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勘違いとすれ違い

聖堂騎士達は二人に向かって突撃した。

「「「十字斬!!」」」

一斉に剣を振り下ろすと、その剣先から十字の閃光が放たれた。


迫る攻撃の嵐に、クロードは真正面から赤いオーラで相殺し、ルカは回避することで対処した。壁にバツ印の傷跡が刻まれていく中、ルカはガルターリに向かい、クロードは大広間から伸びる道の一つに突き進んだ。

クロードは襲いかかる騎士達をすべて撥ね飛ばし、一切回避行動を取ることなく大広間を突っ切った。その背を、騎士達の約半数が追った。


ガルターリは剣を横薙ぎに振るい、斬撃を放った。他の騎士と異なり、一撃で複数の細かい十字が放たれ、衝撃波だけでルカの全身が圧される。


遠距離から放たれる連撃を、薄皮一枚の距離で回避し続ける。

(奥の手を使うか?いや、不確定要素が多過ぎる。あれはすべてを破壊する爆弾……使うとしても、他に打つ手のない窮地に追い詰められてからだ)


ルカは鞘を取り出し、剣を収めた。留め具で鞘を固定し、刃物としてではなく鈍器として振るうことにする。


(奴は、自身の強力無比な能力を指揮下にある人間達に共有することができるらしい。十字斬の弾幕は脅威だが、砲台となる騎士達を減らせば負担は減る)

実際、鎧を着込んだ騎士達に斬撃はほぼ通らない。身体強化を全開にし、殺意を込めて斬りつけるなら話は別だが、ルカはその選択肢を捨てた。


(大聖堂の警備は何ら罪に当たらない。教会の搾取に加担している可能性は否定できないが、ガルターリはともかく、末端の騎士は無関係の可能性がある。ならば、可能な限り殺さず制圧する)


「殺さずに済ませてやろう。俺の慈悲に感謝するが良い」


ルカの宣言を受けて、騎士達は困惑した。国のエリートとして幾人もの敵を排除し、拘束してきたが、慈悲をかけられたことなど一度もない。

だが、彼らは精鋭である。瞬時に困惑を振り払い、再度ルカに突撃していった。

そして、最初に突っ込んだ一人が、音を立てて崩れ落ちた。


「なっ……何という……」


すべての騎士は立ち止まり、思わず声を漏らした。


ルカが使った手は単純。金的である。剣での攻撃を回避し、下から掬い上げるように股間を打ったのだ。


「悪いな。お前達の鎧は硬過ぎる。殺さずに制圧するにはこれしかなかった」


聖騎士達から非難の声が上がった。

「貴様!何という卑劣な真似を!恥を知れ!」

ルカは怒鳴り返した。

「黙れ!金的の痛みも知らぬような者は、真の男とは言えぬ!殺さずに済ませてやっているのだから感謝しろ!」


ガルターリは油断なく隙を窺った。

(殺害を躊躇する理由は分からないが、実に合理的な手を打ってきたな。鎧を着込んでいても衝撃は通る。急所と言えば頭部だが、兜は厚く、丸みもあって攻撃を逸らされやすい。股を狙い、一撃で無力化。卑劣だが効果的だ)


ルカもガルターリに気を配っているのか、隙を見せる気配はない。


(金的か。食らった者なら分かるが、あの下腹部から迫り上がるような猛烈な痛み……いかに鍛えられた戦士だろうと数十分は蹲り、戦闘など選択肢にも入らない。他の騎士達も竦んでいるか……奴のような人間とは何度か戦ったことがある。独特な存在感でいつの間にか場を支配しているタイプだ)


ガルターリは剣を収めた。


(こういう相手に、半端な数は意味を為さない。実力勝負でねじ伏せるのみ!)


「総員、大きく囲め!俺が片をつける!」

ルカは剣の留め具を外した。

「ようやく近づく気になったようだな。数を頼った砲撃ごっこはおしまいか?」


「剣を合わせるに相応しくない者を砲撃で仕留めきれなかったのは残念だが……所詮お前は聖教会の敷地に侵入した犯罪者に過ぎない。ふざけていられるのも今の内……これから行われるのは一方的な処刑だ」


「犯罪者、か。この地下で何が行われているのか知った上でそれを言うか!貴様らこそ人倫にもとる獣ではないか!」

(お前ほどの地位にある者が、誘拐について知らぬとは言わせぬぞ!罪もない少女を苦しめるなど……)

ルカの思考は半ばで中断された。

「せ、聖骸のことを言っているのか」

「ああ……確か、聖教会がどこかに保管している遺物のことだな」

「しらばっくれるな!生贄や子羊……使徒との関係まで知っているとは……そうか、侵入してきたのは、聖骸の所在と我らの目的を確信したからだな?いったいどこから情報が……」


しばしブツブツと考え込んだガルターリは、人差し指でルカを指した。


「どうやらお前は知り過ぎたようだな。絶対に生かして返さぬ!」


「お前……何を勝手に盛り上がっている?」

ルカは困惑しながら剣を引き抜いた。剣に魔力を込め、そこから漏れ出る温かな光で、地下の冷気で固まりそうな身体をほぐしておく。


「王家の密命を受けて聖教会の権威を揺るがし、王権との分離を図ろうという腹か。愚かな!王権神授の神話を脅かせば、自ら体制を崩壊させかねな……いや……その光!遺物か!なるほど、守護者の系譜に連なる者が、こうも大胆な行動に出るとはな。裏で糸を引いているのは、大結界の主だったか!」


「はぁ?」

ルカは周囲の騎士の動きに気を配りながら、間抜けな声を漏らした。

(意味不明な話を重ねて何のつもりだ?いや、理解する必要はない。最強の騎士と思ったが、その実頭のおかしい陰謀論者だったとは……)


「予言に従い、今すぐ貴様を排除する!聖剣解放!」


ガルターリの剣が黄金の輝きを帯びた。赤熱していくそれを目にしたルカは、瞬時に踵を返した。全速力で手近な通路に飛び込んだ瞬間、大広間全体に細かい無数の十字斬が放たれた。ガルターリを除き、聖堂騎士達は全員細切れとなった。


迫り来る衝撃波と十字斬を逃れ、どこに向かうのかも分からぬまま、ルカは通路を駆け抜けていった。

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