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神の雷(トール・ハンマー)〜家族を奪われた天才物理学者の逆行転生。未来の知識で四大勢力に復讐する〜  作者: 天音天成
第2章:暗闘と影の軍団

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第22話 霞が関の極秘会議と、常識を粉砕する未来のデータ

 西暦2016年、春。

 日本の政治・行政の中枢である霞が関。その地下深く、経済産業省が管理する最高レベルの防諜セキュリティが施された極秘会議室は、ひどく冷たく、そして敵対的な空気に包まれていた。


 巨大なマホガニー製の円卓を囲むように座っているのは、日本政府のエネルギー政策を担う各省庁のトップ高官たち。そして、日本の海洋工学・地質学の権威として君臨する大御所の老学者たちだ。

 彼らの視線の先に立っているのは、二十代後半という若さで世界経済を牛耳る私、神盾宗一と、イージス社のCFOである橘玲奈の二人だけである。


「……さて、神盾社長。お忙しい中ご足労いただいたのは他でもない。昨日、貴社から突然送られてきた『ポセイドン計画』とやらについて、真意を伺いたい」


 資源エネルギー庁のトップである長官が、眉間に深い皺を寄せながら口火を切った。

 それに続くように、海洋地質学の最高権威であり、政府の有識者会議の座長を務める権田ごんだ教授が、手元の資料をテーブルに放り投げながら、鼻で嘲笑った。


「読ませてもらったがね、神盾君。いくら君がIT分野やバッテリー技術で世界的な成功を収めたからといって、少々現実離れが過ぎるのではないかな?」


 権田教授は、私を「若造」と見下すような視線を隠そうともしなかった。


「日本海溝および南海トラフにおける、メタンハイドレートと海底レアアースの『完全な商業採掘』だと? 確かに我が国の近海には、中東の原油に匹敵する莫大な資源が眠っている。それは我々も長年の地質調査で把握していることだ。だがね、水深三千メートルの深海から、安全かつ低コストで資源を引き上げる技術など、現在の地球上には存在しないのだよ」


 教授は勝ち誇ったように、自らの専門知識をひけらかし始めた。


「深海の超高水圧、極低温。これらに耐えうる掘削パイプの素材はない。仮にあったとしても、巨大なドリルを回転させて岩盤を削れば、数日でドリルの刃が摩耗して限界を迎える。刃を交換するために深海と海上を往復するだけでも天文学的なコストがかかるのだ。掘削コストが利益を圧倒的に上回る以上、商業採掘など永久に不可能。それはただの『夢物語』だ」


 他の高官たちも、権田教授の言葉に同調するように深く頷いた。

 かつて大物議員だった大河原を私が裏で失脚させて以来、彼ら官僚たちはイージス社の莫大な資金力には逆らえないものの、自分たちの専門分野においては「IT成金が知った口を利くな」というプライドを持っているのだ。


 私は彼らの傲慢な態度と、浅薄な『常識』に、内心で冷ややかな笑みをこぼした。


「夢物語、ですか。……先生方は、五年前、私が『全固体電池』の論文を発表した際、日本の学会が何と評価したかご記憶にありますか?」


 私の静かで冷徹な声が響いた瞬間、会議室の空気がピタリと凍りついた。


「『机上の空論』『実用化には五十年かかる』と、今のあなた方と同じように嘲笑されましたよ。……その結果どうなりましたか? 現在、世界の自動車産業の覇権を握っているのは我が社であり、先生方の息のかかった国内メーカーは、我が社のライセンスにすがりついて生き延びている状態です」


「ぐっ……そ、それは……専門外のことで我々には……」

 権田教授が顔を赤くして言葉を詰まらせる。


「過去の常識で、私の技術を測ろうとしないでいただきたい。時間の無駄です。玲奈」

「はい、ボス」


 私の合図で、玲奈が手元のタブレットを操作し、会議室の巨大モニターに詳細な設計図とシミュレーション映像を投影した。


「イージス・イノベーションズが独自開発した『次世代型メタンハイドレート抽出プラント』、および『自律型海底無人掘削機クラーケン』の構造図です」

 玲奈の凛とした声が響き渡る。


「特殊な超電導素材を用いた掘削パイプは、深海の異常な水圧と極低温の影響を一切受けません。さらに、掘削機はAIによる完全自律制御。人間が潜水艇で深海に潜る必要はなく、海底の地殻変動をリアルタイムで予測し、最も安全なルートで資源を吸い上げます」


「馬鹿な! だから深海での動力源はどうするのだ!? 地盤を削るためのドリルはどうする!」

 別の学者が立ち上がり、声を荒げた。


「ドリルなどという原始的なものは使いません」

 私は彼を冷たく見据え、手元のリモコンを操作した。


「プラズマ技術の応用です。地盤を物理的に『削る』のではなく、分子レベルの結合を『剥離』させる。これにより、摩擦による刃の摩耗も、地盤崩落の引き金となる振動も騒音も一切出さず、半永久的に海底の泥ごと資源を吸い上げることが可能になります。……このプラントが完成すれば、採掘コストは中東の原油プラントの『十分の一』以下となります」


