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第3話 王子の戸惑い。

カリーナがティールームでお茶を飲んでいた。通りがかったアステリオは侍女に自分のお茶も頼んで、向かいの席に座る。


テーブルには幾何学の参考書とノートと、小説だろうか?本が何冊か積み上げてある。

「はあああっ」

妹は魂が抜けてしまうぞ?と思うくらいの大きなため息をついた。


「どうした?カリーナ?」

そう声をかけると、うつろな目で妹が僕を見た。


「そ、その…中庭でお茶会をしていただろう?あいつは何か、僕のことを言っていたかい?」

もじもじしながら切り出した。午前中、中庭でいつもの面子で妹がお茶会をしているのが見えた。教室では笑わないレオノーラが笑っていた。


「は?あいつ?」

「あ…レオノーラ、だ」

「ああ……ご心配なく。お兄様のことは生理的に無理らしいから、お兄様はまったくこれっぽっちも気にしなくていいわよ?それに…」


「は?不敬じゃないのか?」


なんだそれは?


「不敬…ねえ…私、レオノーラお姉様は私のお義姉様になるのかと思っていたんだけど……義妹になりそうなのよね…」

「何の話だ?」


アステリオは侍女が運んでくれた紅茶を飲みながら、妹が何を言い出したのかよく理解できずに、首をかしげる。


「お姉様は…育っちゃったお兄様には興味が無いらしいの。今度アルバーノの家庭教師になるらしくて、張り切っていらしたわ。お兄様、ショタコン、って知ってる?」

「いや、知らん。何のことだ?」

「ロリコンの少年版」

「……」

「…なんか私も複雑だわ…あら?お兄様?紅茶がどばどば零れてましてよ?」


「え?どういうこと?」


この国の第一王子、アステリオ殿下は、困惑を隠しきれなかった。


*****


「生理的に無理」ってなんだ?


「ショタコン」?って…弟が狙われてる?不健康なんじゃないか?まだ9歳だぞ?レオノーラと8歳差?無くもないか?いや…。まあ確かにアルバーノは昔の僕に似て可愛らしい。黒髪に青い瞳も一緒だし。いやいやいや…。


悶々としながらアステリオは教室の席に着いた。

今更学ぶことはそうないが、次世代の貴族との繋がりを作っておくのも大事だ。学院に未来の王子妃がいるかもしれないし…。


斜め前の席のレオノーラを頬杖をついてぼーっと眺めた。

授業が始まる前だが、何やらノートに書きこんでいるようだ。


金色の髪は腰ぐらいまであるだろうか。随分伸びたな。日に焼けて健康的な頬。こいつはまだ剣術の練習とかしているに違いない。他のご令嬢方は真っ白だものな。


ペンの持ち方も、添えられた手も綺麗だ。すっくと伸ばした背筋。む…胸も大きくなったな。


…お前だって、育ったじゃないか?


僕ばかり大きくなったわけじゃない。そう思うと、なんだか、むかむかしてきた。

すっかり大人の体つきになったレオノーラがまだ幼い弟の手を取るのを想像して…いたたまれない。


隣の席の男子生徒がにこやかにレオノーラに話しかけている。こいつは…確かフローロ子爵家の嫡男。レオノーラに気があるのか?こげ茶頭の、随分とさっぱりした顔の男だ。こういうのがレオノーラのタイプなのか??

じっ、と眺めていると、僕の視線に気が付いたその男がぎょっとして固まって、そそくさと教科書を広げている。


昼休みにレオノーラに声を掛けようと立ち上がった僕の前には、いつの間にか教室に入り込んだ下級生の女の子たちが立ちはだかる。

「アステリオ殿下~お昼ご一緒しましょう?」


誰?この子たち誰?



***


「なあ、マーサ」

僕の部屋に着替えを揃えに来たばあやに聞いてみた。

「はい。なんでしょう?坊ちゃま」

「いや、これは友達の話なんだがな?昔、ぐいぐいと来ていた女の子が、久しぶりに会ったらそっけない、というか、興味ない、というか…嫌悪?話しかけても来ない。…らしい。いや、友達の話だがな?」

アステリオはなるべくさりげなく”友達の話”を切り出した。


「ああ…そりゃあ、その女の子に他に好きな人が出来たんじゃないですか?恋なんかいつか熱が下がるみたいに冷めますから」

なんてことないようについでに羽枕を直しながらマーサが答えた。


「え?」


「そうじゃなきゃ…押してダメだったから、引いてみているとか?」

「引いて…?」

「追われると逃げたくなるし、逃げられると追いたくなるでしょ?くくくっ。いいですねえ、若い人は。もしそうなら、その女の子は策士ですね?」

「策士…?」


しばらく考え込んでいると、ニマニマしたばあやが、寝台に寝間着を揃えて置いた。


「ところで坊ちゃま?帰国してもう1か月近くになりますが、まだお土産が残っておりますよ?まだ配り終えないんですか?」


棚に並べられたこまごまとしたリボン付きの箱を眺めながら、マーサが聞いてきた。


「ああ…うん…それなあ…置いておいてくれ。そのうち片づける」

「そうですか?お菓子とかなら早めに配った方がよろしいですよ?」


「うん…ああ…そうだな」


僕が飲んでいたカップを下げて、ばあやが部屋を出ていく。



…好きな人が出来た?あいつに?


いやいや…


引いて様子を見ている?


そんな姑息な手段を使うやつか?

策士、か?…留学前に婚約者として決めなかったから、いじけてるのかな?いや、だって、異国で運命の人に会うかもしれないし、それにあの頃はあのレオノーラに一生頭が上がらないのも嫌だと思っていたし……。


いやいやいやいや…ここはほっとするところだろう。もうあいつに付きまとわれないんだから。あっはっは!


いや、でも、弟はだめだろう?9歳だぞ?














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