19話 ファングリザードの襲撃
ルビナとカイアの三人で、俺が領主を務めるペンテイアの町に戻る途中のことだった。
「マスター、あれを!」
ルビナがはっとした顔で叫ぶ。
見ると、ペンテイアの町を守る外壁の前に、巨大なモンスターが姿を現していたのだ。
全身を覆う鱗に覆われた体躯には幾つもの鋭い棘があり、その大きさは優に10メートルを超えているだろう。
何よりも目を引くのは、モンスターの口から伸びた二本の巨大な牙だ。
「あれは……、ファングリザード!どうしてこんなところに!?」
俺は思わずはっとして呟いた。
ファングリザード。その名前の通り、大きな牙を持つ四足歩行のトカゲのモンスターだ。
北大陸から南大陸にかけて沼地に棲息するモンスターで、乾燥地帯のこのあたりではあまり見掛けないはずだが……。
「とにかく町に入れるわけにはいかないな……」
モンスターの突進攻撃によって外壁は大きく損壊しており、もう何回か攻撃を受ければ崩壊してもおかしくない。
見れば、ドワーフの職人たちが剣を持って迎撃の準備をしているようだが……、彼らはあくまで職人である。ドワーフの近衛重装歩兵ほどの戦力は期待できないだろう。
急いで俺たちが迎撃するべきだ。
「ルビナ、カイア、行くぞ!」
俺は杖を構え、叫んだ。
「はい、マスター!」
「ん……、ますたぁ!」
二人の返事を聞くと同時に、俺は魔法を発動させる。
「《テイルウィンド》!」
続いてカイアも風魔法を唱える。
「ん……、《テイルウィンド》」
俺たちの背中へ追い風が吹き、ただ走るより何倍も早く駆けることができるようになった。
ファングリザードへ向けて一直線に高速で迫る中、ルビナが抜剣し、構える。
「《火属性付与》!」
彼女の持つ長剣に炎の赤い光が宿った。
そして、そのまま勢い良くファングリザードへと斬りかかる。
「いきます――! ハアッ!」
裂帛の気合いとともに放たれた一閃。
――ギャアァッ!!
ファングリザードの強固な鱗に阻まれて弾かれてしまうが、加速度の乗った一撃はその巨体を揺るがし、注意をこちらに向けることに成功した。
「ん……、荒れ狂う吹雪よ、薙ぎ払え、《ブリザード》!」
今度はカイアの番だった。カイアの構えた短杖から生み出された冷気が、渦巻くように凝縮されていき、一気に解放される。
ゴオォオオオッ! 凄まじい轟音を立てて、猛然と襲いかかってきたファングリザードの顔面に直撃した。……グルゥウウッ!? 強烈な寒気に、さすがのファングリザードも一瞬怯んだ様子を見せた。
だが、ファングリザードはすぐに巨体を揺らして氷を払うと、俺たちに向かって猛然と突進してきた。
「くそっ、早いぞ!」
俺は舌打ちをする。
――ギャオオォォ!!
そのまま猛スピードで突撃してくるファングリザード。
「マスター、私が受け止めます!」
ルビナが叫びながら前に出る。
「いや、俺に任せろ!」
俺はそう言い返すと、魔法を唱えた。
「《アースウォール》!」
眼前に土の壁が出現し、それを盾にして体当たりを受ける。
――ガアァァァ!? 勢いよくぶつかった衝撃で、敵の巨体が宙に浮いた。
「今だルビナ!」
「はいっ!」
彼女は跳躍し、空中で身を翻して長剣を振りかざす。
「はぁあああっ!!」
ザシュッと音を立てて、ファングリザードの首元に刃が食い込んだ。
「やりました、マスター!」
ルビナは嬉々として言った。
――グルルルル…………。
しかし、まだ敵は死んではいない。首筋から血を流しながらも、鋭い眼光でルビナを見据えている。
――ギャオオォオオオオオオォォ!!
そして、奴は怒り狂ったように暴れ出した。
「きゃっ!?」
「んわっ……!」
ルビナは振り回される尻尾に弾き飛ばされてしまった。落下し、着地したところを狙われたのだ。
また、カイアも弾け飛んだ岩石によってダメージを受けてしまった。
「大丈夫か、ルビナ!」
「は、はい! 私は平気です!」
「ん……」
幸いにも二人は軽症だったようで、すぐに立ち上がった。
「この巨体にこのスピード、手強いですね……」
「ああ。だが、勝てないほどではない」
俺たちは態勢を整え、ファングリザードに向き直った。
既にペンテイアの町からファングリザードを引き離すことには成功している。
ならば、ゆっくりと相手してやればいいだけのことだ。




