試験開始
翌日、ルカは満面の笑みを浮かべて、試験会場に向かった。試験は各学園にて行われ、結果発表まで一日で完結する。どの学園も複数日試験を行っており、仮に落ちても別の学園を受けに行けば良い。試験期間も後半になると質の良いライバルは合格したり志望ラインを引き下げたりして減っていく。敢えて志望度の低い学園で腕試しをする手もあったが、ルカは躊躇なく初日に国一番の名門校に挑むことを選んだ。
試験番号は、23番。午前は政治や語学を含む学科を受け、午後には戦闘力や機転を見る実技を受けるというスケジュールである。
「クックック、俺の力を試験官に見せてやる時だ。アウレリア王立学園よ、創立以来初の逸材を前にひれ伏すが良い」
朝日に照らされた校門前で、ルカはニヤリと笑った。
――――――
数時間後、夕日で美しい紅に染め上げられた校門前を、ルカは死んだ魚のような目をしてトボトボと歩いていた。
『23番、君は不合格だ』
合格発表時に自分の番号が呼ばれなかったので抗議したところ、受験生全員の前で不合格を通告されてしまったのである。もちろん試験日程はまだあるが、既に落ちた学生が再度挑むには来年まで待たなければならない。
「あの時、調子に乗らなければ…」
学科は問題なく突破したが、実技でやってしまったのである。
単純な課題であった。矢でも異能でも手段は問わない。的を射抜け。それだけである。だがルカは、他の学生が派手に的を破壊する様を見て、自分の力を見せつけたくなったのだ。石を浮かせてソニックブームが発生するほどの高速で飛ばし、的を射抜くどころか丸ごと吹き飛ばしてしまったのである。周囲の学生からは喝采を浴びたが、試験官はそれを冷ややかな目で見ていた。当然である。的を射抜く課題において求められるのは何よりもまず正確さである。他の学生が的を破壊していたのは、あくまでも的の中心に、正確に能力が命中した結果であって、雑に的を丸ごと吹き飛ばしたルカが高評価をもらえるはずもない。
その後も試験は続いたが、自己顕示欲が限界突破したルカは一事が万事そんな具合で的外れな行動を繰り返した。
(よくよく振り返ってみれば、あれでは落ちて当然か。自分の欲求を発散するのに夢中で、試験官が求めていることに何一つ応えられなかった)
合否判定の詳細は開示されないが、コメントが付いていた。
『学科は及第点。実技については、強力な念動系能力を持つ一方、制御の面では改善の余地あり。集団戦においても、協調性の欠如がみられた』
ファントムは試験中、何もしなかった。指示通りである。だからこそ、ルカは苛立っていた。
「ご愁傷様でございます」
「うるさい。何を他人事のように振る舞っている。試験前に備えができなかったのはお前のせいだぞ」
「左様でございますか」
これ以上相手をする気力もなかったので、ルカは黙って邸宅の門をくぐった。両親に不合格を報告するために。
――――――
二日後、ルカはどんよりとした表情で、第二志望の学園に向かった。アウレリア分校である。もともとルカの第一志望であったアウレリア王立学園の分校として作られたが、あちらが多様なキャリアを前提とする一方、こちらは戦闘を生業とする家の人間が多い。現在は独立しているが、分校であった頃の名残か、王立学園との関わりは深い。しかし、王立学園との最も大きな違いはその卒業率にある。王立学園の生徒は極々一部の例外を除きエリート街道を邁進すべく安定して卒業していく一方、分校はカリキュラムも任務も厳しく、退学3割、死亡2割、卒業5割という過酷な道なのである。
「今後は、外でバルベリーニ家の家名を名乗るな。恥晒しめ」
父にかけられた言葉を思い返しながら、ルカは学園の門をくぐる。
「もう、失敗できない。俺はやる。やるしかないんだ」
受験票と引き換えに渡された金属製のカプセルを手に、指示された方向へとルカは歩み出した。受験番号によって管理されているのか、受験者たちはそれぞれ幾つかの集団を形成して歩いていった。
――――――
気づくと、ルカを含む受験生達は、中の見えない濁った結界の前に立っていた。足元には受験番号毎にどこに立つかを指定するマークが刻まれていた。見ず知らずの隣の受験生と向き合うようにして立たされているので、非常に気まずい。目の前に立っている少女は、ルカと目が合うと、オドオドと指先を弄りながら目を逸らした。どうやら受験生全員が、隣の人間と一対一で向き合うようにして立たされているようだ。
やがて、壇上の試験官が口を開いた。
「あー、本日は朝早くからご苦労。それでは、予定した時刻になったので、試験内容について説明を始める。諸君ら受験番号2950〜3050までの100人には、このドーム内で生き残りをかけて戦ってもらう。既に受け取っていると思うが、諸君らに課せられた任務は、卵を守ることである。卵を破壊された者は失格。また、意図的な殺害行為も失格となる。合格条件は、最後の10人に残ることである」
試験官は、金属製のカプセルを掲げる。
「これは、諸君らが結界に入った瞬間、非常に脆くなる。こいつを保護しながらドーム内で行動するのは至難の業だ。普段料理で使う卵をイメージしてもらえると分かりやすい。卵形のカプセルが、卵のように柔らかくなるというわけだ。アーハッハッハ、コホン、失敬」
受験生全員が混乱に包まれていた。100人中10人が合格?卵を保護しろ?これが人生を決定づける試験なのか?
「さて、聞き逃した者はいないか?…では始めよう。諸君らは今二人組を組まされているが、まずドーム内に入るには、目の前の相手を倒さねばならない。それでは、目の前の相手と戦え!以上」
理解が追いつかず、場の全員がフリーズする中、試験官が口を閉じるのと同時に、周囲を都合50個の立方体状の結界が覆う。それらは、向かい合う二人組を閉じ込めた。まるで、闘技場のリングのように。




