10話 覚悟
森の奥にどんどん進んでいく。あのクマの魔物より強い魔物は出てこなかった。
小さな魔物を、わたしとリディで力を合わせて倒しながら進んだ。
森の前には大きな門がある。その前に小さな女の子が二人立っていた。
可愛らしいロリータ服。黒くて短い髪は二人ともおそろい。
「あの子たち、かわいい! 何してるんだろう?」
「あの子たちは門番よ」
「門番?」
「この門を守ってるの」
リディは女の子たちの前に立った。
「わたしたちはこの門を通りたいの。通してくれるかしら?」
まっすぐ前を見ていた二人の女の子がわたしたちの方を見る。
「覚悟がない者は」
「通せません」
「あなたたちの覚悟を」
「見せてください」
女の子たちは交互にそう言う。
わたしとリディは首をかしげた。
「覚悟? どんなことをすればいいの?」
「どんなことでも」
それを聞いて、リディは一歩前に出て胸をはった。
「わたしは王様になる覚悟を持っているわ!」
「どのように?」
リディは胸元から何かを取り出す。
「これは王からもらった王様の後継者の証よ! この証は後継者にふさわしいって判断された人しか手に入れられないの。ジルはわたしより二年も早く手に入れたけど……。わたしも負けずにがんばったのよ! これがわたしの覚悟よ!」
門番の女の子たちは顔を見合わせてうなずく。
「あなたには覚悟がおありのようで」
「この門を通ることをみとめます」
二人の言葉に、リディはぴょんぴょんはねる。
「やったわ! 行きましょう、真琴!」
リディと一緒に門を通ろうとすると、門番の女の子たちがわたしの前に立った。
「あなたの覚悟をお見せください」
「見せることができなければ、通すことはできません」
「えっ」
どうしよう。わたしに覚悟だなんて……。
わたしはただの女の子だし、リディみたいに王様になりたいとも思ってないのに……。
「覚悟はありませんか?」
立ち止まって動けない。わたしにはリディみたいにすごいものは持ってない。
「大丈夫よ、真琴!」
リディがわたしの手を取る。
「あなたはあなたの覚悟がある! だって、わたしに言ってくれたじゃない」
そう言ってウインクをする。
わたしは顔を上げる。そうだ。わたしにも覚悟がある!
リディと手をつなぎながら、門番の女の子たちの方を見た。
「わたしは、リディのパートナーになりたい!」
わたしは胸元に手を当てる。
「わたしはあいさつもできないし、声も小さいけれど……リディがパートナーって言ってくれたから」
門番の女の子たちはまっすぐわたしを見ている。
「わたしはちゃんとリディのパートナーになりたい」
女の子たちはふわりとほほえんだ。
「みとめましょう」
「あなたには覚悟があります」
門番の女の子たちが両手を開くと、門のとびらが開いた。
「この向こうに、あなたたちの探すものがあります」
わたしとリディは顔を見合わせうなずく。
「行こう!」
わたしたちは手をつなぎながら門を通った。
「真琴、あれ!」
そこには大きな石があった。うすくて、大きな石で、平らなところに文字がほられている。
「あれは、石碑ね」
「石碑?」
「ここに来た人に何かを伝えるために、文字がほられた石のことよ」
リディは文字を何とか読もうとにらめっこしてる。けれど、わたしはその石碑の前においてあるものが気になった。
「これって、宝箱?」
その石碑の前には小さな宝箱。手のひらに乗りそうなほど小さい。
「宝箱! きっとその中に魔法書のある部屋を開けるカギが入ってるのよ! どう? 開けられそう?」
「カギがかかってて、あけられそうにないよ」
「そんな~」
リディは肩を落とす。
「文字は読めないし、宝箱も開けられないし、困ったわ」
「何て書いてあったの?」
「それがね、この世界の文字じゃなくて読めないのよ」
そう言われて、わたしは石碑の文字を見た。
「……リディ。これ、日本語だよ!」
「ええっ!」
