第9話 反逆のデバッグ
「……イカサマをしたのは、そっちでしょ」
私が薄く笑いながらそう言い放つと、地下室は一瞬の静寂に包まれ、直後に爆発的な嘲笑に飲み込まれた。
『ギャハハハ! 負け惜しみも大概にしろ!』
『自分が負けた途端にイカサマを疑う。三流の素人がよく言うセリフだ!』
『証拠はどこにある!? 言いがかりをつけるならその舌を引っこ抜くぞ!』
天井のスピーカーから、世界中のVIPたちの下劣な罵声が降り注ぐ。
対面の男も、大三元をアガった優越感からニヤニヤと醜い顔を歪ませていた。
「おいおい小娘。この厳重に監視された全自動卓で、どうやって俺たちがイカサマをしたって言うんだ?」
「……簡単なことよ」
私は髪をかきあげ、冷え切った身体に気合いを入れ直した。
「あんたのその大三元、偶然できたもんじゃない。最初から私が『白』を掴まされて振り込むように仕組まれてたのよ。この卓のプログラム自体が狂ってる」
男の顔から、わずかに余裕の笑みが消えた。
だが、スピーカー越しの連中はまだ余裕だった。
『……ふん、面白い妄想だ。だが、それがどうした?』
『証拠がないだろうが証拠が! お前が今更プログラムのせいだと喚いたところで、誰も信じやしないぞ!』
「そうね。だから――証明してあげる」
私は卓の上に身を乗り出し、四隅のカメラを真っ直ぐに睨みつけた。
「もう一回だけ、私と勝負しなさいよ」
『……なんだと?』
「次の試合で私がアンタらのイカサマを証明できなかったら、借金でも何でも背負ってやるし、一生見世物になってやる。……でも、もし私がイカサマを証明し、勝負に勝ったら、この腐った借金は全部チャラ。アンタらは世界中継の前で土下座よ。どう?」
挑発的な私の言葉に、VIPたちがざわつく。
そして、彼らはたまらず吹き出した。
『ククッ……アーッハッハッ! いいだろう!』
『どうせ奇跡など100%ありえない。心が折れてヤケクソになった小娘の、最後の無様な足掻きを見せてもらおうじゃないか!』
(……バカどもめ。乗ったわね)
相手が安い挑発に乗ってくれて助かった。
『奇跡など100%ありえない』
あの言葉が出た時点で、連中が次にどんなプログラムを走らせるか、完全に予想がつく。
「ディーラー、ゲーム再開よ」
「……承知いたしました。第五回戦、東一局」
機械音が鳴り、卓の中央から新しい牌の山がせり上がってくる。
世界中継のカメラが、スポーツブラ一枚の私の手元を大写しにしていた。
私はゆっくりと、十四枚の配牌を引き寄せる。
(さあ……反逆のデバッグを始めようか)
開かれた配牌は、先ほど私を絶望の底に叩き落としたものと同様、字牌が一切ない、見事なまでにバラバラの手牌だった。




