表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/47

己に恥じぬ決断を

雨が、ポツポツと降り始めた。ルカは嘆息した。

(これは、他人か自分かという単純な問題ではない。行動の結果は俺だけではなく家族にも、そして聖教会の信徒達にも影響し得る。故に、メリットデメリット、倫理的にどうかと考えれば考えるほど混乱する)


赤い男に目をやる。男も何か考えているようだ。当然である。聖教会に挑戦するリスクは、国民の誰もが知っている。


(それで、迷っている俺よ。そういうのいったん全部傍に置いた時、本当はどうしたいんだ?)


ルカは重大事を前にして迷い、考える時間がない時、過程をすっ飛ばして結論に辿り着くようにしていた。答えを出さず考え続けることは、その間、行動しないことで現状を認めることを意味する。


この場面でもそれは変わらない。ルカが考えている間にも、カタリナの身は危険に晒されている。考え続け結論を出さないことは見捨てることと同義である。


(俺は、すべて手に入れる。救いたいから救う。決勝戦にも間に合わせる。その上でケジメもつける。たとえ無事に帰れたとしても、家とは縁を切る)

指輪に目をやる。常に頼ってきた相棒に。

(事情を知らず、過失もない一般の警備兵などは絶対に殺さないが、誘拐に関与した者は、必要ならば殺す)

ルカは目を見開いた。

(俺は、自分に恥じない決断をする!その上で、すべての責任を取る!)

 

そして、二度と取り消すことのできない言葉を口にする。


「俺は行く。お前はどうする?」

赤い男は応えた。

「当然、行く。……こんなことに巻き込んじまって、悪かった」


「馬鹿を言うなよ。あの夜、追われていたお前達を助けに行ったのは俺の判断。そして今、救出に向かうと決めたのも俺の判断。お前は何一つ決めていない!すべて、すべてこの俺様が決めたのだ!」


赤い男は笑った。

「お前はブレねぇな。……まだ、名前を教えてなかったな。クロードだ」

「ルカ。ありがたい俺の名を覚えておけ」


――――――


数分後、二人は大聖堂の裏手に回り込んでいた。人で賑わう表の喧騒が、くぐもって聞こえる。申し訳程度の備えだが、クロードの持っていた布で顔を隠し、制服は裏返して羽織った。


「長くは保たねぇし、防御力もあてにできるもんじゃねぇが、正体隠すにゃ十分だろ」


加えて、クロードの生み出した赤いオーラを纏うことで、二人の姿は陽炎のようにゆらゆらと蠢くシルエットとなった。


クロードは、自身の能力で生み出した結晶の軌跡を追うことができる。数十分もすれば消えてしまうそうだが、匂いのようなものが空中に残るのだという。

小さな扉を前にしてクロードが囁く。

「ここから入ったみてぇだ。行くぞ」

ルカが頷くと、クロードの手から赤いオーラが滲み出した。それが鍵穴に入り込むと、数秒でカチャリと音がした。

(手癖の悪い下民も、たまには役に立つものだな)

ルカはさっさと中に入っていった。

足元に意識を集中し探るが、振動を感じない。何というザルな警備。ルカは呆れ果てた。

(簡単過ぎる……)

クロードも同じ感想を呟いた。

「楽勝だな、オイ」

ふと、ルカは振り向いた。特に深い意味はない。単に、扉が閉まっているか確かめただけである。

(!?)

内側から見ると、入ってきた扉にはドアノブが無かった。鍵穴もない。そこには、ただ分厚い壁があるのみであった。ルカはクロードと顔を見合わせた。


――――――


大聖堂地下。警備室にて紅茶を飲んでいた聖堂騎士長ガルターリは、ピクリと眉を動かした。

「お休みのところ失礼します!何者かが裏手より侵入したようです!」

部下の報告を受ける前に感知していた。敵は二人。こそこそと侵入するとは、邪な意図を持っているに違いない。

「部隊をBブロックに二重展開。標的は二名」

「はっ!」


――――――


ルカとクロードは、薄暗い地下をひた走っていた。

「来たか」

「みてぇだな」

二人は前方から接近する集団の気配を察知した。多い。三十人はいるだろうか。敵が接近してきた時、二人は左右に分かれて壁を走り、警備を担当する聖堂騎士達の頭上を通過した。聖堂騎士達も、薄気味悪い笑みを浮かべたまま通過した。

(なぜだ!?)

ルカは一瞬戸惑ったが、すぐに意図を察した。


聖堂騎士達は二人が通り過ぎた後、隊列を組んで立ち止まり、通路全体を封鎖する結界を作り出した。

(逃がす気はない、というわけか)


やがて通路を抜けると、そこには照明輝く大広間があった。待ち受けていたのは、約三十人の聖堂騎士達であった。真っ白な盾と鎧、銀色に輝く剣で武装し、整然と並んでいる。

その中央には、聖堂騎士長ガルターリがいた。全身を豪奢な鎧に包み、手には大振りのツヴァイヘンダーを持っている。

ルカの手は震えた。

(聖堂騎士長!いきなり国内最強の一角が出てくるとは、最高だな!熱烈な歓迎に涙が出そうだ)


クロードは囁いた。

「二人で突破するぞ」

「いや、隙を見て先に行け。詳しい場所が分かるのはお前だけだ。それに……」

ルカはガルターリに向けて顎をしゃくった。

「奴はどちらかが抑えなければならない。俺がやる」


ガルターリは大音声を発した。

「聞けぇええーい、侵入者達よ!大人しくお縄につけ!さすれば神の名において慈悲を与える!聖教会の教えに導かれ、天国に至ることを許す!」


全身に赤いオーラを纏った二人は、それぞれ思い思いの構えを取った。クロードは拳を突き出し、ルカは剣を正眼に構えた。

それは降伏勧告に対する、明白な拒絶であった。


ガルターリは手を振り上げた。降伏しようがしまいが、やることは変わらない。侵入者は、ただこの世から抹殺するのみ。


「全隊突撃!」


死闘の幕が、切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