2-1話 ゴーレム弩砲の開発
――バシュウッ! バシュウッ!
――ブオオォーーッ!?
「やった、また命中です!」
「よぉし!」
高威力の矢を食らった大型のトロール鬼が倒れ伏し、ダーレン氏率いる市民により編成された部隊、ペンティア防衛隊の隊員たちが歓声をあげる。
俺たちは、かつてルビナとともに懸賞首の巨オーガを討伐し、楽に採掘ができるようになった魔鉱山、その入口へと来てきた。
ここならば、鉱石の輸出のために作られた道があるため、ゴーレム弩砲を持ってくることが可能だからだ。
「領主様、大成功ですよぃ!」
「ああ。皆もだんだんと弩砲の使い方に習熟してきたな」
ゴーレムの腕を搭載し、人の手では引けない高張力の弦を引くことで威力を増加させ、狙いをつける精密動作は人力で行うことで狙撃が可能になった新兵器、ゴーレム弩砲の試射は、ペンテイア郊外での試射を終え、これが三回目の実戦テストとなっていた。
これは実際にモンスターを相手に射撃することで機構の効率や実戦での取り回しを考えるのが目的だ。
そして、現地で生まれるドワーフ技工士たちの意見を取り入れてゴーレム術士たる俺がゴーレムの調整を行っている。
少し仕様を変えて作り分けたいくつかの矢じりの威力を確かめたり、弦を引きすぎて壊れないよう力加減にしたりと、朝方から昼過ぎになるまですっかり熱中してしまっていた。
なにしろここは大勢で騒いでいればいくらでも奥から下級モンスターが出てくるような環境だ。試射にはもってこいである。
「私たちが護衛する必要はありませんでしたね、マスター」
「ん……。カイア、ちょっと暇ぁ〜」
「たしかに、これなら次からは雇いの冒険者たちに護衛を任せてもいいかもしれないな」
ここ南大陸の内陸部は、全域が露天型のダンジョンであり、本来であれば武装していない市民が奥地へ入り込むのはかなりの危険が伴う。
逃走が不可能な大荷物を抱えて、非戦闘員の技士がいるともなれば、俺のような魔術士がいなければ多数の護衛を雇わなくてはならないはずだ。
しかし、ゴーレム弩砲がこれだけの威力を安定して発揮できるようになったからには、俺ではなく民間の冒険者を護衛としてダンジョンを赴くこともできることだろう。
もしこれの量産体制が整えば、街道の各地にゴーレム弩砲を配置しておき、魔鉱石を運搬中の荷馬車が襲われたらこれで迎撃する……という体制もありかもしれないな。
「さてさてぇ、領主様よぅ」
そう考えていると、ダーレン氏から声をかけられた。
「なんだ?」
「やー、もう矢を射ち尽くしてしまいまして、そろそろ引き上げですよい」
おっと、もうそんな時間か。
実験の結果、俺の生成した《ストーンランス》製の矢より、ドワーフの鍛冶師による鉄矢のほうが威力と精度が高いことがわかっており、まだまだ使える矢数に限りがあるのだ。
これに関しては強度のみならず、素材そのものの重量が威力に影響するからな。技工衆には再び協力を仰ぐこととしよう。
「それでは、ここで手に入れたモンスターの素材を解体し、持ち帰るとしましょう」
「ああ、下級モンスターといえどこれだけあればそれなりに――」
「ますたぁ、後ろ!」
カイアの警告とまったく同時に、俺は殺気を感じて振り返った。
――――ギャオオオオッ!!!!
魔鉱山の入り口から見える離れた丘の上、 そこには返り血のように真紅の身体をもつ大型獣が、ずらりと二十、三十、巨大な群れをなして並び、こちらを威圧していたのだ。
「あ、あれはクリムゾンジャッカル!?」
「クソッ、血の匂いを嗅ぎつけて集まって来やがったかよぅ……」
「砂漠の赤い掃除屋……、領主殿! ここはモンスターの素材を置いて逃げましょう!!」
矢を使い果たした防衛隊員たちの間に、次々に動揺が広がっていく。
ふむ……、やはり、強力な敵に対する度胸、勇気というものは、歴戦の戦士でなければ身につかないということだろう。
動揺の広がりが早い。
ともあれ、そんな彼ら市民を守るのは領主たる俺の務めだ。
「マスター、ここは私が――」
「いや、ルビナとカイアは住民たちを守っていてくれ。クリムゾンジャッカルは俺が相手する」
最近、ルビナたちに戦闘経験を積ませるため、モンスターの相手は優先的に彼女たちにさせていたからな。
せっかくの機会だ、久々に俺自らモンスターの相手をしてやろう。
――グルアァッ!
――ギャオッギャオッ!
