第4話 奇跡の役満
私に課せられた損害金、三億円。
しかし、表向きは素人を集めた麻雀大会であるこの場は、実際は裏社会の人間たちの娯楽のデスゲームだ。
これに優勝すれば、借金をすべてチャラにしてもらえる。
それが今回、私がここで麻雀を打っている理由だ。
第一回戦、東一局。 私が言い放った「天和・国士無双十三面待ち」の宣言によって、地下室の空気は完全に凍りついた。
同卓している三人の男たちは、私の倒した牌と自分の手牌を交互に見比べ、口をパクパクとさせている。
無理もない。
彼らだって何らかの理由でこのデスゲームに参加させられた身なのだ。
開始数秒でトリプル役満を直撃され、点棒を根こそぎ奪われたのだから。
「……ま、もらえる点棒はもらっておくけど」
私が淡々と点棒を回収すると、黒服のディーラーが機械的な声で進行を促した。
「第一回戦終了。続いて第二回戦に入ります。卓をリセットしてください」
ジャラジャラと牌が全自動卓の中に吸い込まれ、再び洗牌の音が響く。
私は手元のボタンを押し、せり上がってきた牌の山から自分の配牌を手元に引き寄せた。
(さあ、次はどんな嫌がらせのプログラムが走るわけ?)
そんな警戒心を抱きながら、十四枚の牌を順番に開いていく。
そして――私は再び、絶句することになった。
「……は?」
一萬、九萬、一筒、九筒、一索、九索。 東、南、西、北、白、發、中。 そして、十四枚目に引いた「東」。
一ミリの狂いもなく、先ほどと『まったく同じ』配牌がそこには並んでいた。
「……ツモ」
私が再び牌を倒すと、同卓の男の一人が「ひっ」と短い悲鳴を上げた。
「天和。国士無双、十三面待ち」
「ば、馬鹿なッ! 二連続で天和だと!? しかも国士無双だと!?」
「ありえねえ……ッ、こんなの絶対におかしい!!」
男たちが立ち上がり、黒服のディーラーに詰め寄る。
だが、ディーラーは表情一つ変えずに首を横に振った。
「卓に異常は見られません。ゲームを続行します」
男たちは青ざめた顔で席に戻るしかなかった。
私の頭の中では、猛烈な勢いで計算式が回っていた。
役満が連続する確率。それが二回連続で国士無双の天和になる確率。
計算するまでもない、宝くじを毎週連続で引き当てるような――いや、それすら比較にならない天文学的な数字だ。
完全なランダムの乱数生成でこんな結果が出ることは、プログラムの構造上ありえない。
そして、その確信は第三回戦で完全に証明された。
「……ツモ。天和、国士無双十三面待ち」
三回戦目。決勝戦。
またしても配牌はすべて同じ。
これで三連続のトリプル役満。
私の手元には山のような点棒が積まれ、他の三人は完全にハコ下へと沈み込み、絶望の表情でうなだれていた。
「……ゲームセット」
黒服のディーラーが静かに頭を下げる。
「勝者は育美様。規定に基づき、あなたがGGGから請求されていた三億円の損害賠償は、これをもってすべて『チャラ』となりました」
「……」
私は一切の喜びを感じることなく、冷たく盤面を見つめていた。
おかしい。
絶対におかしい。
あの専務が、私を助けるためにこんな都合のいいプログラム(イカサマ)を用意するはずがない。
世界中継を見ている裏社会のVIPたちだって、こんな一方的なゲームを見て喜ぶはずがないのだ。
『――おい、ふざけるなッ!!!』
不意に、天井に設置されたスピーカーから、割れんばかりの怒号が響き渡った。
中継を見ていた資産家たちの声だ。
『三連続で天和だと!? しかも全部同じ手牌だと!?』
『こんな見え透いたイカサマがあるか!! この女、全自動卓に細工をしやがったな!!』
『ディーラー! その女の身体を調べろ! 牌をすり替えているに違いない!!』
スピーカー越しに浴びせられる、私を「イカサマ師」と断定する無数の罵声。 その瞬間、すべての点と点が繋がった。
「なっ! 私はそんなことしてないッ!」
とっさに反論した私の脳裏に、最悪の推測がよぎる。
(もしかして、これが狙い?)
最初から私を勝たせるつもりなんてない。
私に「ありえない奇跡」を押し付けることで、私自身を『イカサマの実行犯』として仕立て上げ、この地下室で永遠に裁きを受けさせるための魔女裁判。
「やってくれるじゃない……」
私は四隅のカメラをゆっくりと見据え、鋭い視線で、画面の向こう側のクズ共を睨みつけた。




