第6話 スポーツブラと世界中継
「……全裸?」
私はディーラーの言葉を頭の中で反芻し、心底呆れたようにため息をついた。
同卓している男たちは下卑た笑いを浮かべ、スピーカー越しのVIPたちは私の屈辱に歪む顔を期待して息を潜めているのがわかる。
(マジでキモい。どんだけ趣味悪いのよ)
これが専務が描いたシナリオの終着点だ。
私にイカサマの濡れ衣を着せ、世界中の権力者の前で服を脱がせ、見世物として徹底的に尊厳を踏みにじる。
普通の16歳の女の子なら、ここで泣き叫んで許しを乞うか、絶望して精神を壊していただろう。
だが、生憎と私は普通じゃない。
父の死を乗り越え、何万行というコードとバグに立ち向かい、自分の力でゲームを作り上げたクリエイターだ。
この程度の嫌がらせで、心が折れるかよ。
「……バカじゃないの?」
私は冷たく言い放ち、着ていた制服のブラウスを無造作に脱ぎ捨てた。
「全裸になる必要なんてどこにあるわけ? あんたらの目的は、私が『牌を隠し持っていないこと』の証明でしょ。だったら、これで十分じゃない」
私は立ち上がり、首元のリボンを引きちぎるように外し、スカートのホックに手をかけた。
バサリ、と音を立てて制服のスカートが床に落ちる。
さらに、腕につけていたアクセサリー類もすべて外し、卓の上に放り投げた。
残ったのは、中に着ていた黒のスポーツブラと、短いインナーパンツだけ。
「ポケットもない。袖もない。どこにも牌を隠すスペースなんてない。……これでもまだ、私がイカサマをしてるって言いがかりをつける気?」
私がカメラを真っ直ぐに睨みつけると、スピーカーの向こう側がわずかにざわついた。 泣いて命乞いをすると思っていた小娘が、一歩も引かずに理詰めで反論し、自ら服を脱ぎ捨ててみせたのだ。
彼らの歪んだサディズムは肩透かしを食らい、同時に「これ以上要求しても理が通らない」と悟ったのだろう。
『……チッ。まあいいだろう、その格好ならすり替えは不可能だ』
『だが、次はないぞ。泣いても笑っても、次の一戦で決着だ。もう一度あの奇跡とやらを起こしてみせろ!』
(……バカどもめ)
私は心の中で嘲笑った。
「いいわよ、別に減るもんじゃないし。袖に牌なんて隠してないって証明してやる。……でも、私が潔白だと証明できたら、アンタら全員、世界中継の前で土下座して謝りなさいよ」
私は椅子に座り直し、再び冷たい全自動卓に手を置いた。
「ゲーム再開。第四回戦、東一局を始めます」
ディーラーの合図とともに、再び機械音が鳴り響き、青い牌の山がせり上がってくる。
世界中継のカメラが、スポーツブラ一枚の私の手元を克明に映し出していた。絶対にイカサマができない状況。
ここで私が負ければ、今度こそすべてが終わる。
私は静かに息を吐き、配牌を一つずつ開いた。
(さて、次はどんなイカサマプログラムを用意したの?)
先ほどまでと同じなら、また国士無双十三面待ちが並んでいるはずだ。
しかし、敵もそこまでバカではないだろう。
十四枚の牌が、私の目の前に並ぶ。
字牌(東南西北白發中)は一枚もない。
だが、一と九の牌がいくつか中途半端に混ざっている、見事なまでにバラバラの配牌だった。
(……なるほど。今度は『絶対に勝てない手』を押し付けてきたってわけね)
私は心の中で舌打ちをしながら、ゲームの続行を告げるため、手牌の中から不要な一牌を選ぶべく、卓に視線を落とした。




