第10話 沈黙の闘牌
開かれた十四枚の配牌。
私の口角が、自然と吊り上がった。
先ほどの第四回戦と、一ミリの狂いもなく全く同じ配牌。
あいつらは、私の言葉を「負け犬の遠吠え」だとタカを括り、さっき私をハメたのと同じシード値(配列)のプログラムをそのまま走らせたのだ。
第一ツモ。
私は山の端から引き寄せた牌の顔(模様)を見ることなく、そのままカメラから隠すように伏せた手牌の中へ無造作に押し込んだ。
そして、ぐちゃぐちゃに混ざった手牌の中から適当に一枚をつまみ出し、河へ勢いよく放り投げる。 パチン、と荒々しい音が響いた。
『おいおい、あいつ今、引いてきた牌を見もしなかったぞ?』
『手牌も開かずにデタラメに捨ててやがる。完全に勝負を投げたな』
『ギャハハ! ついに恐怖と絶望で頭がぶっ壊れたか!』
スピーカー越しに、VIPたちの嘲笑が降り注ぐ。 当然だ。端から見れば、今の私は「絶望のあまり発狂し、見えない手牌の中からヤケクソで牌を放り投げている狂人」にしか見えないだろう。
だが、周りに何を言われようと関係ない。
私はただ無機質に、全自動卓が吐き出す牌を引き続けた。
時には、引いてきた牌を見もせずにそのまま河に叩きつける。
時には、引いてきた牌を手牌の中に押し込んで、代わりに別の牌を乱暴に切り捨てる。
二巡、三巡、四巡。
デタラメに打ち進める私に、同卓している男たちは気味悪そうな視線を向けていた。
「おい、小娘。もう終わりか? お前の言うイカサマの証明とやらはどうした?」
対面の男が、醜悪な笑みを浮かべて挑発してきた。
無理もない。彼の視線は、私の手元ではなく、次に私が引くであろう「牌の山」の一点に注がれている。
――間違いない。
彼は今、手牌の中で強烈な役の準備を終え、息を潜めて待っているのだ。
私がプログラム通りにあの『致命的な牌』を引き当て、何も見ずに河へ放り投げる。
その瞬間を。
(……バカどもめ)
デタラメに打っているように見せて、引いてくる牌も、伏せた手牌の並びも、すべて私の頭の中に完璧に保存されている。
見なくても分かる。
この手牌は今、見えないベールの下で恐ろしいほどの完成度で組み上がっていた。
十巡目。 十一巡目。 十二巡目。
不気味な沈黙の中、着々と巡目が進んでいく。 そして、運命の十三巡目。
すべての決着をつける、最後の牌へと指をかけた。




