2話 魔法学園
それから、わたしはリディの部屋でお泊まりをした。偶然にも、リディの部屋にベッドが二つあったの。
ベッドにもぐりこむと、リディが言った。
「明日はいっしょに学校へいきましょう」
「学校?」
「そう。学園長には話を通しておくわ」
そっか、ここには学校があるんだ。そうだよね。学校に行かなきゃいけないよね。
気持ちがどんよりとする。
……わたし、新しい学校に行くの、苦手なんだよね。
わたしの家は、お父さんが転勤で引っ越しが多かった。だから、何回も転校をした。けれど、まだ慣れないの。新しい友達も作れないし……。
すごく怖い気持ちになりながら、目を閉じた。
「真琴はおねぼうさんなんだね」
朝、リディといっしょに学校へ歩いていた。
「ちがうよ! 昨日はよく眠れなかっただけで……。いつもはちゃんと早起きしてるもん」
「わかった、わかったから」
一生懸命、説明してるのに、リディは信じてくれない。
リディが住んでいたのは、リディのおうちじゃなかった。
寮っていって、学校に通うためのおうちで、学校に通う子たちといっしょに住んでるんだって。
「それにしても、リディの制服かわいいね」
リディは制服を着ていた。青い襟に、青い折り目のついたプリーツのスカート。靴は紺色でとてもかわいかった。
「真琴も、学校に着いたら、制服着ようね」
「わたしも?」
「そうよ。だって、今日から通うんだもの!」
リディは鼻歌を歌いながら歩いている。わたしはそんなリディとなりを歩いた。
そうしていると、まわりの子たちがチラチラとこちらを見てくる。なんだろう?
「精霊姫が誰かといっしょにいるぞ」
「制服着てないね。誰だろう?」
精霊姫? 精霊姫ってなんだろう?
「リディ、精霊姫って何?」
「精霊っていうのは、妖精の一種ね。精霊のお姫様ってこと」
「リディは精霊姫なの?」
「そうよ。わたしは精霊のお姫様なの」
「ええっ!」
てっきり、リディのこと、人間だと思ってた! 妖精だなんて、知らなかった……。
驚いているわたしに、リディは「ふふん」と笑う。
「この世界には精霊以外にも、いろんな生き物がいるわよ。また教えてあげるわね」
そんなことをしゃべりながら、二人で歩いていると学校に着いた。
「ここが、あなたが今日から通う学校よ」
そこに建っていたのは、大きなお城のような学校だった。レンガで造られた古そうな建物。大きさはわたしの通っていた学校よりもうんと広い。学校の端っこが見えないくらい大きかった。
「まずは、学園長室ね」
廊下は電気がなくて、ろうそくが並べられてた。でも、窓から入る日差しで暗くなかった。
制服を着た男の子や女の子がジロジロとこちらを見ている。見られているのが怖くて、リディの後ろにかくれた。
「真琴、どうしたの?」
リディがふしぎそうにこちらを見てる。
怖いってリディに言いたくなかった。
はじめての学校って、いつも怖い。こっちを見られるのも、怖かった。
リディは首をかしげて、わたしの手をとった。
「ほら、行こう?」
リディの手は温かかった。その温かさのおかげで、少し怖いのがなくなった。
「ここが学園長室よ」
リディは扉をノックすると開けて、声をかけた。
「学園長先生、おはようございます」
「朝から元気ですね、リディさん」
リディといっしょに中に入る。学園長室は、壁に本棚が並んでいて、本がたくさんしまわれている。本も古そうなものばかりだ。
その真ん中に、学園長の席が置かれていた。
「いらっしゃい。あなたが真琴さんですね」
長い髪を頭の上で一つにまとめて、丸い大きなメガネをかけた女の人がいた。
その人は優しく笑うと、こちらを見た。
「ようこそ、魔法学園へ」
……魔法学園?
