6話 ライバルは精霊王子
二人で手をつなぎながら図書館を歩いていると、だれかがリディの前をふさいだ。
「リディ。この前の授業でやっと空が飛べたみたいじゃないか」
見ると、短い金色の髪に青い目の男の子。鼻すじが通った顔は、リディにそっくりだった。
「……ジル」
ジル。この前、授業で聞いた名前だ。
リディはにらむようにして、ジルを見ている。
「にらまないでくれよ。僕は君の双子の兄だろう?」
リディの双子のお兄さん! だから、顔がそっくりなんだ!
「僕は小学生のころから飛べていたんだけどね。君は中学生でやっと飛べるようになったんだね」
え、何この子。リディのこと、バカにしてる?
思わずじっと見つめていると、ジルがわたしに気づいた。
「その子は?」
「この子は真琴。わたしの運命のパートナーよ」
「パートナー?」
ジルはわたしをジロジロと見ると、「はははっ!」と笑いだした。
「リディ。一人じゃ王様になれないからって、だれかに助けてもらおうとしてるの?」
そう言って、リディをバカにしたように見ている。
「いいね、パートナー。たとえ、君がパートナーを手に入れたとしても、僕には勝てないよ」
ジルはリディの目をのぞきこむ。
「伝説の魔法書を探してるんだって? 聞いたよ。それで魔法を強くしようとしてるんだ?」
リディはジルをにらんだまま、何も言わない。
「君が魔法書を持ってても、うまく使いこなすことなんてできないよ。僕くらい魔法が使えなきゃね」
ジルはリディの肩に手を置いた。
「がんばってね。二位さん」
そう言ってから、笑いながらジルは歩いていった。
何、あの態度。リディのお兄さんだからって態度悪すぎ!
「リディ、大丈夫?」
リディは目に涙をためてうつむいていた。
「くやしい、くやしい!」
そう言って、地団太を踏む。
「ジルはわたしといっしょにうまれたのに、何でもできる! 勉強も、魔法も! ジルに勝てない!」
リディの目から、ボロボロと涙がこぼれてる。
その様子に気づいたまわりの人たちが、どうしたんだろうとこちらを見ていた。
「リディ、場所移動しよ!」
リディを連れて、外に出た。図書館の外には庭があって、そこにベンチがあった。
二人でベンチに座ると、リディは「はぁーっ」と息を吐いた。
「はずかしいところ見せてごめんね。わたし、ジルのこと、苦手なの」
リディがジルのこと苦手になる理由はよくわかった。
あの、人のことをバカにした態度。どうしたって、好きになれない。
「でもね、ジルは何でもできる。だから、ジルは王様に一番近いのよ」
リディでも、何でもできてすごいのに、それよりできるってことは、もっとすごいってことだもんね。
でも、あの性格の人が王様なんてつとまるかなぁ……。
「ねえ。リディはどうして王様になりたいの?」
そう聞くと、リディは優しく目を細めた。
「わたしね、お父様のことを尊敬してるの」
「お父さん?」
「そう。お父様が今の王様だって、話したでしょう? お父様が王様になって、自然がいっぱいになったの。それに、人間もほかの生き物も、みんな幸せになった。今の国はとても好きなの」
リディは立ち上がって、こちらを見る。
「でもね、穏やかで平和な国じゃ、だめだって言う人がいるの。強くなくちゃ、ほかの国に勝てないって。強くて、ほかの国より強い国がすごいんだって」
「強いって、そんなに大切なこと?」
わたしがそう言うと、リディは嬉しそうにほほえんだ。
「わたしもそう思う。だからね、今の幸せな国のままでいたいの。そのために、わたしは王様になりたいの」
そう言うリディの顔はかがやいていた。
わたしはまぶしくて、下を向いた。
「すごいな、リディは」
「え?」
「わたしはね、なりたいものがないの。それに今日だって……教室が怖かった」
「教室が怖いの?」
リディの言葉にうなずく。
「わたしは、親の仕事の都合で、いっぱい転校したの。でも、クラスの子と仲良くなれなくて……いつもひとりぼっちだった」
だから、おまじないにたよった。怖いことも、緊張することもいっぱいあるから、おまじないで解決しようとした。
「わたしはこんな小さなことでなやんでる。なのに、リディは大きなことを目指してて……。わたしとは、全然ちがう」
そう言って、うつむいていると、リディがわたしの手をとった。
「そんなことないよ!」
しゃがんで、目線を合わせてくれる。
「真琴だって、目の前のことをがんばろうとしてるじゃない! 真琴は一人でこの世界に来て、なんとか慣れようとがんばってる!」
リディはわたしの手をぎゅっとにぎりしめた。
「がんばってる真琴はすごいよ!」
その言葉で、胸が温かくなった気がした。ぽわぽわとした気持ちになる。
「……わたし、がんばってるかな」
「がんばってるよ。さすがわたしのパートナー!」
リディはすごい子だ。そんな子がわたしをパートナーと呼んでくれる。わたしの存在をみとめてくれる。
「わたし、リディの応援がしたい」
「真琴?」
「わたし、もっとがんばる。がんばってるリディの助けになりたいの」
「ありがとう、真琴! わたしも一生懸命、真琴がもとの世界に帰れるようにするね!」
「じゃあ、約束」
わたしが小指をさしだすと、リディは首をかしげた。
「その小指をどうするの?」
「指切りげんまんをするの。こうやって、小指どうしをからめて……」
わたしはリディと小指をからめると、縦にふった。
「指切りげんまん、うそついたら、はり千本のーます! 指切った!」
「はり千本飲むの?」
「そういうおまじないだよ。本当に飲むわけじゃないよ」
「そっか、よかったぁ」
「精霊の森に行ったら……わたしがリディを守るから」
わたしの言葉にリディがほほえむ。
「ありがとう。真琴」




