暗殺計画
試合後、ルカは倒れ伏したユリウスを見ていた。
(恐るべき強敵だった。午前中の試合で消耗していなければ、勝つことはできなかっただろう……ん?)
ユリウスの腕にあった傷が消えている。自傷で凶暴化すれば力は上がるが、出血により消耗が加速する。そう思っていた。
(自己再生能力まで持っていたのか。どこまでおかしい性能をしているのだ、コイツは)
――――――
会場の外に出たルカに、アイリーニは鞘を差し出した。
「お疲れ様」
「ああ、ありがとう」
ルカはそれを受け取り、剣を収めた。
受験の時に全力でアイリーニと戦っていたおかげで勘が戻っていたらしく、遺憾なく全力を発揮できた。あの時は衆人環視のプレッシャーはなかったが、自分の全力を信じることができたのは、あの一戦のおかげである。
「勝てたのはお前のおかげだ。助かった」
「わたくしは何もしてませんわ」
「奴は午前中でほぼ力を出し尽くしていたらしい。いったい誰のせいだろうな?」
「それは……」
「謙遜するな。今日は奢らせてくれ」
「フフッ、是非」
(良し、良い具合だ。アイラに対するこの感情……そう、これは敬愛の念だ。俺は今、人生初の友達を得ようとしている!明日の決勝戦に勝てば、ますます尊敬を得られることは間違いない!クックック、どうやら完璧な計画が成立してしまったようだな)
寝る前に次の対戦相手の対策を立て、明日午前の三位決定戦の間にウォーミングアップを済ませる。午後からの決勝に勝利し、伯爵家としての立場も守る。ルカの計画に穴はない。
「ルカ!おめでとう、見事な戦いぶりだったよ」
前からやってくるのは、もう見慣れた男であった。相変わらず小憎たらしい笑みを浮かべている。
「お前か鼠。下々の言葉とはいえ、一応賞賛は受け取っておこう」
「次も頑張ってくれよ」
「言われるまでもない。まぁ見ていろ」
アイリーニと共に街に向かうルカはふと背中に違和感を覚えた。
(視線を感じる)
アイリーニも何かを感じたか周囲を見回すが、何の異常も見当たらない。
(気のせいか?)
――――――
二人はやがて警戒を解いた。その様を通行人に紛れて見ていた男は、その背を追って自然な足取りで歩き出した。
『標的の監視を続行する。警戒対象の女と合流した模様。子羊捕獲と並行して抹殺します』
思念のみで大司教に報告を送る。
『そうだ、優先度は低いが、女も警戒対象ならこの機に諸共やってしまえ。遅くとも明日には殺せ。大会で疲弊したタイミングを狙えば容易い』
『御意』
『公の異端審問がどうのと枢機卿はまどろっこしい手を好むが、私は時間をかけるのが大嫌いだ!分かるな?』
『既に国外の植民地化に従事していた啓導師を呼び戻しております。聖教会の有する最高戦力でもって、必ずや連中の首を挽き切ってご覧に入れましょう』
『白い肌を持つ奴隷を欲しがる有力者はまだ大勢いる。子羊の存在が露見すれば聖教会の権威が揺らいでしまうし、まだ金になるシノギだ。頼んだぞ』
大勢の観客が詰めかけ、注目の集まる決勝戦前、三位決定戦のタイミングで子羊を捕獲。決勝戦の後、観客の誘導や会場の後片付けに学園が追われている間に、疲れ切ったルカを殺しルカの元に来るだろう女も仕留める。他の標的も隙あらば仕留める。
大司教の主導する計画に、穴はない。




