3話 パートナーになるということ
リディが用事があって職員室に行っている間、わたしは教室に一人でいた。
でも、だれともおしゃべりができなくて、机に座って小さくなっていた。
「真琴さん」
呼ばれて顔を上げると、学園長先生が教室の外で手まねきをしていた。
わたしは立ち上がって、教室の外へ行く。
「学園長先生、どうしたんですか?」
「学園生活はどうですか?」
そう言われて、わたしは顔を下げる。
「わたし、なにもできなくて……わたしはリディのパートナーとして、この世界に呼ばれました。けれど、リディはわたしと違って、なんでもできます。わたしは本当に必要なのかなぁって思っちゃいます」
学園長先生はほっぺに手を当てると、首をかしげた。
「リディさんにだって、できないことがあるわよ。だから、あなたを呼んだのでしょう?」
「そんなことないです! リディは勉強も魔法できて、クラスの子たちにも先生にも信頼されてて……本当にすごい! 欠点なんてないですよ!」
わたしの言葉に学園長先生はくすくすと笑う。
「まだあなたたちは出会ってから三日しか経っていないのよ? 知らないこともたくさんあるはずだわ」
「でも……」
「あなたたちはもっとおたがいのことを知るべきだわ。リディさんの話をもっと聞いてみてごらんなさい。そして、あなたも自分のことをたくさん話すの。パートナーになるかどうか決めるのはそれからでもいいんじゃないかしら?」
「わたしが決めていいんですか?」
「ええ。パートナーがほしいのはリディさんの都合。あなたがそれにふりまわされなくてもいいの。無理にパートナーにならなくてもいいのよ」
そう言われて、ふっと気持ちが軽くなったような気がした。
わたしがパートナーになるかどうか決めていいんだ。
リディともっと話をしよう。そうしたら、わたしがどうしたいかわかる気がする。
そう思っていると、学園長先生がふふふっと笑う。
「けれど、リディさんの良いところをたくさん見つけられたのですね。それはとても素敵なことだわ。ねえ。真琴さんはリディさんのこと、好き?」
「……まだわからないです。でも、いい子だと思います」
「じゃあ、仲良くなりたい?」
「……仲良くなりたい」
「今はそれだけで十分ですよ」
学園長先生はポンポンと優しく頭をなでてくれる。
「あなたたちはきっと、素敵なパートナーになれますよ」
全部の授業が終わったあと、リディが文字を教えてくれた。
「真琴の国では、どんな言葉を使ってるの?」
「どうして、わたしの国の言葉について聞くの? わたしが知りたいのは、この世界の言葉だよ」
「だって、共通点があるとわかりやすいもの。ね、どんな言葉?」
なるほど。たしかに、共通点があると、言葉に親しみを感じやすくなるかもしれない!
さすが、リディだな。なんでもできる優等生だ。
「わたしの国では、日本語が使われているよ。文字はね、ひらがなとカタカナ、漢字って呼ばれる三つの文字を使ってるの」
「三つの文字!? 同じ日本語なのに!?」
リディが驚いたことに、わたしも驚いた。
「普通じゃないの?」
「全然、普通じゃないよ! わたしの世界は一つの文字を使ってるよ! 三つの文字を使うなんて、真琴は賢いんだね! きっとすぐに覚えられるよ!」
「そうかなぁ……」
リディに褒められると、なんだかできるような気がする。
「たとえば、どんな文字があるの? 書いてみてくれる?」
リディに言われて、わたしは紙に文字を書いた。
「たとえばね、同じ音でも『か』と『カ』と『加』があるよ。漢字だとね、ほかにも『可』『化』『火』とか……いろんな字で書けるの」
「漢字って難しいね……。でも、ひらがなとカタカナはこの世界の言葉に近いかも!」
リディは紙に一文字書いた。
「この世界もね、一つの音に一つの文字が当てはまるの。『か』だとこの文字を書くんだよ」
「一つの音に一つの文字! それなら覚えやすいかも!」
「うん、漢字より全然難しくないよ!」
リディの言葉にうなずく。
「じゃあ、書きながら覚えてみよう!」
わたしはリディに文字を教えてもらいながら、必死に書いて覚えた。
教室から出て、リディと手をつなぎながら、寮へと歩いた。
「真琴は得意なことないの?」
「そうだなぁ……。あ、剣道をやったことあるよ!」
「剣道?」
「うん、剣を使った競技なの! といっても、本当の剣を使うわけじゃないんだけど……」
「すごいじゃない! じゃあ、お父様に言って、魔法の剣を用意してもらいましょう!」
「魔法の剣?」
「そう! 力がなくても魔力で敵を倒すことができるの!」
リディはそう言うと、ふふふっと笑う。
「どうしたの?」
「真琴は何もできないって言ったけれど、できることあるじゃない」
「でも、強くないし、上手くもないし……」
「わたしは剣を振ることはできないわ。真琴は自分が気づいていないだけで、できることたくさんあると思うわよ」
そう言われて、わたしは立ち止まった。
「真琴?」
「……わたしね、自分には何もできないと思ってた」
人に話しかけるのは苦手だし、授業で手をあげるのも苦手だし、リディより何もできないし……。
「でも、今日、いっぱいリディにほめてもらって……わたしにも何かできることがあるのかもしれないって思えたの」
わたしは手をぎゅっとにぎって、リディを見る。
「わたし、リディの助けになりたい!」
「真琴……」
「リディみたいに何でもできるわけじゃないけど……わたしは、わたしのことを見てくれるリディのパートナーになりたいから」
リディはほっぺを赤くして、目をうるませる。
「最高よ、真琴! さすがわたしのパートナーだわ!」
リディはわたしの手を両手でつつみこむ。
「わたしの願いを叶えてくれるかわりに、あなたの願いはわたしがかなえるわ」
そう言って、青い目がウインクする。
「真琴がもとの世界に戻る方法をかならず探すわ! だから、わたしにまかせて!」
わたしたちは顔を見合わせて、にこりと笑う。
「リディ。まずは何をしたらいいの?」
「そう、わたし、考えたんだけどね。やっぱり、王様になるためにはだれよりも魔法ができなきゃいけないと思うの」
「たしかに。魔法を使えたら、みんなを守れるもんね」
「だからね、もっとすごい魔法を使える方法をしらべようと思うの。真琴、何かいい方法ある?」
「そうだなぁ。やっぱり、魔法についてくわしいのは、先生たちだよね」
「たしかに! さすが真琴!」
リディは右手をにぎりしめて、上へのばした。
「明日、授業終わったら、先生たちに聞きに行こう!」




