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トゥンク

昼休みもそろそろ終わりだ。ルカは会場前でカイルとすれ違った。

二人は一切言葉を交わさなかった。全力で戦う?自明だ。勝つのは自分?お互いそう確信しているだろう。


分かりきっていることを改めて語り合うことは、この場においては無粋である。


すべては、試合の場での振る舞いが語るのだから。


――――――


数分後、ルカは闘技場に立っていた。

(見せてもらおうか、お前の力を。横槍なしの一対一で無様に敗北した時、どんな負け惜しみをほざくか楽しみだ!)

『君は、そんなので誰かに愛されるのか?君には人間らしい温かみというものがないのか?』

その言葉を思い出した瞬間、ルカは視界が真っ赤になるほど怒り狂った。

(腑が煮え繰り返るわ。どう見ても愛されていない人間に対して、愛がどうのと問いかけるとは、この鬼畜めが!)


会場の反対側から、遂にカイルがその姿を現した。入試の時の、見すぼらしく弱々しい姿はそこにはなかった。いつものズルフィカールは鞘に収められ、代わりに見慣れない大筒を担いでいる。

ルカは油断なく目を配った。そして気づいた。目が惹かれるのは大筒だが、背中にもう一振り、小ぶりの剣を背負っている。手札が多い。つまり。


油断ならない。


実力審査も含め、通算三度目の対戦である。

(らしくもない小細工を弄したか。二度あることは三度ある。それを教えてやろう。身をもってな!)


「始め!」


号令と同時に、カイルは動いた。大筒をルカの方に向けたのである。

(狙いが見え見え。意表を突く一手としては機能していな……)

ルカの思考は、半ばで断ち切られた。とてつもない速度で、灰色の物体が飛来したのである。ルカはそれを剣で防ぎ止めた。けたたましい金属音が会場内に響き渡る。

痺れた腕で、何とかそれを弾き飛ばす。

「何だ、コイツは」

地面を見て、眉を顰める。そこには、衝撃で脊椎のひしゃげた、真っ黒な鼠が転がっていた。

(なるほど。恐らく銃に近い仕組みで、魔力を纏わせた鼠を飛ばしているというわけか。にしても硬い。たかが鼠を、これほどの高みに!)


ルカは密かに感嘆した。

(当たれば内側から身体を食い荒らされる。巨大な敵が相手でも、一発入れば有効打になる手か。悪くない)

だが、ネタが割れた今、これ以上喰らってやる義理もない。ルカは剣を振って痺れを誤魔化し、歩き出した。

「それが、お前の出した答えか。発想としては面白い。だが、最大の弱点を補うほどのものではないな」


「ラット・バレット!」

(なんという安直なネーミングセンスだ)

続いて奔流の如く襲いくる鼠の弾丸を、ルカはすべて剣で叩き落とし、受け流した。


「砲撃ごときで、この俺を倒せると思うか?」

「だろうな。分かってる。鼠の王よ、僕に力を!」

カイルが地面を踏み鳴らすと、足元から大量の鼠が湧き出た。瞬く間に鼠はその数を増やし、津波のように群れをなして襲いかかった。

「少しは工夫したかと思ったが、結局馬鹿の一つ覚えか」

確かに数で押し潰す戦術は強力だが、それは以前見た。対策しないわけがない。


ルカは鼠の大群に背を向け、観客席に全力疾走した。競技者が場外に出るのはルール違反。審判が制止しようとしたその時、ルカは跳び上がった。遠心力を利用し、そのまま壁を駆ける。


カイルは内心、舌を巻いた。

(そう来たか!障害のない壁を利用して鼠の群れを躱された!だが!)

カイルは鼠の群れをさらに足元から生み出し、壁際に差し向けた。

(もう鼠が出せないとは言ってないぞ!)


対するルカは、ここで切り札を使うことを決断した。

(身体強化!)

背後から叩かれたかの如く爆発的に加速し、追加の鼠の軍勢を、自身に到達する前にやり過ごす。


ルカは、鼠の軍勢との直接対決を避け、壁際からカイルに飛びかかった。

(大質量の攻撃は強力だが、自身を巻き込む至近距離では使えないのが弱点だ!そして、お前は接近戦が下手!終わりだ!)


この時点で既に、ルカの敗北は半ば決定づけられていた。しかし、すんでのところでルカは気づいた。カイルの背中にあった小ぶりな剣が消えている。

(何かまずい!)

飛び退った瞬間、上から刃が降ってきた。距離を取ったことで間合いの外に出たか、ギリギリで回避に成功する。


刃を振り下ろしたのは、背後から伸びる尾であった。カイルは囁いた。

「鼠の王よ、我が身に宿れ」

ルカは舌打ちした。間合いが広く、素早く、視界の外から攻撃できる。攻撃の直前まで背後に隠され、予兆を捉えることも困難。しなやかな動作は、ルカにとって未知の軌道での攻撃を可能とする。


(前回も前々回も、近接戦闘で圧倒するのが勝ち筋だった。なるほど、弱点を潰してきたというわけか)

「使役者本人の弱さという致命的欠陥を、手数を増やして補おうというわけか。考えたな」

「これまで二回負けたのは、君に接近戦で圧倒されたからだ。悔しいけど、その実力は認めざるを得ない。血の滲むような修練を重ねてきた君に、僕の剣は通用しなかった」

カイルは自身の尾を撫でた。

「でも今度こそ、この力で君を超えるよ」


自分の欠点に真正面から向き合う強さ。大会までの短期間でそれを克服する工夫。それらを体現したカイルを前にして、ルカは鼻を鳴らした。

(何という可愛げのない努力だ)

母からの叱咤を受けてささくれだった心が溶けていく。

(試合で当たるかどうかも分からぬ俺を倒すためだけに、ここまでするか。やはり気に入らん。だがその純情可憐、悔しいが認めざるを得ん)

ルカは笑みを浮かべた。

(何といういじらしい努力。嬉しいぞ、お前が俺の想像を超えてくれて。不覚にも胸の高まりが抑えられん)

ルカは、二回戦敗退の危機を前にして、人生初の朗らかな笑みを浮かべた。

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