21話 発想の転換
「領主様!」
「シゴル様、ご無事で!?」
ペンテイアの住民である、ドワーフや人間たちが口々に俺の名を呼ぶ。
「心配をかけてすまなかった。だが、町には被害はなかったようだな?」
「はい、幸いにも怪我人は出ておりません」
「そうか、それは何よりだ」
俺は安堵の息をつく。
すると、人混みの向こうから老ドワーフ、町の顔役であるドゥルムさんが顔を出した。
「おお! シゴル殿!」
服装こそいつもの職人服だが、鉄兜を被り、手には古びた剣が握られていた。
戦士でないとはいえ、彼ら職人たちも戦う覚悟を決めていたのだろう。
「ドゥルムさん、心配をかけて本当に申し訳ないです」
「ほっほー、なんのなんの。シゴル殿たちのおかげでわしらはこうして無事におるんじゃ。謝ることなど何もありませんわい!」
「すごいやお姉ちゃん!」
「わ、私は……、マスターの指示に従ったまでのことです」
豪快に笑い飛ばすドゥルムさんの後ろでは、ルビナとカイアが住民と言葉を交わしている。
どうやら彼女らは町の住民たちに慕われているようで、ルビナは子供とじゃれ合い、カイアは年配の女性に頭を撫でられている。
美少女ゴーレムであり、人ではない彼女らだが、こうして町のために戦う過程ですっかり受け入れられる様子だ。嬉しい限りである。
……まあ、この俺の最高傑作であり俺の自慢の愛娘だからな、当然ではあるが。
「それで、シゴル殿。先ほどのファングリザードのことじゃが……」
ドゥルムさんが表情を真剣なものに変えて言った。
俺は、外壁を土魔術で修復しながら応える。
「ええ、まさかこれほどの規模のファングリザードが出現するとは……。ドゥルムさんは何か知っていますか?」
「うむ。こやつらは東の山間にあるオアシスに棲息しているモンスターですわい。それがこの近くまで降りてきたとなると……、おそらく何らかの理由で餌が足りなくなったか、あるいは」
「人為的なもの、ですか」
俺は眉をひそめる。
「ほっほー、あくまで可能性の話ですわい。それに、仮にそうだとしても誰がそのようなことをしたかまではわかりませぬがのう」
「この町は急激に成長していっている最中です。外部の者が妬んでもおかしくないでしょう」
「ふむ……」
「とにかく今は、原因究明よりも町の防衛力の強化を優先しましょう。ドゥルムさん、協力してくださいますね?」
「無論じゃ! わしらの町を守ることこそが、わしらにできる最大の恩返しというものよ!」
ドゥルムさんは頼もしく笑った。
◆◆◆
ペンテイアの中央、領主の館にある会議室にて、町の重要人物たちが集まっていた。
「それではまず、この町の問題点を洗い出していくぞ。ルビナ、頼む」
「はい、マスター」
ルビナが進み出て言う。
「まず第一に、攻撃能力の不足ですね。壁や防柵はありますが、肝心の武器がないのは大きな問題かと」
彼女の指摘通り、この町の防備は土魔術によって造られたものでしかない。
もちろん、かつて宮廷魔術師をしていた俺の作った壁だ。生半可な攻撃では揺るがない。
しかし、堅牢な城壁といえど無抵抗で何度も何度も攻撃を受けてはやがて崩れ始めてしまうのは、先程のファングリザードの襲撃でわかったことである。
「ですなぁ……」
この町に住むドワーフたちからも同意の声が上がる。
「他の町なら軍事魔術士たちや冒険者ギルドがあるが、この町にそういったものはないですからねぇ」
「うむ……」
これが、この世界の魔術士たち、ひいては貴族たちが大きな顔をしている理由でもある。
新興の町であるペンテイアに、これらの魔術士や有力な戦士団への伝手はないし、金で雇える冒険者を常に雇い続けるとなれば、すぐ町の財政が赤字になってしまうだろう。
この町の住民である職人たちを武装化することもひとつの手だが、巨大モンスターには敵わないし、なにより専門職の強みを潰すことになる。彼ら職人には職人として技術を極めてもらうべきだろう。
「すまないが、俺は土魔術一辺倒で非魔術士の戦い方に疎い。なにかいい案はないだろうか?」
「それでは……、領主様の魔術でゴーレムを作り、それで迎撃するのはいかがでしょうか?」
俺が問いかけると、商業地区を代表する人間男性が応えた。
「ああ、それだが、術者以外はゴーレムに単調な命令しか下せないんだ。戦闘中にゴーレムが勝手に動き出すと、かえって混乱すると思う」
「そうですか……」
「ふーむ……、そうさのぅ……」
ドゥルムさんがヒゲを撫でながら考え込む。
「弩砲はどうですかな? 砦に採用される防御兵器ですじゃ」
すると、ドゥルムさんからの提案。
「悪くはないが、先程のファングリザードのような大型モンスターに対しては何より威力不足でしょうね」
「確かにその通りですわい……」
再び行き詰まってしまう。
「あ! それならよぅ、ゴーレムに弩を引かせればいいんじゃねえかぁ?」
「ほう、『ダーレン』氏か」
そんななかで声をあげたのは、ドワーフの若手たちの取りまとめをするダーレン・ダルドー氏である。
なるほど、強いチカラで弓を引くことをゴーレムに任せ、狙いをつけて射つことはさほど難しくなさそうだ。
「ほほう、それなら、そもそもゴーレムを人形にする必要はなく……、ほれ、腕と一本の指さえあればよいな」
「いや、それより弩砲そのものにゴーレムを組み込んでしまってだな」
ダーレン氏の発想に対して、職人気質のドワーフたちが一気に賑わい出す。
このような発想は、俺のようなついついなんでも自らの魔術で解決しがちな魔術士には出せないものだ。
こうして、会議は活気づきながらゆっくりと夜が更けていくのであった。
――この発想の転換が、「特権階級による暴力の独占」を破壊し、非魔術士を兵力化できる重大な革命であることを、彼らはまだ知らなかった。




