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華麗なる敗北  作者: や ま と  
襲撃編
73/84

酷い面を引き出していた

カイルは、野次馬に紛れてルカとクロムのやりとりを聞いていた。


「下民と呼んだのは、とある生徒が私を、女性の陰に隠れて良いところを掠め取る卑劣漢と中傷したからです。それに飽き足らず、彼は私に血生臭い決闘まで申し入れてきました」


はっと胸を突かれた。

あの時のことはよく覚えている。入学式の後、肩で風を切って廊下を歩くルカの姿を見た瞬間、入試の際にルカとアイリーニに叩きのめされた悔しさが爆発した。


『僕は君に負けてない!女性の陰に隠れて良いところを掠め取る卑劣漢め!この僕と正々堂々、決闘をしようじゃないか!』


ルカ相手なら勝てるだろうという甘い見通し。何不自由なく過ごしてきたであろういけすかない貴族の鼻を明かしたいという欲求。それらが混ざり合って、カイルの口を動かした。

だがルカは挑発に乗らなかった。それどころか、人前で恥を晒すなと説教をした上で立ち去った。

その後の実力審査でも大会でも、言葉以上に、実力でカイルを叩きのめしたのである。


恥。


カイルの顔に赤みが差した。

(今になって振り返ってみれば、彼は自分から僕を攻撃しにきたことがない。いつも僕が仕掛けて、反撃を受けていただけ。本来、彼は自分から嫌がらせに動くような人間じゃないんだ)


おそらく、相手が傷つくから絡むのはやめておこうとかそういう理由ではない。どちらかと言えば、いちいち攻撃しようと思うほど他人に関心を持っていないのだろう。

カイルに対する苛烈な言動の源、それは。

(僕の言動が、彼にとって許し難いほど不快だったから?)


カイルはようやく気づこうとしていた。

(彼が酷い人間なんじゃない。僕が彼の酷い面を引き出していたんだ。彼は……決して混じりっけなしの善人じゃないけど、試合でぶつかった時は堂々と応えてくれたし、時おり優しげな姿を見せることもあった)


胸の奥を覆う罪悪感。余計な負け惜しみを言わず、はじめから正当な努力と工夫で挑戦していれば、きっと彼との関係はもっと健全なものだったはず。

気に食わないが認めざるを得ない。そんな屈折した関係ではなかったはずなのだ。


あくまでも謝罪を拒否し続けたルカは、クロムが立ち去ろうとした時、はじめて深々と頭を下げた。


「申し訳ございませんでした。あなた方を見下してきたこと、心よりお詫びいたします。今後は我が身の至らなさを改め、行動でもって示してまいります」


散々謝罪を拒絶して話し合いを決裂させ、その直後に頭を下げる。一見何の益もない意味不明な行動だが、その真意をカイルは理解していた。

派閥入りのために媚びているのではない。数の力に圧されて屈したのではない。打算の余地を徹底的に潰した上で謝罪することで、心からの謝意を、誠意を伝えようとしているのだ。


それだけではない。派閥代表としての謝罪要求を公衆の面前で拒絶すれば、クロムに恥をかかせてしまう。

だからこその、このタイミング。媚びはしないが、詫びはする。見下していたことを認め、今はそうではないと行動で語る。

その上で相手のメンツも立てる。自身の孤立と引き換えに、他すべてを丸く収める一手である。


(やはり、君は尊敬に値する人間だ)

カイルは笑みを浮かべた。

(家族を巻き込むわけにはいかないから、必要以上に君に近づいて聖教会と対立することはできない。けど、もしいつか君が助けを必要とした時には、必ず僕が力になる。そしてその時、初めて対等な戦士として、あの日の非礼を心から詫びよう)


カイルは誓い、踵を返した。


(にしても……ここ一ヶ月でずいぶん変わったな。顔つきというか、面構えというか……)


ルカも、カイルと反対方向に向かって歩み出していた。その足取りは澱みなく、何か崇高な目的に向かって邁進しているかのようであった。


――――――


(さぁ、金欠解消と行こうか!クックック、寒い懐を気にする日々はもう終わりだ!)


ルカはギルドの前で息を吸い込んだ。人で賑わう木造の建物に一歩踏み込む。


ギルド。元は商人や手工業者による互助組織であったが、時を経て害獣駆除や素材の収集を斡旋・依頼する場に発展した、狩人や探索者、傭兵の集う場である。

一見、商人の寄り合いと害獣駆除などとは関わりが薄いが流れを辿れば単純な話である。

とある行商人が道中の護衛を募集したのを皮切りに、街道の害獣を排除して安全を確保する依頼が出されるなど、その役目は瞬く間に拡大していったのである。今や、依頼の仲介はギルドの主要事業と言っても過言ではない。


もちろん、商人の寄り合いとして誕生したギルドは経済的にも極めて重要な役割を担っている。金銭の引き出しや振込、口座の管理など、提供されるサービスは多岐に渡る。

元々両替商という職業自体は存在していたが、圧倒的な信用と組織力を誇るギルドに徐々に統合されていったのである。


(何なんだ、まったく!)


そんな歴史ある建物内で、ルカは地団駄を踏んでいた。

ギルドを訪れた要件の一つ、口座を貴族用から平民用に変更する手続きは、必要な書類を事前に用意していたこともあってスムーズに進んだ。

だがもう一つの目的、多額かつ即日払いの日雇い依頼の受領は容易ではなかった。


肝心の求人がない。いや、あることにはあるのだが、協調性やコミュニケーションに難を抱えるルカにとって致命的な欠陥を抱えたものばかりなのである。


『複数人募集』


掲示板に貼られた依頼書の中でも、特に危険度の高い害獣駆除などには例外なくこの文言が記されていたのである。

(まったくありがたいことだな。単独で無茶をせず、数の知恵と連携を活かして効率的に仕事を進めよというわけだ)


マズい。このままでは交通費が得られない。金欠も解消できない。

見る影もなく痩せ細った財布を何とかしたい。財布が嘔吐する手前まで遠慮なく詰め込んで、歩く時には多少邪魔くさく思えるような、ズシリと重苦しい感触を味わいたい。

そんなルカの切なる願いを、複数人という文言が嘲笑っている。


(このアホッタレめが!仕事ができれば一人だろうが二人だろうがどうでも良いじゃないかそんなことは。どうしてこう、世の中はおひとり様に冷たいのだ!こんな理不尽、この世のあらゆる法が許したとしてもこの俺だけは許さんぞ!)


しかし如何に憤ろうとも目の前の現実は変わらない。仕方なく、数をこなして稼ぐ作戦に切り替える。

一人でも受けられる安い求人の中でも、比較的報酬の良い依頼書を見つけたルカは手を伸ばした。


と、その時。突如横から割り込んできた男が、眼前でそれを奪い取った。

「何をす……」

ルカは言葉を呑み込んだ。そこに立っていたのは、大会準決勝で打ちのめした相手。

ユリウスであった。

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