10話 ペンテイアの未来
魔鉱山の外に出ると、外はすっかり夜になってしまっていた。
このまま夜の砂漠を突っ切るのは流石に骨が折れる。
ルビナと俺は一晩の夜営をすることにした。
パチパチと燃える薪の音を聞きながら、俺は横になる。
ルビナは無表情のまま、黙々とたき火の世話をしていた。
俺はそんな彼女を眺めつつ、口を開いた。
「なあ、ルビナ」
「はい?」
俺の声に反応し、こちらを見るルビナ。
「巨オーガを倒した懸賞金が手に入るわけだが……、使いみちがないな。ルビナは何か欲しいものでもあるか?」
「えっと、わ……、私にですか?」
唐突の質問に、ルビナは珍しく困惑したような顔をした。
「私はマスターに作り出された存在、マスターにお仕えできるだけで満足です」
「いやいや、俺が作ったゴーレムといえど、お前は普通のゴーレムじゃない。お前にはお前の意思があるし、そういう風に作ったんだ。だから、何か希望があれば遠慮なく言ってくれ」
俺はそう言うと、彼女に向かって微笑む。
すると、彼女は少し困ったような顔をして、それから言った。
「あの、それでは……、お言葉に甘えて、お願いしたいことがあるのですが……、ちょっと大きなものですがいいでしょうか?」
「ああ、もちろんだ」
「ありがとうございます」
ルビナは嬉しげな顔になると、続けた。
「その……、ペンテイアの港にもっと人を呼んで、賑わわせたいのです」
「ほう……」
俺は、彼女の意外な要望を聞いて驚く。
まぁ、確かに、ペンテイアは俺が土魔術で作ったばかりの港だ。
定住している住民は俺とルビナの二人だけである。
「なるほどね。でも、どうしてだ?」
「それは……、マスターから受け継いだ記憶には『街』というものがありましたが、ペンテイアはそれと比べて寂しかったので……。もっと人が多い方が楽しいかと思います。それに、マスターはずっと隠れ住むような器の人物ではありません。町長となり、更には領主となるべき人物です!」
「ふうむ……」
俺は腕を組んで考える。
ペンテイアは、資材の積み下ろし港の他には、俺が休憩したり寝泊まりするだけの拠点として使うだけのつもりだったが……、それがルビナの望みであるなら、もっと施設を拡充させてみるのもいいかもしれないな。
それに、いい加減いつまでも自炊ではつまらないと思ってきたところだ。人が増え、食料品を扱う店が増えていけば、その住人や船乗りに向けて食事を提供する店も出てくることだろう。
「よし、いいぞ! 巨オーガの懸賞金を元手に、リオンに頼んでみるとしよう!」
そして、俺はルビナの頼みを了承しつつ、俺はルビナの頭を撫でた。
ルビナは少し照れたようにしていた。
焚き火の音ともに、夜が更けていく。
◆◆◆
月日は流れ、再びペンテイア港にリオンが来る日になった。
俺は、さっそくペンテイア拡充の話をリオンに伝えていた。
「ふーむ。新しい住民、ねえ……。それで、俺はどうすればいいんだい?」
「ああ。とりあえずは、どこか引越し先を探している人たちを集めてくれ。それと、この手紙をお前の伝手を使ってそれぞれの集落へ届けてほしいんだ」
「手紙?」
首をかしげるリオンへ、俺は数冊の封筒を手渡した。
「俺の修行時代の知己へ宛てた手紙だ。なくさないように頼むぞ」
「ふうん、どれどれ……。ってドワーフの都市国家宛てじゃねえか! よくあの偏屈者どもに知り合いがいるな」
ドワーフ、というのはこの世界における亜人種のひとつだ。
人間よりも小柄だが、鍛冶や細工などの技能に優れており、優れた武具の製造技術を持つことで知られている。
彼らは、主に北大陸の東方に位置する山脈地帯に住んでおり、そこにある洞窟の中に独自の都市国家を築いているのだ。
ただ、基本的に人間よりも頑固な性格の連中が多く、他の土地との交流を好まない。
それゆえに、リオンは俺がドワーフと交流があるということに驚きの表情を浮かべたのである。
「まあ、色々あってな。とにかく、その手紙を各集落の代表に渡してくれれば、後は向こうの方で話を進めてくれるはずだ」
「へいへい。わかったよ。しかし、あの偏屈者たちとどうやって知り合ったんだい?」
「そこはまあ、企業秘密ってとこで」
俺は笑ってごまかした。
「それより、そろそろ出航の時間じゃないか?」
「おっと、そうだったな」
「それじゃあな、手紙、よろしく頼んだぞ。あと食糧も少しずつ運び込んで来てくれ」
「おう、まかせとけ!」
俺は、リオンに別れを告げる。
こうして、ペンテイア港は少しずつ発展していくのであった。