「じゅ、十分の一だと!? そんな馬鹿な! 物理法則を無視している! 深海でプラズマを発生させれば、海水が沸騰して大爆発を起こすはずだ!」

「無視しているのではなく、あなた方の理解が及んでいないだけです。海水による強制冷却システムと磁場干渉の相殺アルゴリズムは、すでに特許出願済みです」


 私は彼らの言葉を完全に切り捨て、さらに決定的な証拠データをモニターに映し出した。

 それは、伊豆諸島沖で秘密裏に行われた、実証実験の映像とテレメトリーデータだった。


 太陽の光など一切届かない、漆黒の深海三千メートル。

 そこに、全長数十メートルにも及ぶ巨大な深海魚のような無人機クラーケンが、音もなく海底に取り付いていた。

 機体の先端から青白いプラズマの閃光が放たれ、岩盤がまるで熱したナイフに当てられたバターのように滑らかに溶け、剥がれ落ちていく。

 無数のパイプから、超高純度のメタンガスとレアアースを含んだ泥が凄まじい勢いで吸い上げられ、洋上のダミータンクを満たしていく映像。


「すでに、極秘裏に伊豆諸島沖でテスト稼働を完了しました。深海三千メートルで完璧に動作し、資源の抽出に成功したという『現実データ』がここにあります」


 モニターに、実際に抽出された資源の成分データと、リアルタイムのコスト計算書が表示される。

 高官たちと権田教授をはじめとする学者たちは、その映像とデータを見た瞬間、まるで雷に打たれたように硬直した。


 彼らは専門家だ。そのデータに矛盾が一切なく、偽造不可能な完全なログであることを、嫌でも理解させられたのだ。

 自分たちが数十年間かけて積み上げてきた常識と研究が、この二十代の若者が持ってきた一つのUSBメモリによって、完全に過去のゴミ屑にされた瞬間だった。


「し、信じられん……本当に、この国が……完全にエネルギーを自給できるとでも……!?」

 資源エネルギー庁の長官が、震える手で眼鏡を押し上げながら呻いた。


「自給どころではありません」

 私は両手でマホガニーのテーブルに体重をかけ、彼らを完全に睥睨した。


「現在、日本が中東から買っている化石燃料のすべてを置き換えても、なお有り余るほどの量が眠っています。これを世界へ輸出に回せば、日本は中東を凌駕する『世界最大のエネルギー大国』へと変貌します」


 会議室は、水を打ったような静寂に包まれた。

 誰もが、目の前に提示された『黄金の海』の存在と、それがもたらす国家の圧倒的な繁栄に息を呑んでいる。

 だが同時に、高官たちは恐怖していた。この国を根底から変えるほどの絶対的な力を、一介の民間企業がたった一つで成し遂げたという事実に。


「神盾、社長……。我々政府に、どうしろと?」

 長官が、渇いた喉を鳴らしながら尋ねてきた。


「簡単なことです。国家プロジェクトとして、この近海資源発掘計画(ポセイドン計画)を立ち上げ、全世界に向けて大々的に発表してください」


 私は、悪魔のような条件を突きつけた。


「プラントの建造とパイプラインの敷設は、国家のインフラ予算を使って全面的にバックアップしていただきます。しかし、採掘権とプラントの基幹特許の九割は、当然ながら我が社が独占して握ります。残りの一割の税収だけでも、この国の財政赤字は数年で消滅するでしょうがね」


「なっ……九割!? 国家のインフラを使わせておきながら、国の資源の九割を一企業が独占する気か! いくらなんでも横暴すぎる!」

「私が技術を提供しなければ、それは永遠に海底の泥のままです」


 私が冷酷に言い放つと、反発しようとした高官たちは完全に沈黙した。


「嫌なら、他国にこの技術を売り渡しますが? 中国でも、ロシアでも、アメリカでも、喜んで国家予算の半分を差し出してくるでしょうね。……そうなれば、日本は永遠に資源を持たず、他国の顔色を窺いながら高いエネルギーを買い続けるだけの三流国家に転落しますが、よろしいですね?」


「ま、待ってくれ! ……わかった。わかったよ。総理には私から話をつけよう」


 長官は、完全に心が折れたように深く項垂れた。

 イージス社の技術介入を拒める人間など、もはやこの国には存在しないのだ。


「結構。では、来月のG8(主要国首脳会議)に合わせて、早急に発表の準備を進めてください。世界史が変わる瞬間を、特等席で見せて差し上げましょう」


 会議室を後にした私と玲奈は、霞が関の地下駐車場へと向かった。


「ボス。あのような官僚たちを相手に、見事な手綱捌きでしたね」

 玲奈が、官僚たちの手のひら返しを嘲笑うように言った。

「これで日本政府は、我々の宇宙開発と『真の目的』を支えるための、巨大な財布であり手足となりました」

「欲に目の眩んだ化石どもを動かすのは容易いことだ」


 私は車の後部座席に乗り込み、冷たく目を細めた。

 これは単なるビジネスではない。日本という国家を巨大な『資源の塊』に仕立て上げ、四大勢力を引きずり込むための撒き餌だ。


「世界中が、この黄金の海に狂うだろうな」


 日本が資源大国になるという発表がなされれば、エネルギー覇権を奪われることを恐れた中国やロシアは、必ずこの極東の島国へ牙を剥く。

 彼らが欲望と焦燥のままに手を伸ばしてきた時、私の真の復讐が始まるのだ。


 極東の狩り場に最初の血の雨が降る日は、もうすぐそこまで迫っていた。

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