1話 精霊姫のパートナー
わたしは、おまじないが好き。
教室の前、わたしはポケットに入っているお守りをにぎりしめた。
「シャンリ、シャンリ、シャンゼ。わたしに勇気をください」
おまもりにそうお願いをした。これは、勇気が出るおまじない。
わたしは勇気が出なくて、クラスの子たちにあいさつできない。だから、おまじないに力をもらって、今日こそ、みんなにあいさつをしたい。
そうしたら……友達ができると思うから。
わたしは顔を上げて、教室に入った。
入り口の近くにいた子にあいさつしようと、立ち止まる。
あいさつしよう。あいさつするんだ!
ポケットのお守りをにぎって、その子を見る。
「お、おは、おは……」
うまく言葉が出ない。声を出そうとすると、顔が熱くなって、息が苦しくなった。それがはずかしくて泣きそうになっていると、その子がこっちを見た。
「真琴ちゃん、どうしたの?」
「あ……」
頭が真っ白になる。それ以上、何も言えなくなっちゃった。
「ごめんなさい……」
わたしは顔を下げて、その子のとなりを通りすぎる。そのまま、自分の席に座った。
「うう~」
涙がぽろぽろと流れてくる。自分が情けない。
わたしはいつもそうだ。がんばろうって思うのに、うまくできない。
あいさつもできないから、友達もいない。
わたしはお父さんの仕事の都合で、おひっこしが多い。だから、小さいときからの友達もいない。新しい学校で友達を作ろうと思っても、勇気が出なくて、あいさつもできない。
だから、わたしには仲のいい友達が一人もいないの。
習い事をしてみたこともあった。お父さんがやっていたからはじめた剣道。練習は一生懸命やってたんだけど、声が小さいってよく怒られて……。試合でも勝てないから、引っ越しを理由にしてやめちゃった。
わたしはなにもできない……。
泣いているのを見られたくなくて、本を開く。
図書館で借りたなぞなぞの本。なぞなぞは図書館でとても人気。だから、なぞなぞにくわしくなれば、もっと友達ができると思ってた。けれど、話せる子がいなくて、披露する機会もないんだけど。
本を読んでいると、話し声が聞こえた。
「わたし、異世界へ行ってみたいの!」
「異世界ってなに? 海外ってこと?」
「異世界っていうのは、べつの国っていう意味じゃなくてね、空飛んでも、船にのっても、たどりつくことができない場所なの!」
「よくわからないけど、日本でも外国でもないってこと?」
「そういうこと! 異世界ではね、魔法を使える場所があるのよ! それにね、異世界の友達を作ってみたいの!」
異世界……。
わたしはそっと顔を上げた。異世界っていう言葉をはじめて聞いた。異世界には学校はあるのかな。もしなかったら、わたしにも友達ができるのかな……。
ぼんやりと考えていると、先生が来て、授業がはじまった。
放課後、わたしは一人で図書館に向かった。
図書館は好き。みんな静かに本を読んでいるから。人の目も気にしなくていいし、図書館にはわたしの好きなおまじないの本も置いてある。
わたしは一人で、おまじないの本が置いてある本棚へ歩いていった。
本棚にはたくさんの本が並んでいる。おまじないの本はここらへんだから……。
「あっ」
見たことのない本を見つけた。わたしはその本を手に取ってみた。
ほかの本よりも厚くて、ずっしりしてる。開いてみると、小さな文字が並んでいた。
「すごい、難しそうな本……。でも、本物のおまじないの本なのかも」
その本が読んでみたくて、うずうずしてきた。
わたしはその本を抱えて、カウンターまで行った。
「先生。この本、借りたいです!」
図書館の先生に声をかけると、先生はにっこりとほほえんでくれた。
「まあ、木下さん。こんなに厚い本を読むの? えらいわね」
そう言って、貸し出し手続きをしてくれる。
わたしはその本を借りると、図書館を出た。
本は厚くて、ランドセルの中に入らなかった。だから、抱えながら家へ帰る。
家に着くと、わたしは自分の部屋にかけこんだ。
イスに座って、机の上に本を広げる。
「わぁ、たくさんおまじないがのってる……」
目次を見て、わたしはあるおまじないを見つけた。
「友達ができるおまじない……?」
やり方を読んでみたけれど、そんなに難しくない!
私は部屋をきれいにかたづけ、床に大きな紙をひろげた。
そこには、自分で描いた大きな魔法陣。線とかガタガタだけど、じょうずに描けて、いい感じ。
でも、本当に友達できるのかな……。
友達ができても、うまく話せないかもしれない……。
わたしは怖くなって、ポケットからお守りを取り出した。両手で包みこみ、おまじないの呪文をとなえる。
「シャンリ、シャンリ、シャンゼ。わたしに勇気をください」
そのお守りをポケットに突っ込み、顔を上げる。
大丈夫。もう、わたしに怖いものはない……!
