17話 カイアの初陣
薄暗い坑道の中を、魔術の灯りが照らしている。
ときおり淡く光って見えるのは魔石が含まれた岩の証だ。
「さて……、ここまで奥に来れば、そろそろモンスターと遭遇してもおかしくないですね」
ルビナが呟く。
俺たちは、新たに仲間に加わった美少女ゴーレム、カイアを連れて、以前やってきた魔鉱石の鉱山を再び訪れていた。
カイアの初戦闘とともに、魔鉱石の調査が目的である。
「んっ……。ますたぁ、気配がする」
カイアが紺碧の瞳をキラリと光らせ、鉱山の横穴のひとつに向き直った。
「よし、それじゃあルビナはできるだけ手を出さずカイアだけで戦ってみろ」
「はい、マスター」
「ん、わかった」
――シギャアァ!
――ギィギャアァ!
知性のない威嚇の鳴き声。
俺たちの前に現れたのは、短い牙を持つ亜人モンスター、ゴブリンの群れだった。およそ二十匹はいるだろう。中には大型のホブゴブリンも見られる。
「見てて……、ますたぁ」
カイアはそう言うと腰に差していた短杖を抜き放ち、魔力を込め始める。すると、彼女の持つ短杖の先端部分が淡く光り始めた。
「ん……、《ウィンドカッター》」
シュバッ!
彼女が魔法を発動させると、不可視の風の刃が先頭にいたゴブリンに向かって飛んでいき、見事にその首筋を切り落とした。
「行けっ、《アイススピア》」
次に唱えた呪文により鋭い氷柱のごとき氷の槍が形成され、槍は目にも留まらぬ素早さで射出されて二匹目のゴブリンの胸元をつらぬいた。
――ギャギャギャアッ!!
――ギィギィッ!!
ゴブリンたちは味方の死に驚きつつも、右へ左へ散開しながらなお迫ってくる。
「標的がバラけたぞ。どうする?」
「んっ………!」
カリアは少し考えた後、左手を前に突き出して叫んだ。
「凍てつく風よ……、斬り刻め、《アイスストーム》」
途端に、強烈な冷気が吹き荒れてゴブリン達の動きを阻害する。
そして無数の尖った氷塊が出現したかと思うと、それらは旋風に乗って吹き荒れ、一斉にゴブリン達に降り注いだ。
――ギィヤアアァッ!
――キャインッ!
悲鳴を上げながら次々と倒れていくゴブリンたち。しかし、一匹だけ氷の礫を防ぎきり、闘志を燃やしてこちらへ突進してくる大型の個体がいた。
そいつは他の奴より一回り大きく、身体には歴戦の傷跡のようなものがある。
歴戦のゴブリン、ホブゴブリンだ。
――グルルァァ!!
「私がやりますか?」
すかさずルビナが前に出ようとするが、俺は彼女を制した。
「待て、カイアの実力を試すんだ。まだまだいけるな? カイア」
「うん、ますたぁ!」
カイアは頷いた。
――グルルル……
低く喉を鳴らし威嚇しているホブゴブリンに対し、カイアは全く臆することなく対峙していた。
「《ウィンドブレード》!」
カイアの構えた杖先から、素早い風刃が飛ぶ。だがまだ距離が遠い。相手はそれを紙一重で避けた。
――グオオォッ!
次の瞬間、ホブゴブリンは雄叫びと共に一気に間合いを詰めてくる。
しかしカイアは慌てる様子もなく短杖を突き出し、くるりと小さく回して魔法を唱えた。
「ん……、《ウィンドウォール》」
ブオオォォォ!!
――グオォッ!?
「上手い。いいぞカイア」
突如として、カイアとホブゴブリンの間を遮るように猛烈な風が吹き上がり、それをもろに受けたホブゴブリンは思わず足を止めてたじろいだ。
距離を詰められた後衛の魔術士にとって、最適解の妨害だ。
この隙をカイアは逃さず、続けて次の魔法の詠唱を行う。
「んと……、《ウィンドカッター》!」
ザシュッ!
カイアの放った攻撃はホブゴブリンの胸元に命中した。
しかし、風の刃はホブゴブリンの強靭な皮膚に阻まれてしまっている。胸には浅く引っ掻いたような傷しかついておらず、致命傷には程遠いだろう。
「ん……、硬い」
カイアは表情を変えず、再び魔法を唱え始めた。
「……《アイスバレット》、《アイスバレット》、《アイスバレット》!」
すると今度は氷弾が立て続けに放たれ、それはホブゴブリンの腕や腹部に命中する。
――グッ、グッ、グゥッ!
「あれ、効いてない……?」
「カイア、よくモンスターの状態を見るんだ。攻撃に対して身構えられてるぞ」
ホブゴブリンはカイアの呪文の予兆を目で追っている。初級魔術程度ならガードが間に合ってしまうのだ。
かといって、これだけ近づかれた状態で大技を繰り出そうとすれば……。
「荒れ狂う風よ、集束し――」
――グウウゥゥッ!
「きゃあっ!」
既にホブゴブリンとカイアの距離は、ホブゴブリンが大きく踏み込めば攻撃の届く距離にある。
ホブゴブリンの棍棒が唸りをあげて振り下ろされ、カイアはすんでのところで身を翻しなんとか回避した。
「それなら…………、《ウォーターボール》!」
カイアは地面を転がって距離を取ると、素早く立ち上がりながら小さな水球を放つ。
顔面に向かって飛んでくる水球を、ホブゴブリンは煩わしげに払い除けた。
ばしゃん!
「んっ……、《フリーズ》! 凍れぇっ!」
「ほほう」
――グウッ!?
ウォーターボールを払い除けたことでホブゴブリンの腕はびしょ濡れになっており、その液体をカイアは凍結させたのだ。カイアの狙い通り、ホブゴブリンの上半身は厚い氷で覆われ、ホブゴブリンは大きく行動を制限されてしまった。
「やった! ますたぁ!」
「よし、いいぞカイア! とどめだ!」
「んっ! ……荒れ狂う風よ、集束し、敵を穿て、《ブラストカノン》!」
カイアが詠唱とともに短杖に魔力を込めると、洞窟内の風が杖先に集まり、回転する突風の砲弾となって放たれた。
――グオオォォォォォォッ!!!!
命中とともにホブゴブリンの巨体が紙切れのようにふわりと浮かび、次の瞬間にホブゴブリンの身体は回転しながら遠くの壁にまで吹き飛ばされ、激しく叩きつけられる。
カイアの放った一撃はホブゴブリンの真っ直ぐに胸部を捉え、頑強なはずの肉体を大きく凹ませていた。
いかにタフで巨大な体躯を誇るホブゴブリンとはいえ、今の一撃で完全に戦闘不能となったようだ。
「よくやったカイア! 威力は弱いがすぐ発射できる水球にフリーズを重ねる、良いコンボだったな」
「お見事です、カイア。私が援護する必要はありませんでしたね」
「えへへ……、ありがと、ますたぁ、ルビナ姉ちゃん」
カイアの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに目を細める。
こうして、カイアの初陣は成功裏に終わったのであった。




