80
「少し、言い訳を聞いてもらえると、ありがたいんだが…」
紗由理が足をどけたので、やっと頭を上げることが出来たシャーマ三世は、伏せ目がちに話し始めた。
「この国は今、危機的状況に陥っている」
「危機的状況?そんな風には見えないけどな」
あんなバカ騒ぎを国をあげて開催しているのに?
「ここは観光の国だ。表向きにそんな表情を見せるわけにはいかない」
「なるほどね。で、どんな状態なんだ?」
「近年、観光客が減少しているのだ。目に見えて減る程ではないが、じわじわと…昨年の来客数は五年前に比べて八割程になってしまった」
「それってそんなにヤバいんですかね?」
マイドがこそりと聞いてきた。
俺もピンと来なかったが、一人紗由理だけが、目を細めていた。
「そりゃヤバイな」
「そうなのか?」
「そりゃそうだろ。去年八割ってことは、そのままの状況ならあと数年で、六割…いや悪けりゃ半分近くに減るかもしれない。しかもその状況を改善しようとあれこれあがけば、その分余計な金がかかる。収入が減ってるのに、支出だけ増えていくんだ。典型的な悪循環てやつだな」
そこにいる全員が、意外そうな顔をした。
「なんだその顔は?」
そうだった。こう見えて、こいつ経営者だった。
「早いうちに観光客が減ってる根本的な理由を徹底的に改善しないと、手遅れになるぞ」
「…おっしゃる通りです」
「水着のねえちゃんや、二、三日のお祭りで客数を増やしても、一時凌ぎにしかならないだろ」
「…おっしゃる通りです」
「お前ら、根本的な理由の分析はしてるのか?」
コンサル紗由理は、膝をついてシャーマ三世と視線を合わせた。
「一番の原因は、国への交通です」
この島へ来る為の交通手段といえは船だ。たしかに何日もの船旅は骨が折れる。だが今までだってそうだったはずだが。
「交通?何がどう問題なんだ?」
「近年、船代の値上げが顕著で…」
ん?なんか言い回しに違和感があるような….
「…その言い方だと船会社はこの国の経営じゃないのか?」
「え?よくおわかりで…あの、あなたは魔女様か何かなのですか?」
いや、そういう事に関して異常に勘が良いだけだ。
「おっしゃる通りです。この国と隣国を繋ぐ海路は、全て帝国の船会社のもので、その運営に私達は口出しができない。運賃の値上げも一方的で…」
「はあん。大方事後報告で、気がついたら値上がってたとかだろ。で、理由を聞いたら、新造船を導入予定だの、人件費の高騰だの、そんな適当な理由でのらりくらり、てところか?まあ、そんな理由はこじつけだろ。要は、足元見られて食いもんにされてるだけだ」
「うう…その通りです。あの〜、もしよろしければ私の第三夫人になって頂けないでしょうか?」
「いや、断る」
シャーマ三世がガチめに落ち込んだところで、俺にも今回の騒動の根本が見えてきた。
「つまりあれか?転移竜を使った新たな交通ルートを作ろうとした、と?」
「…その通りです」
「それでノーマを誘拐して、我が国のものにしようとしたと?」
「…その通りです」
「呆れた短絡思考だな!」
「イオリ、まあそう言うな。それだけこいつらが窮していたってことだろ」
どっちの味方だ。コンサル紗由理。
「おい、マイド」
「あ、はい?」
「最近この国で、大幅な増税とか、そういうニュースはなかったか?」
「あ〜、いえ。俺がスパイとして赴任してきてからはそういう情報は無かったですね」
「なるほど…」
いやそれ、国王の前で言っていいのか?
紗由理はぱしん、と音が出る勢いでシャーマ三世の肩を叩いた。
「お前、収入減を国民の増税で補おうとはしなかったんだな。まあ漁師達からは、そんな暗い雰囲気や政治に関しての愚痴は聞かなかったからな。こう見えてこいつ、国民と国の事を一番に考えるんだ」
「ああ、是非わたしの正室に!」
「断る!」
シャーマ三世がバッサリ切り伏せられたところで、それまで完全に傍観姿勢だったティムローが、眼鏡をきらん、と光らせながら、一歩前に出た。
「おい、いくらなら出せる?」
「え?」
キョトンとするシャーマ三世の前に、今度はティムローがしゃがみこんだ。
「だから、転移竜一体に対して、いくらの賃金なら支払えるのか?って聞いたんだ」