わたしはおもわずリディを見る。
「魔法学園って?」
「そのままよ。魔法を勉強する学校なの!」
魔法!? すごい、ここは魔法が使えるの!?
私、魔法にすごくあこがれてた!
だって、アニメやマンガで、みんな使ってるもん! わたしも使ってみたいと思ってたんだ!
「この世界にいる人はみんな、魔法が使えるのよ。だから、真琴さんもきっと魔法が使えるはず」
学園長先生は優しく笑いながら、両手を合わせる。
「さっそく、制服にきがえましょうか」
制服を用意してもらって、わたしはさっそくきがえた。
わたしの通っている学校には制服がなかった。だから、制服を着ると、少しおとなびた気持ちになる。
少しはずかしいなって思いながら、二人の前に行くと、二人とも顔をかがやかせた。
「とても似合ってるよ、真琴!」
「すてきね。もうりっぱなこの学校の生徒よ」
学園長先生は、数冊の本と筆記用具を手渡してくれる。
「これは勉強に使う道具よ。それに、これ」
くれたのは一本の棒だった。
「これって?」
「魔法の杖よ」
「これが魔法の杖!」
かざりけのないシンプルな杖だった。でも、この杖から魔法が飛び出ると思うと、今からワクワクする。
「しっかり、魔法を学んできてね」
学園長先生に見送られ、わたしたちは手をつないで教室に向かった。
リディのとなりに歩いていたのに、教室に近づくと、わたしは怖くてリディの後ろにかくれた。
「どうして、うしろにいるの?」
「……だって、怖いんだもん」
知らない子ばかりが教室にいるんだよ。知っている子でも怖いのに……。
わたしは、手に『人』って書いてのみこむ。
「何してるの?」
「緊張しないおまじないだよ」
何回もやって、やっと気持ちをおちつかせる。
「じゃあ、入るよー」
リディが教室の中に入る。わたしもいっしょに入って、足を止めてしまった。
たくさんの目がこちらに向けられている。怖くてリディの手をにぎる。
「リディ。その子だれ?」
「真琴よ。わたしのパートナー!」
「パートナー? 何それ」
「いっしょに夢をかなえる、運命のパートナーなの!」
リディったら、またそんなこと言って……。わたしは何もできないのに。
「真琴ちゃん? よろしくね!」
声をかけてくれた女の子がわたしを見る。わたしは顔をひきつらせた。
「えと、あのその……」
なんて言ったらいいか、わからない。どう返事しよう……。
「みんな、席につけー」
わたしたちの後ろから、女の人が声をかけた。きっと、このクラスの先生なのだろう。
「真琴。君は前で待っていてくれ」
「へ……」
みんな、席に座っていく。それなのに、わたしだけ前で立っている。
「このクラスに今日から入る真琴だ。みんな、仲良くするように」
クラス全員の視線がこちらに向いている。
「真琴、一言言えるかい?」
「は、はひ……」
転校するとき、いつもこの時間が苦手だった。それを思い出して、口が開かない。
みんなが見ている。何て言ったらいいかわからない。どうしよう。怖い。逃げてしまいたい。
「先生! 真琴はわたしのとなりの席がいいな!」
リディが大きな声で手をあげている。
「お、そうか。じゃあ、リディのとなりに座ってくれるか?」
リディが前に出てきて、わたしの手をとる。
「真琴、いっしょに座ろう?」
手を引かれて、リディのとなりの席に座る。
「じゃあ、授業はじめるぞー」
みんなの視線から逃げることができて、ほっと息を吐く。
「真琴、いっしょに授業を受けるの楽しみだねぇ」
リディのとなりにいると、少し怖さがなくなった。
「体の中の魔力を使って、魔法を使うことができる。この世界にいる人はみんな、魔力があるんだぞ」
わたしは教科書を見ながら固まっていた。
教科書に書かれているのは、初めて見る文字。日本語とも、英語ともちがう。
どうしよう。全然読めない!
