表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/59

すべての敵を討ち滅ぼせ

ルカは様子を窺った。言葉は尽くした。信者達の理屈を徹底的に否定し、非難し、その上でルカに救われるという逃げ道を用意した。


信者達は一様に怒りの表情を浮かべ、ルカを睨みつけた。それは明白な、拒絶の意思表明であった。


赤ん坊を抱えた母親が口を開いた。

「皆疲れてるのよ。考えは変わらないわ」


「……」


(そうか、理屈ではないのだな。徹底的に論破し、説得する……それ自体間違ったアプローチだったのだ。……そもそも俺は、人に説教を垂れていい立派な人間ではない。他人を動かせるだけの権威と力……箔もない。言葉だけで翻意させるなど、どだい不可能なことだったか)


「だとしても、だとしてもだ。せめて子どもは巻き込むな。俺が保護するから引き渡せ」


「嫌よ。私たちは皆で天国に行くの。天国はあるの!無いなんて言わせないわ!」


「あったら良いなぐらいの気持ちでいろ!絶対あるから死んでも良いやでは本末転倒ではないか!苦しみから救われるための信仰なのだろう?」


(ああ……ダメだ。届いていない。揺さぶることはできた。だが俺とコイツらは所詮他人だ。信用や、積み重ねた時間がない。だからどんな綺麗事も、虚しく掠めて飛んでいくだけ……)


「どうしても今日死なねばならんのか!明日ではダメなのか!数週間後は?数ヶ月後は?数年後は?何十年か後は?誰もが等しく苦しみを抱えるこの世界で、騙し騙し幸せを追い求めて、ずっと先送りにし続けるのではダメなのか?」


答えはない。もう誰も、ルカの言葉に耳を傾けていない。


(終わった。結局俺の話はすべて、勝手な都合に過ぎない。ハハッ、説得?俺は夢でも見ていたのか?上から目線の説教で人を動かそうなどという傲慢さが、現実に通用するわけがない)


「音を遮断してくれ」


カタリナの幻が展開され、二人の会話は周囲から聞こえなくなる。

「申し訳ない。説得は続けるが、そろそろ時間切れだ。お前の能力で、天使の幻でも出してくれ。子供達だけ先に天国に連れて行くとか……何とか言って奴らから引き離してくれ」


ルカは、決勝戦を諦めた。ここまで来て、人命よりも大会進出を優先することはできない。決勝戦から逃げ出した人間として軽蔑されようとも、絶縁前に家族からの評価を取り戻す最後の機会を不意にしてでも、責任を果たすことを決意したのである。


「子どもを連れて先に行け。クロードと行けば安全だし、幻を使えば交戦自体避けられる」

「あんたはどうするの?」

「俺は、追っ手が来るまで説得を続ける。救うと決めた以上、前言撤回はしない」


(子どもには親か、それに代わる何かが必要だ。誰にも愛されない辛さはよく知っている。必要とされない虚しさも。赤ん坊を母親から引き離して、救うだけでは足りない。命だけでは足りないのだ。俺は、もっと欲しかった。きっと誰もが、そう望むはず)


ルカは信者たちに目をやった。


(短い時間だったが、話して分かった。俺が思っていたような狂信者ではない。皆苦しいのだ。誰かに、何かに助けて欲しいのだ。人生は大変だから、投げ出したくなるのもよく分かる。分かってしまった以上、もう俺は、この者達を切り捨てることができない)


「私も残って……」

「悪いが拒否権はない。子供達を救えるのはお前だけだ。ここまで命懸けで助けに来てやっただろうが。借りを返せ。今、俺の頼みを聞け」


「……わかった」

「良し。では……」


ルカはそこで言葉を切った。足裏から地響きを感知する。ガルターリが仕掛けてきたのだろう。

「クソッ、もう時間切れか!」


通路の端からクロードが駆け寄ってくる。

「おい!説得は……できなかったみてぇだな。とにかく見ろ!」


ルカが通路の端から窺うと、そこには無数の腐乱死体がゆらゆらと蠢いていた。

三十代後半の女性が多く、男や子どもも混ざっている。

(この地下……規模の割に人が少ないと思ったが、隠していたのはこれだったか。何に捧げたのかは分からないが、これが生贄の末路……にしても、女性の割合が多過ぎる)


カタリナは目を見開いていた。

「あの日村から出なかったら、私も、ああなるはずだった」

漏れた声に、ルカはピクリと眉を動かした。


数万のゾンビの群れは、何の前触れもなくルカ達に向けて走り出した。


ゾンビの大群。その身体、胸や腕に、白く輝くバツ印が刻まれていた。

(あれはガルターリの……)


ルカが息を呑んだ瞬間、ゾンビの大群から無数の十字斬が放たれた。

十字の衝撃は通路を鋭角に回り込み、全方位から信者達に迫った。


クロードは全身から赤い弾丸を放ち、迎撃に動いた。ルカは回転するように壁を走り、撃ち漏らしをすべて剣で叩き落とした。


(もう他に打つ手がない。全員救う方法は一つだけ)

説得は失敗した。圧倒的な数の敵が迫っている。決勝戦には間に合いそうもない。聖教会を敵に回した。

たとえこの場を切り抜けても、その先にはこれまで以上の苦難が待つ。


それが地獄への第一歩と知りながら、囁くように決意を語る。

「使徒討伐を受諾する」


ルカは剣を地面に突き立てた。

「来い!我が声に応え、すべての敵を討ち滅ぼせ!」


黒衣の紳士は、音もなく舞い降りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