2-3話 内陸への進出
「俺に陳情だって?」
「はい」
ドワーフたちの工房で、ああでもないこうでもないと議論を重ねていたところに、普段は俺の秘書として働くルビナがやってきて告げた。
ゴーレム弩砲の試作と配備が少しずつ進み、ちょうど余裕ができてきた最中の事だった。
ゴーレム弩砲とは、機構にゴーレムの腕のみを組み込み、一般人が操作しても強力な弓を引くことのできる弩砲のことである。
発案者の若ドワーフ、ダーレン氏を防衛部隊の責任者として、この町――ペンテイア――の防御態勢は急速に整いつつあった。
ちょうど、俺たちが町を離れても大丈夫かと思っていたところだ。
◆◆◆
俺が執務室へ向かうと、扉の前で待っていた剽悍な黒髪の男がこちらへ一礼をした。
彼はたしか……、ペンテイアの町ができたとき、真っ先に訪れた冒険者のひとりだ。
「これはこれは領主様、この度は……」
「まどろっこしい挨拶はいい、さあ入れ」
俺は入室を促し、彼を机の前へ誘導した。
「それで、陳情とはなんだ?」
「はっ、それでは領主様。単刀直入に申しますと、この町を拠点として、内陸部に向かうための休息所を各所へ整備してほしいのです」
「ふむ……、探索の中継地点、補給所としての休息所か」
「はい」
俺は顎に手を当てて考え込んだ。
ここ、南大陸には古代帝国の遺構、そして魔瘴風を喰らい凶暴化するモンスターが数多く存在する。
それを目当てにした冒険者たちは、しばしば内陸を目指して旅をするのだ。
しかし、それならば付近のデルポトを出発地とすることもできるし、かつて俺が内陸部を探索するときにはそこを拠点としていたのだが……
「デルポトは古い町ですじゃ。設備が整っている分、税がきついですからのぉ」
俺とともについてきたドワーフの頭領、ドゥルム氏が言った。
「ああ、関税に武器税に水税、だいぶ持っていかれるな」
そう、既得権益を持ち、なおかつ付近に競合相手のいないデルポトの冒険者ギルドは、他の町よりもかなり高い税率で町民から搾り取っているのだ。
ここペンテイアはあくまで職人と貿易の町だから、酒場にある小さな寄り合いが冒険者ギルドとして機能しているに過ぎない。
よって、バックアップを受けられないものの、税率が極端に低いハイリスク・ハイリターンの新天地としてこの町は見做されているのだ。
「それに、先の戦いで領主様がクリムゾンジャッカルを討伐されたでしょう。それで、ペンテイアの町から南の未踏破地域へ道が開けました。冒険者のなかで噂が広まっております」
「ふうむ……」
俺のような強力な魔術士であれば、先程のクリムゾンジャッカルのようなイレギュラーな魔獣も意に介さず旅をすることができる。
しかし、世の中にはさほどの戦闘力を持たない冒険者が多いことも、かつての修行のなかで俺は知っていた。
そして、そのような戦闘力は秀でていないが探索経験や専門知識が豊富な者が、しばしば単に戦いに優れた者よりもより多くの情報を持って帰ってこれる、ということも。
彼らのような冒険心あふれる専門家によってギルドに情報が集まり、それを手がかりに腕っぷしに自信のある者たちがモンスターの討伐に向かうのである。
専門家でないとしても、一攫千金を狙う無謀な冒険野郎の母数が増えれば、偶然に見つかる発見の数も増えるというものだ。
そのために、休息所を設けて冒険者の遭難を減らし、彼らの生存率を高めることは、ギルドのある町、すなわちこのペンテイアの町の利益になるだろう。
「休息所、たしかに良い案だな。俺には不要だから考えが及ばなかった、感謝しよう」
「ははっ、もったいないお言葉」
陳情に訪れた黒髪の男が頭を下げる。
この立ち居振る舞い、おそらく貴族から依頼を受けることもあるのだろう。武器は今は外しているが、その装備は使い込まれているが質がよい。すなわち、冒険者のなかでも有望な者――。
「ところでお前の名前を聞いてなかったな。名をなんという?」
「は、『ギルザー』といいます。人呼んで『黒大剣のギルザー』とも」
「ふむ、ギルザーだな」
覚えておくとしよう。こういった有力な冒険者との伝手は、あればあるほど損はない。
俺は執務室を出ると、さっそく休息所の候補地をルビナと考えるのだった。




