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第8話 絶望の役満

挿絵(By みてみん)

不気味なほど静かな闘牌が続いていた。

「ポン」も「チー」も発生しないため、全自動卓が吐き出した牌の山は、ただ機械的に、決められた順番通りに削られていく。


十巡目。「南」。

十一巡目。「一萬」。

十二巡目。「九筒」。


(……クソゲー。マジでクソゲーすぎる)


私は内心で悪態をつきながら、引いてきた牌をそのままホーに叩きつけ続けた。

私がツモらされるのは、見事なまでに一・九・字牌だけ。


対して、他の三人の男たちは黙々と数牌を切り飛ばしている。

彼らの手牌には、恐らく不要な字牌は一枚も行っていない。捨て牌に字牌が一切ないということは、初めから暗刻アンコで揃っているか、そもそもシステム的に『引かない』よう組まれているかのどちらかだろう。


スポブラ一枚の身体が、冷気とは違う悪寒で震える。


この異常なツモの偏り。

絶対に勝てないように組まれた悪意のアルゴリズム。


まるで、見えない糸で手足を縛られ、処刑台へと一歩ずつ歩かされているような感覚だった。


そして――運命の十三巡目。


私が手を伸ばし、山の端から引き寄せた牌。

指先に触れたのは、何の模様も彫られていない、冷たくてツルツルとした感触。


「白」


なんの変哲もない、ただの字牌だ。

当然これも使い道のない不用牌である。 私は一切の躊躇なく、その白い牌を河の中央へと放り投げた。


「ツモ切り」


パチン、と乾いた音が地下室に響く。

その瞬間。


「――ロン」


対面に座っていた男が、獲物を仕留めた獣のような、粘り気のある声を出した。


「……え?」


男はニチャァと醜悪な笑みを浮かべ、ゆっくりと自分の手牌を前に押し倒した。


「ロンだ、小娘。……待たせやがって」


開かれた十四枚の牌。

そこには、私の頭の芯が真っ白になるような、暴力的な役が並んでいた。


暗刻(アンコ:鳴かずに自力で三枚揃えること)で集められた、赤い字の「中」。

同じく暗刻で揃えられた、緑の字の「發」。


そして、彼が待ち構えていた最後のパーツこそが、私がたった今河に捨てた「白」だった。


中、發、白。 麻雀において最も有名で、最も破壊力のある役満の一つ。


「……大三元ダイサンゲン


私が呆然と呟くと同時に、天井のスピーカーから耳をつんざくような歓声と嘲笑が爆発した。


『ギャハハハハ! 見ろ、あのマヌケ面を!』


『見事な放銃だ! イカサマができない実力なんてその程度だろうが!』


『これで完全にジ・エンドだな。借金地獄へようこそ、お嬢ちゃん!』


世界中のVIPたちが、私の敗北に酔いしれている。

黒服のディーラーが、無機質な声で最終的な宣告を下した。


「大三元、役満です。規定の点数の支払いに加え……事前のルールの通り、あなたは先ほどの『イカサマの潔白』を証明できなかったため、ペナルティとして損害賠償額を十倍に引き上げさせていただきます」


十倍。

元々三億あった借金が、三十億という天文学的な数字へと膨れ上がった瞬間だった。


「これであなたの一生は、完全にGGGと、当大会の主催者様のものとなりました。……連れて行け」


ディーラーの合図で、屈強な黒服たちが私を取り囲むように一歩近づいてきた。

もう逃げ場はない。

私の人生は、この理不尽なイカサマプログラムによって完全に破壊されたのだ。


「……ッ、くそ……」


私はうつむき、金髪の隙間からポタポタと冷たい汗を床に落とした。

肩が震える。


あいつらの思い通りになった。

私のゲームはウイルスで壊され、私自身もこの地下室で、一生見世物として……。


(……いや、待てよ?)


絶望の淵に沈みかけた私の脳裏に、突如として一筋の『強烈な違和感』が閃いた。

今の対局。


もし、このクソみたいな接待プログラムの配列が、一番最初の試合(天和・国士無双)とまったく同じ仕組みで動いているとしたら?


だったら、何としてでも、もう一試合ねじ込まないと――。


「……ふふっ」


私の口から、思わず乾いた笑いが漏れた。


「おい、何を笑っている?」


対面の男が訝しげに眉をひそめる。

私はゆっくりと顔を上げ、カメラの向こうの連中と、取り囲む黒服たちを真っ直ぐに睨みつけた。

その目に、絶望の涙は一滴も浮かんでいない。


「……イカサマをしたのは、そっちでしょ」


私は、反撃の狼煙を上げた。


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