11話 ペンテイアへの来訪者
ドワーフの都市国家は、フロウス王国の辺境の更に東の山脈にある。
洞窟を掘り進めるように築かれたその国は、石造りの建物がところ狭しと立ち並び、まるで迷路のように入り組んだ街並みを形成していた。
この町では、様々な職人たちが働いている。
武器屋や防具屋のほかにも、鍛冶屋や採掘人などの姿もあった。
そのうちのメインストリートのひとつ、石畳が敷かれた道を、項垂れたドワーフが歩いていた。彼は、肩を落としながら、とぼとぼと歩いている。
「畜生、親方めぇ……」
彼の名はデワン。
かつて、この街で職人をしていた者だ。しかし、建築ギルド長と喧嘩して、ギルドを追い出されてしまったのである。
ドワーフには偏屈者や頑固者が多いが、それは外へではなく身内に対しても遺憾なく発揮される。
ここの建築ギルド長は特に保守的な考えの持ち主であり、デワンのような若い職人に延々と雑用ばかりをさせていたのだ。
「こんな街出ていってやりたいが……、しかし……、どこへ行けばいいんだ……」
そう言って、デワンは嘆く。そんな時だ。
「おい、聞いたか? 南大陸で一から都市を作るって噂だぜ」
そんな声が聞こえてきた。
「なんだそりゃ?」
「なんでも、実力のある魔術師がモンスターを倒して土地を切り開いているそうだ」
「へえ……」
「んで、俺たちドワーフが移住すれば、仕事はいくらでもあるとかなんとか」
「なるほどなぁ」
「特に、建築や鍛冶が上手い奴は歓迎するらしい」
「ほほう」
デワンとすれ違うように、若いドワーフの二人組が雑談しながら歩いていた。
「そ、その話、もっと詳しく教えてくれないかい!?」
デワンは思わず、二人組に声をかける。
すると、二人は少し驚いたような顔をしたが、「ああ、いいぞ。ちょうどその話をするところだから俺たちについてきな」と言ってくれた。
それから、デワンは二人の若者に案内され、とある酒場へとやって来た。
喧騒、賑やかな声、そして火酒の香り。
いかにもドワーフの酒場といった酒場である。
店の中には、大勢のドワーフたちが集まっている。
そのドワーフたちの中央には、デワンもよく知る人物が座っていた。
「ドゥルムさん!?」
ギルドに所属しない野良の建築家であり、デワンの大叔父にあたる人物だ。
一般的にすぐ怒鳴り、すぐ殴るドワーフのお偉方のなかでは、珍しく穏健派として知られている人格者だった。
「おお、デワンの坊も来たのかい!」
ドゥルムと呼ばれたドワーフの老人は、白いあごひげを撫でつつ言った。
「どうしたんですか! この騒ぎは!?」
「おう、わしの古い知り合いからの紹介なんだが、新しい都市を作ろうっていう計画があるそうでね。ここに集まってるのは、そこに移住する予定の連中さ」
「願ってもないことですが……、信用できるんですか? そんな話が……」
「もちろんだとも。こっちに来なさい」
ドゥルムに手招きされて、デワンは席につく。
そして、テーブルの上に広げられた手紙を読む。
「条件は……、なになに……?」
・我は貴殿らに渡航費を支給する。
・我は貴殿らの衣食住を保証する。
・我は貴殿らに資材を提供する。
・我が貴殿らに求むものはひとつ、好きなように都市を作られたし。創意工夫を求む。
「お、おおぉ……」
「どうだい、面倒な依頼人の文句を聞いたり延々やり直すことがない、完全自由なものづくりだ! ワクワクしてくるだろう?」
「はい……っ!!」
デワンは目を輝かせた。
これまで雑用ばかりさせられていた彼にとって、これほど刺激的なことは他にない。
資材と土地を与えられ、自由にものづくりができる環境というのは、ドワーフにとって一種の夢のようだ。
しかも、移住者として受け入れられれば、一生食いっぱぐれがない。
「よし、決まりだ!」
こうして、デワンは新たな都市建設のために旅立つことを決めたのだった。
◆◆◆
「だいぶ活気が出てきたな!」
俺は、俺が領主を務める町、ペンテイアの工事を視察していた。
俺の呼びかけで集まってくれた職人たちが、カラッと晴れた青空の下、次々と建物の建築に取り掛かっている。
「シゴル殿のおかげですわい! 道具も建材も用意するから町を自由に作ってほしいとは……、まったくドワーフの扱いが上手い!」
隣にいるドワーフの老人がそう言った。
彼は、この町に移り住んだドワーフたちのまとめ役を務めている『ドゥルム』さんだ。
「いやいや、ドゥルムさんの協力があったおかげで、こんなにも早く完成させられますよ」
「ほっほー、ありがたいですのう」
「それにしても……、本当にすごいですね」
俺は、町の景色を眺めながら呟く。
今、俺のいる場所は、店屋通りと呼ばれる場所だ。
その名の通り、食料品店から武器屋、防具屋など、多くの店が並んでいる。
その数は早くも二十を超え、かなりの規模を誇っていた。
「これだけの建物をこんな速さで作るなんて……。やっぱりドゥルムさんの鍛冶の腕は本物なんでしょうね」
「ほっほー、そんなことはない。わしよりも腕の良い者はいくらでもいますわい」
謙遜するドゥルムさんだったが、俺は知っている。
彼がどれだけ素晴らしい技術を持っているかを。
「それでは、これからもよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ! また何かあったら呼んでくだされ!」
ドゥルムさんとの挨拶を終えたあと、俺たちは屋敷へと戻ろうとする。
「失礼、貴方がシゴル様でしょうか?」
すると、突然俺に声をかける者がいた。
振り返って見ると、茶髪に深緑色の眼、小さな眼鏡をかけた利発そうな見た目の女性だ。
「ああ、いかにも俺がシゴルだが……、お前は誰だ?」
「申し遅れました、私はテラッサ、…………バルギーラ共和国でしがない商人をしている者です」
そう言うと、テラッサと名乗った彼女は眼鏡の縁をなぞり、怪しく微笑むのであった。