魔法陣の上にのって呪文をとなえる。
「カナサシェ、カナサシェ、お星さま。わたしのパートナーを見つけてください」
そう呪文をとなえれば、お友達ができる。そういうおまじないだった。
なのに。
「へ……っ」
描いた魔法陣が光りだした。
「え、まぶしいっ、なにっ!?」
部屋が光でつつまれる。わたしはおもわず、目を閉じた。
……まわりの空気が変わったような気がした。少しほこりっぽくて、暖かな空気だ。
まぶしさがおちついて、ゆっくりと目を開ける。
そこはわたしの部屋じゃなかった。
「ここ、どこ!?」
木でできた床に、白い壁。大きなベッドが端に置かれていて、おしゃれなイスとテーブルが置かれている。どう見ても、わたしの部屋じゃない。そして、真ん中に一人の女の子。
金色のくせのある髪、青い目。鼻すじが通ったきれいな顔。外国の女の子かな? きらきらした顔でこちらを見ている。
「来てくれてうれしいわ。いらっしゃい! わたしのパートナー!」
何を言っているのかわからなくて、わたしは首を横にかたむけた。
「どういうこと?」
女の子はニコリと笑う。
「あなたは伝説の魔法陣で呼び出された、わたしの運命のパートナーなの!」
「ええ!」
たしかに、わたしはおまじないで『パートナーを見つけてください』って言ったよ。でも、それはお友達がほしいって意味で……!
困っているわたしに気づかないで、女の子はわたしの手をとった。
「あなたの名前は?」
「ま、真琴。小学校五年生」
「私の名前はリディアーヌ。リディって呼んで! 真琴、これからよろしくね!」
「ちょっと、ちょっと待って! 運命のパートナーって何? ここはどこなの?」
リディは目をぱちぱちさせると、「ふふふっ」と笑う。
「このままじゃあれだし、座ってお茶を飲みましょ」
リディはわたしの手を引いて、テーブルまでつれていってくれる。そして、イスを引いてくれた。
「どうぞ、座って」
「ありがとう」
「お茶は飲みやすく、ミルクティーにしましょ」
わたしが来る前から用意していたのか、ポットからコップにミルクティーをそそいでくれる。
「どうぞ、めしあがれ」
「あ、いただきます」
はじめてミルクティーを飲むよ。どんな味かわからなくて、おそるおそる飲んでみた。
「……甘くておいしい」
「お砂糖も入ってるの。美味しいでしょ?」
「うん」
おいしい味にパニックになっていた気持ちが少しおちつく。リディはおもしろそうにわたしを見ていた。
「黒い髪に黒い目。あなたはわたしの世界ではめずらしい見た目をしているわ」
「わたしの世界?」
「そう、ここはワードリナ王国。あなたがいたところとはちがう世界なの」
もしかして、ここが異世界……っ!
外国にも旅行いったことないのに、べつの世界に来ちゃったよ! この部屋だけでも、ヨーロッパみたいで素敵なのに、外はどんな感じなんだろう?
「それで、どうしてわたしはここにいるの?」
「それが運命のパートナー! 伝説の魔法陣を使って呼びだされた相手はわたしのパートナーになるの」
「魔法陣はわたしも使ったよ!」
「そうなの! やっぱり、わたしたちは運命でつながっているのね!」
だから、この世界に来ちゃったんだ。
「パートナーは二人でいっしょに夢をかなえるの!」
「夢? リディは何かかなえたい夢があるの?」
リディは両手を合わせて、きらきら笑顔でうなずいた。
「そう! わたしはこの国の王様になりたいの!」
「王様?」
「わたしのお父様はこの国の王様でね、わたしもお父様みたいなかっこいい王様になりたいの!」
かっこいい王様……。そう言ってるリディはすごくまぶしかった。すごいな、わたしは自分が何になりたいかもわからないのに……。
「だから、真琴! わたしの願いをかなえて!」
「……わたしがかなえるの?」
「そう。そのためのパートナーでしょ?」
わたしはあわてて首を横にふった。
「むりだよ! わたしにはそんなことできないよ!」
「大丈夫だよ。だって、あなたはわたしのパートナーだもん!」
「むりだよ! わたし、帰る!」
そう言って立ち上がる。でも、どうやって帰るかわからない。
「ねえ、どうやって帰ればいいの?」
リディは笑顔のままかたまる。
「リディ?」
「……わかんない」
「え?」
「真琴がもとの世界にもどる方法、わかんない!」
「ええーっ! わたし、おうちに帰りたいよ! おうちに帰してよ!」
「ごめん、ごめんって! 探すから! 真琴がおうちに帰る方法探してあげるから!」
リディは手のひらを胸にあてる。
「大丈夫よ、わたしは天才だもの。このリディにまかせて!」
わからないって言ってたのに、本当かなぁ。でも、このままじゃ、おうちに帰れないし……。
「じゃあ、帰るまでよろしくね、リディ」
「まかせて、わたしのパートナー!」
リディはにこにこしながら言う。わたしはリディのパートナーじゃないけどね。




