らい、私はそっと彼女をソファに寝かせ、結衣に目配せをした。


「少し仕事の連絡が入っている。書斎に行ってくるよ」

「うん、いってらっしゃい。あまり根詰めないでね」


 書斎の重厚な防音ドアを閉めた瞬間。

 私の顔から「良き父親」の甘い笑みが完全に抜け落ち、絶対零度の冷徹な独裁者の顔へと切り替わった。


     * * *


「――通信状況はクリアです、ボス」


 書斎の大型モニターに映し出されたのは、六本木ヒルズのイージス・イノベーションズ本社に詰めている橘玲奈の姿だった。

 洗練されたスーツに身を包んだ彼女は、相変わらず冷徹で優秀な私の右腕として、世界中から莫大な富を吸い上げる役目を完璧にこなしている。


「休日に申し訳ありません。ですが、宇宙開発部門の資材調達に関して、急を要する問題が発生しましたので」

「構わん。状況を報告しろ」


 私はレザーチェアに深く腰掛け、玲奈から送られてきたデータをタブレットで開いた。


「現在、我が社の自律型ロケットの打ち上げは月六回のペースで安定しています。低軌道上に展開された次世代通信衛星の数は数千基を突破し、全世界の主要都市でイージスの無料超高速通信網ネットワークが本格稼働を開始しました」

「ああ。世論は完全に我々の味方だ。アメリカのペンタゴンも、表立って妨害はできていないはずだが?」


「はい、軍事面での直接的な干渉はありません。……ですが、ボスの予測通り、経済面での『兵糧攻め』が本格化しました」


 玲奈の表情が険しくなる。彼女はタブレットに、世界地図と複雑な貿易グラフを表示させた。


「中国とロシアです。彼らはイージス社の異常なロケット打ち上げペースと、独自の通信網によるインフラ支配に強烈な警戒感を抱き始めました。表向きは『国内需要の増加』や『環境保護』を理由にしていますが……実態は、我が社に対するレアアース、および特殊チタン合金の輸出制限です」

「ほう」

「先月から関連素材の関税が五百パーセントも引き上げられ、我が社がチャーターした輸送船の出港許可も、港湾当局によって意図的に遅延させられています」


 私はその報告を聞き、小さく鼻を鳴らした。

 三年前に玲奈自身が懸念していた『資源の壁』が、ついに現実のものとなったわけだ。


 宇宙開発には、莫大なエネルギーと特殊な素材が必要不可欠だ。機体のボディ、電子基板、ロケットエンジンの耐熱材。その多くにレアアース(希土類)やレアメタルが使用されている。現在、その供給の大部分を握っているのは中国やロシアといった四大勢力だ。

 彼らはイージス社のオーバーテクノロジーを恐れつつも、資源という絶対的な『首輪』を握っている限り、いつでもこの極東の企業をコントロールできると踏んでいるのだろう。


「さらに、ロケットの燃料精製やパーツ製造に必要な莫大な電力コストも馬鹿になりません。日本の電気料金は世界的に見ても高く、化石燃料の大半を中東からの輸入に頼っている現状では、これ以上の打ち上げペースの加速は財務的にも物理的にも大きな足枷となります」

「資源とエネルギー。国家の根幹を他国に握られている限り、真の独立は果たせない、か」


 私が宇宙に打ち上げているのは、ただの通信衛星ではない。

 その内部には、四大勢力に復讐を下すための悪魔の兵器『神のトール・ハンマー』の基幹パーツが偽装されて組み込まれている。軌道上で完全な兵器ネットワークを構築し、四大勢力の主要都市の頭上に照準を固定するためには、あと数千基の打ち上げが必要になる。

