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卵割り大会

ルカの足取りは重かった。基本的に全力では戦わない。息が切れ、滝のような汗が流れるような努力もしない。相手と本気でぶつかり合うことなどあり得ない。そう決めたはずだった。

しかし、状況も、相手も、ルカに手を抜くことを許さなかったのである。

(俺は努力などしない。本気になどなりはしない。努力で埋められる差には限界がある。本気になってみっともなく足掻いた結果、失敗するのは美しくない。俺は、とうの昔にそれを知っているはずだ)

ドームに向かうルカの背後から、仮面の紳士が問いかける。

「気に病んでいらっしゃるのですか?」

「何をだ」

「勝ってしまわれたことをです」

「馬鹿を言うな。運も含めて、俺の実力だ。俺は勝った。試験突破の障害を排除した。それだけのことだ。奴のことなど、もうどうでも良い。とうに名前も忘れたわ」

仮面の下からクツクツと笑いが溢れた。

「左様でしたか。…しかし意外でした。あなたがあれほど相手を立てるとは」

ルカは背後に向き直った。

「何度も言わせるな。どうでも良い。立てる?違うな。勝者として相手に敬意を表した。階級は異なるが、同じ貴族として最低限の礼儀は通した。それだけのことだ。的外れなことをウダウダと囀るな。失せろ」

「失礼いたします」


――――――


ルカは、ファントムに対する恐れを捨てていた。侍従として恭しく振る舞う、目的不明の相手に対し、主導権を完全に捨てぬために、主人としての振る舞いという最後の砦を崩してはならないのである。

(命令に従わないなら、どうなろうと構うものか。能力を解除してやる。どのみち、俺が死ねばこいつはこの世にとどまれない。主導権を握っているのはこの俺だ)


――――――


勝ち進んだ者たちはそれぞれ別々に、先ほどの戦いで奪った名札を持ってドーム内の指定された位置に向かい、待機することになっている。ルカは既に指定されたポイントに到着していた。ドームの外縁、やや西側である。入る前はドーム内の様子を事前に探れるかと期待したが、入り口が開くと同時にその期待は潰えた。そこには、周囲をキューブ状の結界で覆われた狭い空間があるのみであった。入り口は入ると同時に閉ざされ、ルカは何もない退屈な空間で、暇を持て余すことになったのである。


金属製の卵を取り出し、眺める。破壊されると失格というルールからして、邪魔くさいと考える者もいるだろうが、ルカは違う見方をしていた。

「これが、俺の勝利の鍵か。俺は必ず、最後の10人に残る」

常に身につけておかねばならないそうだが、料理用の卵と同レベルで割れやすいという性質を考えると、ポケットなどにしまうのはあまりに危険だ。走ったり急な動きをするだけで、戦い以前にリタイアする羽目になりかねない。現実的にはどちらか片方の手に握るしかない。

「おい」

「お呼びでございますか」

「防御力場を発生させる方法を再確認したい。やってくれ」

「かしこまりました」

ここ数日、一通り念動系能力の扱いを教えるように命じ、実践を続けたおかげで、付け焼き刃ながら能力を扱えるようになっていた。特に、王立学園の試験で落とされた屈辱が、修得を後押ししたのである。

ファントムの能力には制約がある。自身を除き、生物に対してほぼ効果がないのだ。故に、人間を動かしたいなら、石などの物体を飛ばして吹っ飛ばす、板に載せて板を動かすなど、効果対象となる物を利用する必要がある。

ルカは射程や出力を含めた制約を理解した上で、自分の身体を操作する方法や、防御力場の展開により奇襲を防ぐ方法などを学んでいるのである。しばらく調整に励んだが、一向に指示は出ない。


「しかし遅いな。いったい何を手間取っているんだ?」

「おそらく、敗者復活戦をしているのではないかと思われます」

「そうか」

ルカはしばし宙を眺めた。徐々にその言葉の意味が脳に染み込んでいく。

「敗者復活戦だと!?それでは、さっきまでの戦いの意味がないではないか。そんな話は聞いてないぞ!」

「敗者は名札を奪われるだけと伺っております。参加条件の卵は破壊されておりませんので、そう解釈することも出来るのではないかと」

「そうかもしれないが…根拠は?」

「先ほどから大規模な戦闘の気配を感じます。間違いないかと」

「100人中10人が勝ち残ると言っていたが…」

「もちろん、完全な嘘ではないでしょう。しかし今回の試験官、かなりクセの強い人物とお見受けしました。注意は必要かと存じます」


その時、試験官の声が響き渡った。

「諸君、たった今すべての準備が整った!私の配慮で行った、敗者復活戦の結果をお伝えしよう」


「はぁ…まあいいか。あの女もまず復活しているだろうな」


ルカは微笑を浮かべた。


「他の参加者から、指定した個数の卵を奪うことを合格条件とした争奪戦の結果、9人が復活したので、今から総勢59人で卵割り大会だ!た、卵割り大会(笑)」


ルカはイラッとした。何がおかしい。こちらはその卵割り大会に進路を賭けているのだ。


「復活した敗者は、自分の名前が刻まれた名札を取りに来るので、心当たりのある者はくれぐれも注意するように!」


「は?」

ルカは凍りついた。


「復活者の名札を持っている諸君、名札をどうするかは君らの自由だ!選択肢は2つのみだ。自分で持つか、任意の相手への譲渡かだ。あー、捨てた場合は失格とする。では始め!」

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