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二番手

ルカは闘技場の裏手で頭を抱えた。あと三回勝てば決勝。あまりにも遠い。

(とんでもない強敵だった。まったく存在を感知できない相手との戦いが、一戦目だと?有り得ん。そんなことがあっていいわけがない。しかも次は、あの鼠男ときた)

ルカの全身を、とてつもない疲労感が襲っていた。

(カタリナといったか。今回の相手といいアイリーニといい、実戦で当たれば確実に死ぬような相手ばかりだ)

「いや、それはいい」

もっと重要なことがある。カタリナの腹部に刻まれた教会の紋章だ。

(鼠は所詮試合の相手。命の問題ではない。だが、教会はどうだ?あの紋章を見た時、とてつもなく不吉な予感がした)

ルカは、ファントムのトランプを見た時と同等の闇を感じ取っていた。躊躇なく人を殺める怪物と同レベルの狂気。

グレイヴ聖教は、国単位のみならず、地域で最もポピュラーな宗教だ。死後は天国に行けると説き、献身を美徳とする。

(しかし胡散臭い。異世界人に身体を乗っ取られる転生現象を洗礼で防げるだのと触れ回っているが、何の力も感じられなかった)


聖骸と呼ばれる遺物を管理しており、その本部はルカの暮らす王都にある。

(厄介ごとには関わりたくな……ん?何か踏んだか)

ルカが足元を見ると、そこにはチラシが落ちていた。

『洗礼で天国へ向かおう!』

グレイヴ聖教会。印字された文字を見て、ルカは心底嫌そうに顔を顰めた。

チラシの下部にも、小さな文字があった。

『魔王軍撃滅!純人類至高也!啓導師・植民地管理官募集中!』

(足跡のついたチラシを信者に見られると面倒だな)

ルカは内容が分からないように紙を丸めて、廊下のゴミ箱に放り込んだ。


――――――


ルカは疲れを癒すため、寮の自室に向かっていた。ドアノブに手をかけたルカは瞠目した。中に誰かいる。入室が許されているのは、部屋を利用する本人か、或いは……家族のみ。

息を吐き出す。意を決して扉を開くと、そこには予想通りの人物がいた。

「遅かったわね」

「母上……お会いできて嬉し」

ルカの頬にビンタが入った。

「相続放棄を賭けて大会に出ると言ったそうね」

「ご旅行中、相談もなく決めてしまい、申し訳ありま」

丸めた新聞紙がルカの顎を強打した。ルカは避けなかった。

「言ったわよね、ルカ。与えられたもので満足しなさいと。お前が兄を超えようとするたび、第二夫人として生きてきた私の人生が否定されたような気持ちになったわ。一番でなければ価値がないと言わんばかりの、その態度が鼻についたの」

母の指がルカの顎を掴んだ。

「でも良かったの。あなたがバカな真似をやめて、兄の下で生きていくと決めてくれたから。なのに!」

母の表情が鬼のそれに変わった。

「どうして分からないの?あなたはお母さんをそんなにも苦しめたいの?じゃお母さんこれまで生きてきたのが間違いだったの?」

ルカは押し黙っていた。

「今貴族でいられるのも、すべて第二夫人として迎えてくれたあの方のおかげなのよ?」

母は再度、新聞紙でルカの頰を引っ叩いた。ルカの頬から一筋、血が流れた。

「ああ。ごめんなさい、ルカ。でもあなたがいけないのよ。お母さんの言うことを全っ然聞かないから」

母はルカの横を通り過ぎた。

「まぁいいわ。二番手の学校で優勝しても、兄を超えたとは言えないし。でも!」

扉が閉まる直前、母は言い残した。

「勝ちなさい。能力さえあれば一番になれるとか、言い訳はもう通じないわよ。ここでも負けるようなら、もうお母さんの子じゃありません」


ルカはしばし、一人押し黙っていた。やがて、目の奥で炎が燃え出した。


「カイル。この時を待っていたぞ。貴様を、情け容赦なく踏み潰してくれるわ」

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