それに、少し身体が鈍り、運動したかったところなのだ。
俺は、暗色のローブを翻すと、杖を眼前に構えて獣たちの前に立ちふさがった。
◆◆◆
見れば、クリムゾンジャッカルの群れは丘の上から次々に駆け下り、まっすぐこちらに向かってくるところだった。
「よし、かかってこい!」
俺は杖を地面に突き刺し、叫ぶ。
「行く手を阻め、《アース・ウォール》!」
ズアアッ!
俺の前に巨大な土壁が迫り上がる。少し気合を入れて魔術を行使したため、クリムゾンジャッカルの跳躍力でも簡単には跳び越せない高さだ。
しかし、あくまで壁は直線的なものであって横から回り込めばすぐこちらに来ることができる。
――ガウッ!
――ギャオッギャオッ!!
飛び越えて直線で狙うのは困難と判断したのか、ボスらしき大きな個体の命令でクリムゾンジャッカルたちは左右の二手に分かれて迂回してくる。
だが、それも想定内だ。
「そこだ。《アースニードル》!」
ザシュザシュッ!!
鋭く砥がれた無数の針が、壁による死角からクリムゾンジャッカルを串刺しにていく。
――ギャウゥッ!?
壁は敵の進軍を防ぐだけではなく、こうして行く手を制限し、罠として使うこともできるのだ。
先行した仲間の無惨な死を見て、クリムゾンジャッカルたちは一瞬たじろぐが、すぐに散開して大回りしてこちらを目指すようになった。
そのスピードは流石に早く、この距離では《ストーンバレット》も当たってくれそうにはない。
俺は改めて、近づいてくるクリムゾンジャッカルたちを睨みつける。
一匹一匹が三メートルの巨躯を持ち、獲物の血を浴びて全身の毛皮を紅く染める凶暴な獣。
これがボスの統率のもと、死を恐れず迫ってくるのだから、なるほど場合によっては若ドラゴンの獲物を横取りすらするという評判にも納得である。
俺は地面に突き立てた杖をそのままに、左手を前にかざして呪文を唱えた。
「《クイックサンド》!」
クリムゾンジャッカルの足元に砂が集まり、あっという間に彼らの足を絡め取った。
――グオォッ!? 突然の流砂に戸惑った様子のクリムゾンジャッカルたち。
もちろんこれはただの足止めにすぎないが、それでも十分すぎる隙ができている。
……よし、ようやく魔力を練り終えることができた。
ここからはお前たちの出番だ!
「対価は我が魔力――、騎兵たちよ、城門開いて出撃せよ! 《騎兵隊》!」
俺が、杖の先端を更に地面にめり込ませると、巨大な赤銅色に光る魔法陣が浮かび上がった。
そして、魔法陣の各所で土塊が意思を持ったように蠢き、まるでもともとそこにいた者が這い出てくるかのように、ゴーレムが形成されていく。
――ゴォォォ!
「な、なんと! これほどのゴーレムをこれだけの時間で!?」
「ほっほー、血の対価も使わずにか! さすが領主様ですわい!」
このゴーレムたちはゴーレム・キャバルリィだ。ケンタウロスのような身体を持ち、腕の先には《アースランス》がそのまま付いている。
多対多で、なおかつ高速で戦うにはもってこいのゴーレムたちだ。
俺がいま生み出したゴーレム・キャバルリィは二十体、クリムゾンジャッカルとおよそ同数である。
「行け! ゴーレム・キャバルリィ!」
俺が命令を下すと、ゴーレム・キャバルリィたちが一斉に土でできた馬蹄を鳴らし、走り出した。
――ギャッ!?
――ギャオッ!
突如現れた新たな敵に対してクリムゾンジャッカルたちも怯んだようだ。しかし、それはほんの僅かな間だけで、すぐさま彼らは迎撃態勢に入った。
そしてお互いに走り寄り合う両者はみるみるうちに距離を詰め、彼らの爪牙とゴーレム・キャバルリィの槍の穂先がぶつかり合う。
ガキィィン!
――ギャアアアアアッ!!
戦いは、まずは互角で始まった。
クリムゾンジャッカルの鋭い鉤爪や、強烈な体当たりに対し、ゴーレム・キャバルリィは自らの槍や身を盾にして受け止めている。
――グルオオォォッ!!
しかし、突如として群れのボスが吠え、そのままボスがキャバルリィを一体、刺突をかわしてすれ違いざまに胴を真っ二つに斬り裂いた。
「ほう……」
これは想像以上にやる群れだ。
後ろから吠えるのみならず、自ら勇猛さを見せつけるボスの活躍により、部下の獣たちの士気が急激に高まった。
これを機に、下っ端のクリムゾンジャッカルたちも勢いづき、ゴーレムの腕を食いちぎり、ゴーレムの顔を爪で斬り裂き、徐々にダメージを加えていく。
――グルゥゥ!
勝ち誇るようにクリムゾンジャッカルの長は唸ると、ひと跳びでこちらへ距離を詰めてきた。
ふん、それだけで俺のゴーレムを攻略できたと思っているのか?
俺はローブの下で密かに笑みを浮かべるのであった。