右を見ても、左を見ても、みんな、当たり前のように授業を受けている。みんなには読めるんだろう。
わたしは授業中当たらないように、体を小さくしていた。
「じゃあ、魔法の使い方について、リディ。答えられるかい?」
「はい!」
リディは堂々とした様子で立ち上がる。
「わたしたちは、体の中に流れる魔力を杖を使って、魔法にします。魔力の流れを意識し、呪文をとなえる。そうすることで、魔法を使うことができます」
「よくできたね。さすがリディだ」
クラスのみんなは尊敬のなまざしでリディを見ていた。でも、リディは嬉しそうにせず、当たり前という感じで席に座る。
……すごい、リディ。勉強ができるんだ。
わたしは教科書を見つめる。
それなのに、わたしは文字すら読めない。
わたしは顔を上げられず、うつむいたまま授業を受けた。
授業が終わったあとも、じっとしていると、リディはふしぎそうにこちらを見ていた。
「真琴、どうしたの?」
「……文字が読めないの」
文字が読めないなんて、はずかしかった。小さな子どもじゃないのに。
泣きたいのをぐっとこらえていると、リディはほほえんだ。
「そうなんだ……。じゃあ、わたしが教えるよ!」
「リディが?」
「まかせて! わたしは天才少女なんだから!」
リディの言葉に反応して、クラスの子がこちらを向いた。
わたしは思わず、体を震わせたけれど、その子は気にせず口を開く。
「リディはクラスの中で、一番頭がいいのよ。魔法も上手なんだから!」
「へへっ。褒めても何も出ないよ~」
リディは嬉しそうに胸をはっている。
でも、クラスメイトの子が言ってたとおり、リディは魔法もすごかった。
「次は魔法の授業だ」
運動場にみんなで移動して、魔法の授業になった。
みんな、ホウキを手に持って立っている。
「空を飛ぶ練習をするぞ。みんな、ホウキにまたがって」
みんな、ホウキにまたがって、足元を見た。
「呪文をとなえるのよ。エレクザラーブ!」
「エレクザラーブ!」
みんな一斉に呪文をとなえるけど、何も起きない。
「あれ、飛べないよ?」
「全然だめじゃん」
その言葉に、先生は豪快に笑った。
「わはははっ! 最初はそんなもんよ。少しずつできるようになって……」
「エレクザラーブ!」
リディだけ、もう一度呪文をとなえた。すると、ふわりと足が地面から離れる。
「わっ」
リディはゆっくりと浮かび上がっていく。気づけば、木の高さまで浮かび上がっていた。
「先生、見てみて~!」
手を振りながら、リディはプカプカと浮いている。
「さすがリディね! みんな、リディを見本にもう一度、呪文をとなえてみて」
「エレクザラーブ!」
みんな、呪文を何回もとなえて、空を飛ぼうとする。
「よぉし、わたしも!」
わたしもホウキにまたがって呪文をとなえた。
「エレクザラーブ!」
けれど、何も起きない。
「なんでぇ……」
「真琴、調子どう?」
リディが地面に降りてきて、こちらに駆けてくる。
「飛べた?」
「……飛べない」
「そっかぁ。じゃあ、またわたしと練習しよ!」
リディはそう言ってくれる。
リディはすごいな。それだけ一人でできるんだったら、パートナーなんていらないんじゃない?
そう思ってたら、ほかの子たちの話し声が聞こえてきた。
「リディはすごいな」
「けど、学校で一番じゃないんでしょ?」
「だって、ジルがいるもん」
……ジル? だれのことだろう?
リディを見ると、話が聞こえていたのか、暗い顔をしてうつむいていた。
「リディ、どうしたの?」
声をかけると、リディは顔を上げて首を横に振る。
「ううん、何でもないよ!」
リディは笑ってそう言っていたけど、さっきの顔がちょっと気になった。




