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第2話 妹の驚き。

「もう体調は大丈夫なんですか?レオノーラお姉様?」


カリーナがお茶会を開いたのは、あの舞踏会から2週間ほど後のこと。

面子は、いとこの侯爵令嬢パルミラとオリアナ、レオノーラお姉様と私。

「ご心配をおかけして申し訳ございません、カリーナ様」

レオノーラお姉様は学院には来ていらしたが、復学して同級生になったお兄様にはまったく話しかけず、そそくさと帰宅されているようだ。ほんの少しやつれたかな?


お兄様は学院中の女子生徒にモテモテのようだ。王城にも親と一緒に訪問するご令嬢が増えた。お兄様の婚約者が決まっていないからね。大穴だわよね。しかも、婚約者決定だろうと目されていたお姉様とは言葉も交わさないときたら、こりゃあみんな期待するわよね。


私の認識だと…4年前はお兄様とレオノーラお姉様は仲良しだった。いつも一緒にいたし、レオノーラお姉様はいつもお兄様の世話を焼きたくてうずうずしているような、そんな微笑ましい関係だった。…と思っていたけど…なんかあった?


カリーナはお茶を飲みながら、レオノーラをひっそりと観察した。


「…この前、中庭をお散歩しておりましたら、蛇が出ましてね?びっくりして腰を抜かしそうになりましたわ!」

パルミラ嬢は焼き菓子をつまみながら、のんびりとそんなことを話しだした。

「あら。この辺には毒を持った蛇はいませんもの、棒で真ん中あたりを持ち上げて、藪に放ってあげれば問題ないですわ」

これまたお茶を飲みかけていたレオノーラお姉様がなんてことないように答えた。


「まあ、私は夜におトイレに行くのが怖いですわ。風でカーテンが揺れたりすると幽霊がいるようで…侍女にしがみついてしまいますの」

オリアナ嬢が何か思い出したかのように両手を組んで怖がっている。

「まあ、だからと言って水分を取らなかったりすると健康によろしくないのよ?健康か幽霊か、と言ったら、健康を重要視するべきですわよ?幽霊にもそう言って差し上げればいいわ」

相変わらず…面白いわあ、レオノーラお姉様。


「カリーナは?何か怖いものある?」

そうパルミラ嬢が話を振ってきたので、しばらく考える。


「そうだわねえ…私は今度の幾何学の試験が怖いわ!」

そう言うと、みんなどっと笑った。

「まあ、カリーナ様、ではお茶会が終わったら私がご教授いたしますわよ?」

そう言ってレオノーラお姉様も笑った。


「じゃあ、レオノーラお姉様には?怖いものはある?」

「私…ですか?」

しばらく考えていらしたレオノーラお姉様が、あっ、と小さな声をあげた。

「なになに?」

「え、と…秘密ですよ?」

「うんうん」

みんな興味津々。完璧な淑女と呼ばれるレオノーラお姉様に怖い物なんてあるのかしら???聞き耳を立てる。


「私…アステリオ殿下が…こわいです」

美しいそのお顔…眉間にしわまで寄せて、絞り出すようにお姉様が言った。


「「え?」」


「え?あの…この前帰国された、黒髪に青い目の?あの、殿下?」

パルミラ嬢が驚いて聞き返している。


「…ええ」

「背も高くなって、筋肉も付いて、りりしくなった、あの、アステリオ殿下?」

オリアナ嬢が再確認するように聞く。


「…ええ」

「え?国中の貴族令嬢が狙ってて、留学していたブリアからもフールからも、嫁に貰ってくれと王女が送り込まれそうになっているうちの兄のことですか?」

思いもしなかった発言に驚いてカリーナが前のめりに再再確認する。


「…ええ」

「な…だって…レオノーラお姉様、お二人は仲良しだったじゃありませんか?!」


三人がかりで詰め寄ったら、泣きそうな顔のレオノーラお姉様が、ぽつりと言った。


「だって…私の知っている殿下とは、声も身長も…姿かたちも…なんなら匂いも違いますわ。なんだか生理的に無理なんです」


「「……え?」」



***


カリーナはそのお茶会終了後に、レオノーラお姉様の屋敷にお邪魔して、お姉様が使っていた幾何学のノートを借りることになった。


「うふふふふっ。家族以外の人を入れるのは初めてなんですの」

そう恥ずかしそうに笑って、レオノーラお姉様のお部屋に招き入れられる。


「へ?」


壁一面に何枚ものお兄様の肖像画。棚にはお兄様をモデルにしたと言われている小説の主人公のフィギュア。しかも、恋愛編の紳士な格好のモノ、冒険者に扮したモノ、探偵を気取ったモノ…そう、全巻買うと貰えるおまけが全てそろっている。

そしてその小説。もちろん全巻。


きちんと整えられた天蓋付きのベッドには、これまたお兄様の等身大のぬいぐるみ?

「こ、これはですね…着せ替えもできるんですのよ?きゃっ。書店のくじ引きで当たりましたのよ?」


「……」


…レオノーラお姉様?


「ちょっとお待ちになってね?」

そう言いながら、本棚からノートと参考書を取り出してきた。


「この参考書がわかりやすくていいと思いますわ。わからないところは放課後にでも、日曜日でも遠慮せずに聞いてくださいね?」


レオノーラお姉様はなんか普通に話しているけれど、四方からお兄様に見つめられているようでどうも落ち着かない。


「お…お姉様?あの…兄が苦手なんじゃ?」

「え?」

「いや、なんというか…」

言っていることと部屋の様子のギャップにカリーナが戸惑う。


「ああ。ここにいるのは12歳のアステリオ殿下ですのよ?さらさらした黒髪に、意志の強そうな青い瞳。中性的なすらりとした手足…。声だって、透き通るような声でしたわ。まったくの別物でございますわよ?」

うっとりとしたお顔で、12歳の兄上がいかに素敵だったかを語るレオノーラお姉様…。


「……」


…そうか。育っちゃうとダメな奴か?


「実は…弟君のアルバーノ様の家庭教師をしないかと陛下に誘われておりますの」

そう言って、レオノーラお姉様は本当にうれしそうに笑った。


アルバーノは今、9歳。


…お兄様は弟に負けるんだわ。


カリーナは12歳の兄上に見つめられながら、頭を抱えた。






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