第7話 仕組まれた地獄
盤面に乾いた音が響く。
私が第一打を河に捨てた瞬間、天井のスピーカーから下劣な嘲笑が漏れ聞こえた。
『見ろ、あのゴミみたいな配牌を!』
『イカサマ用の器具を封じられた途端、あんなザマだ。やっぱりさっきの天和は仕込みだったんだ!』
『いいぞ、その生意気なメスガキを徹底的にわからせてやれ!』
薄着のせいで、地下室の冷気が肌を容赦なく刺す。
だが、私はギャラリーの耳障りな雑音を完全にシャットアウトし、手元の十四枚の牌だけを見つめていた。
(……タンヤオに向かうしかないわね)
麻雀のセオリーで言えば、この配牌から役を作るなら、一と九の牌を処理して中張牌(2〜8)だけで構成する『断幺九』が一番現実的だ。
だから私は、初手で手牌の中にある「一萬」や「九筒」といった1・9牌から切り捨てていく予定だった。
しかし――ゲームが進むにつれて、私のそのささやかな計画は、悪意に満ちたプログラムによって完全に封殺されることになる。
二巡目。私が山の端から引き入れた牌は、「西」。 まったく意味のない、ただの風牌だった。
タンヤオを作る上で、字牌は1・9牌以上の完全な不用牌だ。
私は仕方なく、引いてきたばかりの「西」をそのまま河に叩きつけた。
「ツモ切り」
三巡目。引いてきたのは「北」。
これも使えない。
手牌の1・9牌を処理できないまま、私は「北」をツモ切りする。
四巡目。「九萬」。 五巡目。「南」。
(……マジで、露骨すぎ)
心の中で盛大にため息をついた。
異常な偏りだった。私の手番に回ってくるツモ牌が、見事なまでに「字牌」か「1・9牌」ばかりなのだ。
初手にあった1・9牌から処理しようと思っていたのに、引いてくるのがそれ以上に使えないゴミばかりだから、手牌の1・9牌を河に捨てる余裕すらない。
延々と引かされるゴミをツモ切りさせられ、私の手牌は配牌時から一ミリも進行していなかった。
まるで、アクションゲームでプレイヤーの操作キーを強制的に無効化するような、悪意の塊のようなクソゲー(プログラム)だ。
しかし、私の背筋を凍らせたのは、自分の手牌の酷さだけではなかった。
「……」
「……」
同卓している男たちが、不気味な笑みを浮かべて打っている。
もし、今回は他の男たちがアガるように操作されているのだとすれば、私の時のように『天和』を仕込めば済む話だ。
つまり、今のこの時間は――ただ私にじわじわと絶望を味わわせるためだけの、イカれたサディストタイムだ。
誰一人鳴かないため、牌を引く順番(ツモ順)は機械のように規則正しく進んでいく。
ジリジリと首を絞められるような、仕組まれた地獄。
手牌の中に処理できなかった「一萬」や「九筒」を抱えたまま、私はただ無機質に、全自動卓が吐き出す字牌を切り飛ばし続けた。
このままではテンパイすらできない。私はこの状況を打開する策を見出せずにいた。




