第5話 レオノーラの本心。(最終話)
翌日、パストラ公爵家を訪ねる。僕がレオノーラのお見舞いに来たと告げると、にっこり笑った執事長が、人差し指を唇に当てて、彼女の部屋にそっと通してくれた。
どうも、レオノーラと兄上が話し込んでいるところのようだ。
「…なあ、レオノーラ、どうしてアステリオ殿下に送ってきてもらって泣き出したりしたんだい?」
「…だって、お兄様…」
「お前は殿下のお帰りを楽しみに待っていたのかと思っていたよ?殿下の帰国の挨拶のあたりから、どうも変だなあ、とは思っていたんだ」
「……」
ぎょっとしたことに、レオノーラの部屋には僕の肖像画が飾られていた。本棚には僕の人形???かろうじて驚きの声を飲み込む。
「私、すごく楽しみに待っていましたよ?でも、久しぶりにお会いした殿下は、もう大人の男の人でした。私…殿下と一緒に留学したかった。せめて婚約者だったら、お手紙だって出せたのに。そうしたらどんな毎日を送っていらっしゃるかもわかったのに。殿下はもう…見たこともない私の知らない男の人だったんです。こわかったんです」
「……レオノーラ?」
「私、殿下とはずっと一緒にいれるのかと思っていました。でも、離れていた4年間は長かったんです。もう私が好きだった12歳の殿下はどこにもいらっしゃらないんですわ」
「……」
え?
布団をかぶって泣き出したレオノーラの頭を撫でていた彼女の兄が、振り返って僕を手招きする。僕は…ばあやが包んでくれた大きな包みを両手にぶら下げていたんだが…それを持ったまま、兄上と場所を替わった。レオノーラのベッドの端に腰かけて、兄上がしていたようにレオノーラの頭を撫でる。僕にウィンクして、兄上が部屋を出ていった。
「…それを言うなら、僕も一緒だよ、レオノーラ。僕は12歳の頃のお前に似合うものしかお土産に買ってこなかったんだ。ごめんね。こんなにきれいな女の人になっているなんて思いもしなくて、ぬいぐるみとか?大きなお花の髪飾りとか…もう似合わなくなっちゃったね?」
「…え?」
泣いているレオノーラの前に、僕はがさごそと、たくさんのお土産を取り出して並べた。どれもこれも、行く先々で側近にからかわれながら選んだものだが、そのどれもが今のレオノーラには似合いそうもないものだと思う。
クマのぬいぐるみ。小物入れがついているかわいいオルゴール。
大きなお花の付いた髪飾りや、子供っぽいデザインのネックレス……。
「…それに…お前が手紙の一通も寄こさない薄情な奴だと思っていた。ごめんね。僕も大きくなったけど、レオノーラも綺麗になったね」
被っていた布団から顔を出した、鼻の先が赤くなったレオノーラの涙をそっと拭きながら、なんとなくほっとしている自分に気が付く。レオノーラの菫色のきれいな潤んだ瞳には、ちゃんと僕が映っている。
「レオノーラさえよければ…僕の4年分の話をさせてくれないか?お前の4年分の話も聞かせてくれないかな?」
***
僕たちはレオノーラが歩けるようになるまで、毎日のように二人が離れていた間の話をした。僕の持ち込んだお土産も二人で次々と開けて、その街の話をした。
レオノーラが歩けるようになってからは、手をつないで中庭をゆっくり歩きながら話をした。
僕の肩先ぐらいの身長のレオノーラ。4年間のうちに僕はずい分背が伸びたんだなあ。そう改めて思う。手だって僕よりレオノーラの手は随分小さい。
「ねえ、レオノーラ?」
レオノーラのきれいな髪は一本にゆるく結んで、僕のお土産の大きな花の髪飾りが付いている。髪にキスを落とす。つないだ指にもキスをする。頬も耳も真っ赤になったレオノーラがかわいい。
「で、殿下…」
「殿下じゃないでしょう?レオノーラ」
「あ…アステリオ…様?」
二人で東屋のベンチに並んで座る。手はつないだまま空いている手でレオノーラの赤くなった頬を撫でる。しどろもどろしているレオノーラも新鮮だ。頬にキスをする。
「遅くなったけど、ちゃんと婚約したい。いいかな?好きだよ、レオノーラ」
「…え?」
「レオノーラは…もう僕がこわくないよね?」
「い、今は…その…アステリオ様の過剰な愛情表現が…こわいですわ」
「熱~いお茶がこわい」
小咄には少し長くなってしまいました。(笑)
私の住んでいるところは梅雨寒のような肌寒さです。小雨が降っております。
たまに熱い緑茶でも飲んで、のんびりしてみましょうかね。
皆様も、お体を大切に!
いつも感想や誤字脱字修正、ありがとうございます。




