2-2話 《騎兵隊》ゴーレム・キャバルリィ
――ギャアアアッ!!
人間の子供など一口で丸呑みにできる大型獣、クリムゾンジャッカル。
その通常個体より更にふた回り大きな肉体と、ひときわ鮮やかな体毛を持つクリムゾンジャッカルの長は、近くのゴーレムを切り裂くや否や、俺を見据えてまっすぐに迫ってきた。
「獣のくせになかなか賢いな……!」
おそらく、俺がゴーレム・キャバルリィの指揮官であることを見抜いたのであろう。
ゴーレム・キャバルリィは散開して雑魚ジャッカルと対峙しているため、俺とボスの間に遮るものはない。
「シゴル様っ!」
ルビナが慌てたように叫ぶ。
「援護不要! 《ストーンバレット》!」
俺は杖を掲げ、即座に攻撃魔法を放った。側にあった手頃な石が、次々に高速の弾丸となってクリムゾンジャッカルのボスに飛来する。
ダダダッ!
「ほう……、かわしたか」
さすがは群れを率いるリーダーというべきか。
クリムゾンジャッカルは咄嵯に身を翻すと、数発の《ストーンバレット》をすべて回避していた。
――グルルァァッ! みるみるうちに距離は縮まり、いよいよやつの間合いに入ってしまった。
「せいっ!」
飛びかかってきた爪牙を、俺は横に飛んでかわす。
やつは素早く体勢を立て直すと、再びこちらに飛びかかろうとしてくる。
「《ストーンショット》!」
ビシビシッ!
――グウッ!
飛びかかろうとするボスの鼻先を制し、俺は間髪入れずに呪文を命中させた。
ひとつひとつの威力は小さいが、広い範囲に素早く放てる石の散弾である。
「喰らえ、《アースニードル》!」
ヒュンヒュンッ! バキッ!
――ギャオオッ! 続けざまに放った土の棘は、全て空中で叩き返されてしまった。
その勢いのまま、クリムゾンジャッカルのボスの真紅の爪が迫る。
俺はとっさに後ろに跳び、一撃、二撃と間一髪で避けるが、大型獣である相手の方が一歩が大きい。
徐々に余裕がなくなっていく。
「ならば……、《アースシールド》!」
ガキイィィン!!
――ギャア!?
クリムゾンジャッカルの爪撃が迫った瞬間、俺の前に土の盾があらわれて攻撃を防ぐ。
自慢の爪が防がれ、ボスジャッカルは戸惑いの声をあげた。
爪は盾の縁まで食い込んでいるが、それでも俺に届いてはいない。
――グルルルル……、ガアァァッ! ガアッ!!
それまで、俺の土魔術をすべて一撃で切り裂いてきたボスである。
破壊しきれない土魔術の存在にプライドを傷つけられたのか、激昂して何度も盾に攻撃を浴びせかけた。
ギャリッ! ガキィン!
しかし、崩れない。
一般に、《アースシールド》は《アースウォール》の下位呪文とされている。
しかし、俺の呪文は異なる。《アースウォール》に比べて守れる範囲が狭いぶん、強靭で粘り強いのが俺の改良した《アースシールド》である。
「守りを堅めよ、《硬化術式付与》!」
俺は、エンチャントの一種を追加で唱えて盾を強化し、眼前に浮かぶ盾を維持し続けた。
さて……、そろそろ頃合いだろうか。
――ダダダッ、 ダダダッ、ダダダッ!
馬蹄の音だ。
――グルウッ!?
ボスが戸惑いの声をあげる。
背後から二体のゴーレム・キャバルリィが迫る音だ。
俺が生み出した《騎兵隊》はクリムゾンジャッカルと同数。
すなわち……
――グルゥゥ……
ボスが振り返ると、そこかしこに、出血し、倒れ伏した部下ジャッカルたちが転がっていた。
それらに相対していたゴーレム・キャバルリィももちろん無傷ではない。
頭がもげた者、片腕が切り裂かれた者、腰から上が砕けた者など、いずれのゴーレムも多大なダメージを負っている。
だからどうした?
「よおボスジャッカル、死を恐れぬお前の自慢の部下たちは出血多量で死屍累々、一方こちらのゴーレムたちは意気軒昂! 勝負あったな」
「なんと……!」
「ほほーぅ。術者が群れのボスと対峙しつつ、片手間であれだけの魔物を倒せるとは……、流石ですわい」
防御力に優れ、なおかつ多少の損壊を意に介さないのがゴーレムの強みだ。
片腕が折れれば戦力が激減する生身のモンスターを相手に、「痛み分け」をすれば、時間とともにこちらの有利につながる。
――グ、グルッ、ギャオオオオオオォォ!!
もはや逃げられぬことをさとったボスジャッカルが、高く跳躍しゴーレム・キャバルリィを飛び越え、俺の元に迫る。
しかし、それを許す俺ではない。
「トドメだ、貫け《アースランス》ッ!」
ズシャアアッ!!
《ストーンバレット》を軽々と避ける機動力をもつクリムゾンジャッカルだったが、こうもわかりやすい軌道で突っ込んできてくれれば槍で迎撃するのは簡単なことだ。
冷静さを欠いた獣に向けて綺麗なカウンターが決まる。ボスジャッカルは俺の眼前で串刺しになった。
――グ、ガッ………………!
ドスドスッ! ドスッ!
ボスジャッカルの動きが止まったところに、駆け寄ってきたゴーレム・キャバルリィたちが、全速力を乗せたランスチャージをボスの背中や脇腹に次々と突き入れる。
「ふう……。おっと、毛皮を利用するならもっとスマートにやるべきだったな」
俺は、軽くかいた汗を拭って言った。
こうして、魔鉱山近辺に巣食っていたクリムゾンジャッカルの群れは全滅したのであった。
後に判明した事実だが……、このクリムゾンジャッカルの群れは通常より大規模なものであり、隣街デルポトから出発した冒険者の数々を返り討ちにしてきた賞金獣であった。
俺たちは、さらなる内陸へ進出するチャンスを獲得したのである。




