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第4話 王子の当惑。

レオノーラとたいして話もしないうちに、3か月もたった。

教室で朝の挨拶ぐらいはしたかな?


剣術の授業も前期で終了になるらしく、今日は勝ち抜き戦。

いつもは僕から離れて練習しているレオノーラも勝ち上がってきた。準決勝で僕と当たった。ずっと見ていたが…相変わらず無駄のない綺麗な構えだ。


しばらく打ち合って…数歩下がったレオノーラの足元に、誰かが置きっぱなしにした模擬刀が見えた。

「足元、危ないぞ!レオノーラ」

そう声をかけるのと、レオノーラがそれに足を取られて転ぶのが同時ぐらいだった。

僕は慌ててレオノーラを抱きかかえると、医務室に走った。

「だ…大丈夫ですから!殿下!」

「いや、捻っただろう?折れてないといいが」


なんか、思ったより軽い。それに、なんだかいい匂いがする。

レオノーラを抱きかかえたまま医務室に駆け込んだ。


「ご迷惑をおかけいたしました。もう大丈夫ですので、教室にお戻りください」

治療が終わったレオノーラは僕と目を合わせもせずにそう言って、頭を下げた。捻挫だった。右足首が包帯で固定されている。

「いや。僕が家まで送っていこう。着替えもままならないだろう?」

「いえ。そのように殿下に御足労をおかけするわけにはまいりません。家の者を呼びますので、おかまいなく」


医務室のベッドにちょこんと腰かけたレオノーラ。こんなに小さかっただろうか?


「遠慮しなくてもいい」

僕がそう言うと…いや、ホントに嫌なんですけど…というつぶやきが聞こえた。


は?


いやいやいやいや、そこは泣いて喜ぶところじゃないの?違うの?


僕は多分、少々ムキになっていたんだと思う。なんなの?年相応に育っただけで、そんなによそよそしくなるもんなの?それがお前の作戦なの??


僕は嫌がるレオノーラを再び抱えると、医務室の先生に礼を言って、玄関に向かう。

護衛に馬車を頼んで乗り込むと、そっとレオノーラを座らせて行き先を告げた。

「パストラ公爵家の屋敷まで頼む」


馬車の中で、レオノーラは一言も話さなかった。菫色の瞳は一度も僕を映さない。ずっと外を見ている。なんだか…泣きそうな横顔だ。


え?そんなに僕が嫌か?


正直なところ、そんなに嫌われている理由がよくわからない。妹の話からも侍従の話からだって、僕にふさわしい女性になるために努力していたらしい…そう思うのは…思い込みなのか???


パストラ公爵の屋敷に着いて馬車寄せに馬車が停まると、わらわらと使用人が飛び出してきた。

「こ…これは殿下、いかがされましたか?」

見知った顔のレオノーラの兄が駆け寄ってきた。

「授業中にレオノーラが転んで、足を捻挫してしまったんだ」

事情をかいつまんで説明して、僕がレオノーラを降ろすのに抱きかかえようとすると、レオノーラが強張った顔でふるふると頭を振って、兄に手を伸ばした。


…そ…そんなに嫌なのか?


「わざわざありがとうございました、殿下。後ほどお礼に上がりますので」

レオノーラによく似た金髪に菫色の瞳の兄上が、彼女を抱えて頭を下げる。

「え?ああ。お大事に」


僕は…兄にしがみついて泣きじゃくるレオノーラの背中をぼんやりと眺める。



*****


「見ましたわよ、お兄様」

「あ?」


授業に戻る気も無くなって帰ってきてしまった。なんだか動くのもおっくうで、ソファーに座ってぼんやりと外を眺めていた。

どんよりとしていた僕に、カリーナがニマニマしながら声をかけてきた。いつのまにかもう夕方か?


「お兄様がレオノーラお姉様をお姫様抱っこして走っていましたでしょう?もう、素敵!お似合いだわあってみんなで騒いでましたのよ?聞こえませんでしたか?学院中大騒ぎでしたわ」

「……」

失念した。顔色の悪いレオノーラのことが心配過ぎて、何の声も聞こえていなかった。


「…でもな、カリーナ。あいつは嫌がって、その…泣かせてしまった」

「え?感動の涙ではなくて?」

「…うん」

「あ、あら…まあ…そうでしたの。でもまあ、お兄様はあの方を選ばないと宣言なさったんですもの、仕方ありませんわね?というか、良かったじゃありませんか?ああ、じゃあお兄様がレオノーラお姉様を運んでさしあげたのも、義務感?ですのね」


「……なあ、カリーナ。僕は何か、そんなにあいつに嫌われるようなことをしたんだろうか?」

「え?そりゃあ、育ったから?」

「僕だけじゃないだろう?あいつだって年相応に育っただろう?」

「……まあ、そうですけどね」


妹と話しているうちに、なんだかむかむかして来た。僕が悪いわけじゃなくない??













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