 四大勢力の顔色を窺いながら細々と資材を調達していては、計画は頓挫する。


「ボス。このままでは、来年度の打ち上げスケジュールに深刻な遅れが生じます。中国政府の幹部に裏金を回して特別枠を確保するか、あるいは……」

「必要ない」


 私は玲奈の提案を一刀両断し、自らのタブレットから別の回線を開いた。


「南太平洋の要塞ニヴルヘイムのクリス、および洋上の作戦部隊。状況はどうなっている?」


 モニターの半分に、狂気の天才物理学者、Dr.クリス・ウォーカーの顔が映し出された。


『ヒャッハー!! ボス、待ちくたびれたぜ! こっちの準備はとっくに終わってる!』

 クリスは興奮で目を血走らせながら、一枚のレポートを画面に押し付けてきた。

『あんたが設計した『自律型海底無人掘削機クラーケン』のプロトタイプ! 伊豆諸島沖の指定海域で、極秘のテスト稼働を完了したぜ!』


 私はその報告を聞き、玲奈に向けて「見ろ」と顎でしゃくった。

 玲奈のモニターにも、深海のカメラが捉えた驚愕の映像が転送される。


 太陽の光など一切届かない、水深三千メートルの漆黒の闇の中。

 そこに、全長数十メートルにも及ぶ巨大な深海魚のような無人機が、超電導素材で作られたアンビリカルケーブル(命綱)を引きながら海底に張り付いていた。

 従来の海底掘削で使われるような、無骨な金属のドリルは存在しない。


『見ろよこの芸術的な掘削プロセスを! プラズマ技術の応用で、海底の地盤を物理的に削るのではなく、分子レベルの結合を『剥離』させている! 摩擦も振動もゼロだ!』

 クリスが早口でまくしたてる。

『海底三千メートルに眠るメタンハイドレートの塊と、レアアースをたっぷり含んだ泥が、まるでスムージーみたいに洋上のダミータンクへと吸い上げられた! 採掘コストのシミュレーション結果は、中東の原油プラントの『十分の一』以下だ! 物理法則を凌駕したぜ!!』


「……信じられません」

 玲奈が、画面に表示された成分データとコスト計算書を見て、絶句していた。


「日本近海に莫大なメタンハイドレートと海底レアアースが眠っていることは知っていましたが……深海からの採掘コストが高すぎて、商業ベースには絶対に乗らないというのが世界の常識です。政府も予算を打ち切って事実上匙を投げていたのに」

「それは『現在の技術』での話だ」


 私は冷たい笑みを浮かべた。


「他国に資源の首根っこを掴まれているのなら、自前で調達するまでのこと。我々の足元には、手つかずの黄金の海が広がっている。……このデータがあれば、政府の化石どもも完全に沈黙するだろう」


 前世の2065年。日本が四大勢力に狙われ、分割統治の憂き目に遭った最大の理由は、日本がこの近海資源の採掘に成功し、世界を牛耳る『完全な資源自給大国』へと変貌したからだ。

 私は今世で、それを未然に防ぐつもりはない。

 むしろ、私の未来技術を使って意図的に日本を資源大国へと押し上げ、彼らの焦りを煽り、欲望を刺激する。コソコソと裏で結託され、気づかぬうちに首を絞められる前に……私が意図的に撒いた極上の『餌』で、彼らを強制的に引きずり出すのだ。


「玲奈。三年間進めてきた、日本政府へのロビー活動の総仕上げだ」

「……はい」

「明日、霞が関のエネルギー関連省庁のトップたちとの極秘会議をセッティングしろ。この圧倒的な実証データを叩きつけ、彼らのちっぽけな常識とプライドを粉々に砕いてやる」


 玲奈は深く息を吐き出し、すぐさま元の有能なCFOの顔へと戻った。


「了解いたしました。ですがボス……日本がこれほどの資源を手に入れれば、四大勢力は黙っていません。彼らは必ず、この極東の島国へ牙を剥きます。世界のパワーバランスを破壊するということは、そういうことです」

「わかっている。極東の狩り場に群がってきたハイエナどもは、私が一匹残らず地獄へ叩き落とす」


 私はレザーチェアから立ち上がり、窓の外に広がる東京の夜景――いまだ資源を海外に依存し、高い電気代を払いながら光を灯しているこの国の中枢を見据えた。


 明日、私は霞が関に乗り込む。

 そして、この極東の島国を『世界最大の資源大国』に変貌させ、世界地図を塗り替える引き金を、私自身の手で引くのだ。


 宇宙の野望を満たし、復讐を完遂するための絶対的な土台作り。

 『黄金の海』を開く決断が、静かに、そして冷酷に下されたのだった。

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