そこに書かれていたのは日本語! よく考えたら、魔法書を作った王様は日本語を使ってた! なら、石碑に書かれた文字が日本語でも、なにもおかしいことはない。
「真琴、何て書いてあるか読める?」
「ええとね……」
そこにはこう書かれていた。
「カギをもとめる者、次の問題にこたえよ。『お風呂に入っているお湯の、さらに上にある、とても温かいものは何か』」
リディがふしぎそうに首をかしげた。
「何それ……お湯の上にある温かいもの? そんなものってある?」
「これ、なぞなぞだよ!」
「なぞなぞ?」
「そう! 言葉遊びやちょっとひねった問題でね、そんなに難しく考えなくていいの。たとえば……『パンはパンでも、食べられないパンは?』」
わたしの言葉にリディが目をパチパチとする。
「食べられないパン? くさっちゃったパンとか?」
「違うの! 答えはフライパン!」
わたしが答えを言うと、リディは両手を叩いた。
「なるほど! パンって言葉がついていればいいのね! 真琴の世界はすごいわ! そんな問題があるのね!」
「なぞなぞって、この世界にはないの?」
「ないわ。そんな難しい問題出されても、答えられる人いないもの」
難しいって……小さな子どもでも答えられる問題なんだけど。
リディはあらためて石碑と向き合った。
「お湯の上……ふつうに考えると、お湯で温められた空気だけど……」
「なぞなぞだから、ちがうと思うよ。きっと、言葉遊びとか入ってるはず」
わたしも石碑とにらめっこする。
でも、どれだけ考えても答えが浮かばない。
「ねえ、真琴。真琴の国では、一つの音に対して、いろんな文字がつくのよね。それにしては、文字の数が少なくない?」
「え?」
「だって、そのまま読んでいくと、お風呂に入っているお湯の……」
リディはそう言いながら、指で文字をなぞっていく。
けれど、『入っている』の文字から、読んでいる文字がずれていた。
「ああ、それはね、この『入』って文字が『はい』って読むの」
「え、二つの音に対して一つの文字!?」
そういえば、この世界では、一つの音の一つの文字が当てはまるんだっけ。
「じゃあ、これはもっと理解できないかも。この『上』って文字は『うえ』って読むんだけど、ほかにも『うわ』とか『じょう』って音も持っていて……」
そこまで言って、ハッとひらめいた!
「わたし、答えわかった!」
「え、本当!?」
「湯の上でしょ。この『上』って文字は『じょう』って音も持つ。だから『ゆのじょう』、『の』をなくすと『ゆじょう』、『ゆうじょう』……つまり、答えは『友情!』」
わたしがそう言うと、カチャンと何かが外れる音が聞こえた。
見ると、小さな宝箱のカギが開いている!
「リディ、見て! カギが開いてるよ!」
「本当だわ! 真琴の答えが正解だったのね!」
「さっそく、開けてみよう!」
わたしは宝箱を手に取ると、ゆっくりとフタを開いた。
そこには宝石の付いた綺麗なカギが入っていた。
「これよ、真琴! これが魔法書のある部屋のカギだわ!」
「やったね、リディ!」
「真琴がいなかったら、このなぞなぞも解けなかった! ありがとう、真琴!」
帰り道も魔物を倒しながら進んだ。
リディも積極的に攻撃しながら進んでいく。
「そういえば、リディ。魔法で瞬間移動ってできないの?」
「そういう魔法はあるわよ。でも、難しいの」
「どうして?」
「この魔法は器用さをもとめられるの。器用に場所を指定して、瞬間移動しないと、知らないところに飛ばされたりすることもあるのよ」
リディは優秀な魔法使いなのに、それでも難しいんだ……。じゃあ、瞬間移動で森の外に出る……というのはできないんだろうな。
しばらく歩いていると、森の外に出ることができた。
「ここまで来れば、もうすぐね! 真琴、明日、城の図書館に入れるようにお父様に伝えておくわ。今日は帰って休みましょ」
リディの言葉にしたがって、わたしたちは一度、寮に戻ってゆっくりと休んだ。




