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共同戦線

始めの合図と同時に、ルカの周囲を覆っていたキューブ状の結界が消滅する。目の前に広がるドーム内は一面の草原であった。直径はおおよそ700m程度で、他の受験生の姿をかなりハッキリと視認できる状態だ。

(想像以上に近い!)

刹那、ルカの脳裏を思考が過った。しかし、その数瞬の間に事態は動いていた。まず、短杖を持った女子と無手の男子、二人の受験生が両隣から猛ダッシュで接近する。数秒で接近した敵に対し、土石を浮かせて反射的に迎撃に動く。

同時に、ドールの反対側で色とりどりの光が煌めくのを視認。回避行動を取ると同時にレーザービームで周囲が薙ぎ払われる。見れば、ドームの至る所にビームの残滓が残っている。

(全方位を適当に狙ったのか。アレは危険過ぎる。排除しなければ…)

この時、キィンと空気が唸った。放たれた衝撃波の威力は低かったが、ルカはその感覚に覚えがあった。

(アイリーニか!)

「見つけた」

聞き覚えのある声が、まるですぐ隣にいるかのように、耳元で囁いた。


――――――


混迷を極める戦場で、ルカはひとまず目の前の敵二人に対処することを選択した。無手の男は獣じみた動きで接近する。その全身からは赤いオーラが噴き出していた。

「シャオラッ!」

物騒な気を纏った拳を回避し、カウンターの一撃を放つが、全身を覆う赤いオーラが盾となり、防御される。

距離を取るべく一歩下がると、敵の全身から放たれた赤い弾丸がルカを襲った。咄嗟にゴロゴロと転がって回避し起き上がると、目の前に右手が迫っていた。その右手から、赤い刃が飛び出してくる。

(手強い!コイツ、何でもありか!)


ルカは自身を高速で空中に移動させて避難し、精度は気にせず、浮かせた土石を最高出力で打ち出した。

「潰れろォ!」

雨あられと降り注ぐ土石が、爆撃音じみた轟音を上げた。しかし、土埃が鎮まった時、そこには傷ひとつない赤い男の姿があった。

「今ので無傷とか人間やめてるだろ…」


――――――


短杖を携えた少女は、ルカたちの衝突を見て臆したか背を向けたが、テレポートじみた速度で回り込んだ赤い男に意識を奪われ、卵を割られた。

「お前がその気なら、いくらでも相手になってやるぞ!」

空中に浮かび気炎を上げるルカをチラリと見た男は、再び獣じみた勢いで走り出した。一目散に去っていったのである。

ルカは頷いた。

(そう、厄介な相手は避けるのが上策だ。潰し合う必要はない…今日の俺は、雑魚狩り専門に徹すると決めている!分かってくれたようで何よりだ)

だが、そんなルカの周囲には敵が8人ほど集結しつつあった。目立ち過ぎたのである。

「攻撃しますわ。備えてくださいませ」

耳元で、声が響いた。それを聞いたルカの決断は早かった。能力を使った力場と寄せ集めの土石を用いて全力で防御を固めたのである。

バッヂィィィイイン!

直後、内臓を揺さぶるほどの衝撃波が場の全員を襲い、ルカを除く8人はまとめて失格となった。


――――――


地上に降りたルカは振り返った。

「来たか」

「ええ、来ましたわ」

そこには、つい先ほどの勝負でルカに敗れた少女が立っていた。ルカとの戦いでそれなりに疲弊した状態で参加した敗者復活戦とやらがよほど過酷だったのか、全身ボロボロで声にも力がない。

「まず、ご苦労と言っておこう。よくぞ敗者復活戦を勝ち抜いた」

「まぁ、光栄ですわ」


二人はしばしの間、遠方から響く爆撃音や剣戟をBGM代わりとして、ロマンチックな劇の一幕のように見つめあった。

「お願いがありますわ」

「断る」

「断るという選択肢はありませんわ!」

「お前は俺にお願いをする立場なのか?同じ貴族として、何より全力をぶつけ合った者として、対等に要求してみろ」

アイリーニは目を瞬き、そして笑みを浮かべた。


「では友として、共闘を申し入れますわ」

「望みは?」

「お持ちの名札を返していただくことですわ」

「良いだろう。約束を守るなら名札は譲渡する。だが、もう少し人数を減らしてからだ。でなければ、交換条件として成立しない」

「良いでしょう」


――――――


アイリーニとルカは連れ立って歩き出した。

「敵はあとどれくらい残ってる?」

「確かめましょう」


アイリーニは、手をパンと叩いた。キィンと空気が唸り、衝撃波が発生する。

アイリーニは数秒間目を閉じていた。意識を集中する必要があるのだろう。


「反響からして、59人中およそ37人が既に脱落していますわ」

「つまり、最大でもあと12人落とすだけで良いのか」

「序盤に倒れなかった精鋭たちです。言うほど簡単ではないでしょう。特に金色の槍を持っている女と、血塗れの男には極力近づかないことです」

「俺からも一応警告しておくが、赤いオーラを纏った奴には気をつけろ。戦わない方が良い」


この時、唐突に試験官の声が響いた。

「諸君!見事な戦いぶりだった!心配せずとも、距離を取っての探り合いとかいう退屈な展開にはしないから安心してくれ。生き残りの人数に合わせて結界を縮めるので、そのつもりでよろしく」


その声と同時に、結界が縮む。空間が歪み、ドーム内にいる全員の距離がグッと近づいた。始めと同じ、お互い走ればすぐに辿り着ける距離へ。


それはドーム内における、更に苛烈な衝突の幕開けを意味していた。

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