第5話 魔女裁判
『ふざけるなッ! 三連続で天和・国士無双だと!? そんなもん、仕込みに決まってるだろ!!』
『ディーラー! その女を取り押さえろ! そいつは極悪なイカサマ師だ!!』
天井のスピーカーから、割れんばかりの怒号と罵声が降り注ぐ。
姿の見えないVIPたちは、画面の向こうで完全に激昂していた。
(……なるほどね。これが、あのクソ専務の描いたシナリオってわけか)
私はため息をつきながら、金髪の毛先を指でくるくると弄った。
ようやく、この悪趣味なゲームの『本当のルール』が理解できた。
最初から、私に勝たせて借金をチャラにしてやるつもりなんて一ミリもなかったのだ。
彼らは、この全自動卓のプログラムを書き換え、私に『100%ありえない奇跡』を三回連続で押し付けた。
その目的はただ一つ。
世界中の裏社会の権力者たちが見ているこの中継で、私を【極悪非道なイカサマ師】として仕立て上げること。
イカサマが発覚すれば、当然ただでは済まない。
激怒したVIPたちの手によって、私は社会的にも物理的にも完全に抹殺される。
あいつらは、自分の手を汚すことなく私を消すために、この完璧な『バグ』を仕込んだのだ。
「おい、小娘……っ! お前、手品でも使いやがったな!?」
「ふざけんな! 俺たちの点棒を返しやがれ!」
同卓していた男たちも、ここぞとばかりに私に牙を剥き始めた。
イカサマ師のレッテルを貼られた私を叩き潰せば、自分たちの負けが取り消されると計算したのだろう。
「……はぁ。あんたたち、頭にウジでも湧いてるの?」
私は冷たい視線で男たちをねめつけ、鼻で笑った。
「私が牌をすり替えた? バカじゃないの。第一、こんな見え透いたアホみたいな手牌、私がわざわざ組むメリットなんてどこにもないでしょ」
「なんだと……っ!?」
「それに、この卓はそっちが用意したもんじゃん。プログラムのアルゴリズムが狂ってるのよ。文句があるなら、このガラクタを作った奴に言いなさいよ」
私は毅然と言い放った。
しかし、私のその正論は、スピーカー越しの権力者たちの歪んだプライドに火に油を注ぐ結果にしかならなかった。
『減らず口を叩くガキだ! その卓は我々が厳重にチェックした最高級品だぞ! プログラムの異常などあるわけがない!』
『そうだ! お前が袖口かどこかに牌を隠し持ち、巧みにすり替えたに決まっている!』
『ディーラー! そいつの服を引っ剥がして調べろ!!』
(……最悪。やっぱり話が通じない連中ね)
プログラミングの「プ」の字も知らないような無知な大人たちが、自分たちの思い込みだけで私を断罪しようとしている。
まさに中世の魔女裁判だ。
無機質な表情を崩さない黒服のディーラーが、ゆっくりと私に近づいてきた。
「育美様。お客様からの強い要望により、あなたの身体検査を実施させていただきます」
「……は? 身体検査?」
「はい。あなたが衣服の中に牌を隠し持っていないか、そしてイカサマの器具を仕込んでいないか。それを証明できなければ、先ほどの勝利は無効。および、当大会のルールに基づき『イカサマのペナルティ』として、損害賠償額を十倍に引き上げさせていただきます」
十倍。三十億という、文字通り命をいくつ投げ出しても足りない数字。
「……証明すれば、私の勝ちは認められるのね?」
「はい。イカサマの痕跡がなければ、あなたの無実は証明されます。ただし――」
黒服の男は、四隅のカメラを指し示した。
「中継を見ている全世界のVIPの皆様に納得していただくため、検査は『この場』で行っていただきます。……すべての衣服を脱ぎ、全裸になって再び対局をしてください。それで勝利すれば皆様納得なさるでしょう」
地下室の空気が、さらに一段階、ドス黒く濁った。




