11話 部屋の中には
次の日、わたしたちは馬車に乗って、城の図書館へ向かった。
「ようこそいらっしゃいました、リディアーヌ様」
この前来たときに案内してくれた司書さんがでむかえてくれた。司書さんはにこっと笑う。
「今日もジルベール様がいらっしゃってますよ。同じ日に図書館に来るだなんて、仲良しですね」
「ジルが……」
リディがうつむく。わたしはリディの手をにぎって、司書さんに言った。
「今日は地下書庫に用があるんです!」
「まあ、地下の本にも興味があるんですね! では、案内しましょう」
司書さんのあとをついていくと、貸し出しカウンターと隣に下へ続く階段があった。
「ここから、地下へ行けるんですよ」
階段を下りていくと、そこにはギッシリと本がいっぱいの部屋があった。
「ここには、地上とは違って、専門的な本がたくさんあります。何か探したい本はありますか?」
「あの、わたしたち……」
わたしが地下書庫の奥の部屋に行きたいと言おうとすると、リディが言葉をさえぎった。
「大丈夫です。自分たちで探します」
司書さんはにこっと笑うと、おじぎをした。
「わかりました。何かありましたら、お呼びください」
そう言うと、司書さんは地上へ戻っていく。
「どうして奥の部屋について聞かないの?」
「ジルがいるって言ってたでしょ? ……もしかすると、ジルはわたしたちを邪魔しに来たのかもしれない」
「え、そんなこと……」
「あるわよ、だってジルだもの。そうなったら、司書さんに迷惑をかけちゃう。わたしたちのことは、わたしたちで解決しないと」
「そっか……」
わたしとリディは「ふーっ」と息を吐くと、お互いの手をぎゅっとにぎった。
「魔法書の部屋を探そう、リディ」
「ええ、絶対に魔法書を手に入れるわよ、真琴」
奥の部屋ということは、階段から見て、奥の部屋ということかも。わたしたちは、奥の壁際まで歩いていく。
奥の壁際に来ると、そこには扉があった。そして、そこにはジルの姿があった。
「やあ、リディ。伝説の魔法書を手に入れに来たんだって? ここまで来たと言うことは、この部屋を開けるカギを見つけたということだ」
「どうして、わたしたちがここに来るとわかっていたの?」
「君たちが司書に聞いたんじゃないか。この部屋について。ここに魔法書があるんだろう?」
ジルはそう言うと、こちらに手を差し出した。
「カギを渡してもらおうか」
リディはスカートをぎゅっとにぎりしめた。
「いやよ。これはわたしと真琴が手に入れたもの……。絶対に渡さないわ!」
リディがそう言うと、ジルは「まったく」と息を吐く。
「君は王様になりたくて、魔法書を手に入れるんだろう? 君は王様をどんなものだと思っているんだい?」
「それは、穏やかで平和なこの世界をおさめるために……」
「違うよ。王になるのは綺麗事だけでは済まされない。穏やかで平和な国なんて、甘い。強い国こそが、国民が求める姿だ」
「穏やかで平和な国は大切よ! お父様だって……」
「強くなければ、ほかの国に脅かされる。その分、国民は不安になるだろう」
ジルはそう言うと、両腕を広げる。
「王になるのは、僕のように優秀で魔力も強く、君のように魔物を恐れるような弱虫でない者こそふさわしい」
リディはくやしそうにくちびるをかみしめる。何も言い返せないみたいで、うつむいてしまった。
「リディは弱虫じゃない!」
私はつないでいるリディの手をぎゅっとにぎりしめた。
「リディは魔物が怖くても、立ち向かったもの! それに、リディが必要なのは強さだけじゃない。リディのような優しさだよ!」
「真琴……」
リディはポケットからお守りを取り出した。お守りを握りながら、顔を上げた。
「そうよ……! 優しさも強さの一つよ! 暴力だけが強さじゃない! わたしは父様のような優しい王様になるんだから!」
「リディが僕に言い返しただと……」
ジルは驚いたように目を開いたが、クツクツと肩を震わせて笑い出す。
「すごい、すごいや……。真琴、だっけ? 君がリディを変えたのか」
ジルは目を細めてわたしを見る。鋭い目がわたしをとらえて離さない。
「……君が欲しくなったな。リディ。彼女を僕に譲ってくれ」
ジルがこちらに手をのばしてくる。リディはわたしを抱きしめた。
「真琴は私のだからだめ!」
「残念だ。今はあきらめてあげるよ。その代わり、カギの方を渡してもらおう」
ジルが小さく呪文をとなえると、リディのポケットに入っていたカギが勝手に出てきた。
「あっ、カギが……っ!」
カギはジルの手のひらにスッポリおさまる。
「魔法書は僕がもらうよ」
ジルは鍵穴にカギを入れて、回した。けれど、カギが回らない。
「なぜ? なぜカギが開かない」
「そこに何か書いてあるよ!」
その扉には札がかけられていた。そこには日本語で「カギを手にした者のみ開けられる」と書かれていた。
「カギを手にした者のみ開けられる……。つまり、わたしたちじゃないと扉を開けられないってこと!」
わたしがそう言うと、ジルはくやしそうにカギを返してくれる。
「さっさとカギを開けてくれ」
「言われなくても」
リディはカギを受け取ると、鍵穴にカギを入れた。わたしたちは二人で手を重ねてカギを回す。
ガチャリ……。
カギが開く音がした。わたしたちはゆっくり扉を開く。
「真琴、入りましょう!」
「うん!」
わたしたちが部屋に入るのと一緒にジルも中に入ろうとした。けれど、ジルは中に入って来ない。
「なんだ、これは。見えない壁があるぞ」
「カギを手に入れた人しか中に入れないのかしら?」
「くそ……っ。必ず魔法書を持ってこいよ」
ジルは中に入るのをやめ、外で立っていた。扉が勝手に閉まる。ガチャリとカギが閉まる音がした。
「カギが閉まった。どうやって外に出よう?」
「大丈夫よ。カギはわたしたちが持ってるんだから、開けられるわ。それよりも……」
リディの視線の先を見る。そこには木の豪華なテーブルの上に、古い本が置かれていた。ずっと置かれていたにもかかわらず、ホコリをかぶっていない。
それにしても、この本、見たことがあるような……。
「これが伝説の魔法書……」
リディが手に取って、本を開く。じっと本を見つめていたリディは眉をよせた。
「真琴……これ、まさか……また日本語?」
魔法書を手渡されて、中を見る。そこに書かれていたのはやっぱり日本語だった。
「たしかに、日本語だ。でも、これって……」
そこに書かれていたのは魔法じゃなかった。
「これ、おまじないだよ!」
表紙を見たことがあるような気がした。それも当然。だって、この本は私が学校の図書館で借りたのと同じ本。わたしがこの世界に来るおまじないがのっていた本だった!
「おまじない? 真琴の世界にある魔法?」
「魔法じゃないよ! でも、どうして? どうしてこの本がこの世界にあるの?」
同じ本が二つある……ということは、誰かが本を持って、世界を渡ったということ。……ということは、わたしも元の世界に戻れる?
「それはあとで考えましょう! 今はどうにかして、ジルにこの魔法書をうばれないようにするか!」
リディの言葉に、わたしは手をあげた。
「それなら、わたしにいい考えがあるよ!」
わたしは魔法書をペラペラとめくって、あるページを見つけた。
「このおまじないを使うのはどう?」
「どんなおまじない?」
「それはね……」




