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騙し討ち

「また君か……」

王都を警備する憲兵隊第三部隊隊長バルトは嘆息した。その前に座るルカもげんなりした視線を返した。好きで来たんじゃない。口にせずとも、態度が内心を語っている。

数ヶ月前に博物館で襲撃を受け、数週間前には街中で弩銃を持った女性を取り押さえたりと、刺激的な日常を送っている少年だ。今回は騒ぎの当事者ではないので、憲兵隊の詰め所で調書を取り、速やかに帰宅してもらう予定だ。


「とりあえず、母君には直接寮に帰す旨お伝えしておいたから、今日は帰っていいよ。最終的に合図を送って助けを求めたのは正解だったけど、今後は騒ぎに首を突っ込まないように」


「ご迷惑をおかけし申し訳ございません。今後このようなことがないよう、肝に銘じます。それでは失礼いたします」

(この台詞を聞くの、もうこれで三回目だな)

バルトはこめかみを人差し指で揉んだ。

「恐れ入りますが、一つ質問してもよろしいでしょうか」

「何だい?捜査情報に抵触しない範囲の質問しか受け付けられないんだけど……」

「二人の様子を教えていただけないでしょうか」

「ああ……二人とも怪我はないよ。反撃を抑制してくれたおかげで、住宅地で市民が巻き込まれる事態は避けられた。大人びた判断のできる、良い友達だね」


友達という単語が出た瞬間、ルカは怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐに頭を下げた。

「それを聞いて安心しました。では、失礼いたします」

部屋の外には、迎えに来た教師が待機していた。短く挨拶を交わし、教師と共に詰め所を出ていくルカを、バルトは見送った。


――――――


翌日の昼、ルカは闘技場内にいた。

三度目の試合相手はペトラという女神官であった。

ルカはペトラを見据えた。いかにも清純そうな少女である。サラサラの銀髪に澄み切った青空のような瞳。携えた錫杖といい、凛とした佇まいといい、すべてが聖教会の神官に相応しい格調高さを備えている。

一部の生徒からは聖女と呼ばれているようで、その噂は友達のいないルカの耳にも入っていた。廊下を歩いているだけで、嫌でも聖女がどうのと聞こえてくるのである。ルカは失笑した。

(聖女、聖女だと?ああいう清廉ぶった女ほど中身クズなのだ。どんな人間にも暗い面はある。それがまったく見えない不気味さに気づかない、それが凡夫どもの限界よ)

廊下をすれ違うだけで、背筋がざわつく。ルカは一度も言葉を交わしたことのない女神官を、蛇蝎の如く忌み嫌っていた。


「ん?何だ?」

ペトラは唐突にルカに向かって歩き出した。ルカは訝しんだ。試合開始前とはいえ、対戦相手に接近するのは褒められた行いではない。ルカの手前に辿り着いたペトラは、手を差し出した。

「良い試合にしましょうね」

ペトラはニコリと微笑んだ。

(あ、あざとい!対戦相手に敬意を表すのは良いが、それを人前でやるところが何とも……まぁ、特に断る理由もないし、ここは応じてやっても……)

差し出された手に触れる直前、ルカは剣を呼び出し、柄で払いのけた。

「痛い!いきなり何をするの?」

痛がる素振りを見せるペトラも、観衆から上がるブーイングも完全に無視し、急ぎ自身の手を確認する。異常はない。

握手の直前、差し出されたペトラの掌にキラキラと光るものを視認したのである。そこには、微細な魔力が宿っていた。

(能力を発動していた!?気づかず触れていたらどうなった?試合開始前に直接攻撃をするとは考えにくい……試合中に発動するトラップや布石の類か!女狐めが!)

告発しようと審判に目をやった瞬間に気づく。既にペトラの掌から能力の形跡が消え去っていることに。手を払いのけられた瞬間に能力を解除し、証拠を隠滅したのだ。ルカはペトラを睨みつけ、そして息を呑んだ。

(何という濁りきった瞳!人殺しは何人も見てきたが、その誰より昏い!)

澄んだ水面の奥底に隠されたヘドロに、ルカは吐き気を催した。

「失せろ!」

「まぁ!何か気に障ったならお詫びします」

「黙れ!小細工は終わりだ」


間もなく試合開始である。審判に促されたペトラは背を向けた。ペトラが会場の端に辿り着き、両者の準備が整ったのを確認した審判は手を振り上げた。


「はじめ!」

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