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臆病者

「実力審査は学生どうしの一騎討ちで行う。事前に提出してもらった書類の審査や、入試の時点で能力や頭の出来は把握している。あとは、能力抜きの力を測るだけだ。さて、私の後について移動を…」


レヴィアは手を叩いた。


「ああ、忘れるところだった。その前に。まず君たちの中から入試の成績を踏まえて選抜した5名を紹介しよう。まぁ模範生とでも呼んでおこうか」


(当然俺は選ばれるとして、他4名は誰だ?)


指された生徒達が壇上に並んでいく。


(あれは、試験の時に見かけた槍を見かけた女か。赤い男。アイリーニ…はまぁ順当だな。あと1人は知らない顔だ。いや待て、あと1人だと?まさかこの俺が選ばれていないというのか?そんなバカな)


しかし、懸念は外れ、最後に指されたのはルカであった。ルカは直前の不安を綺麗に忘れてウキウキで席を立った。


(クックック、当然だな。しかし、特待生ではなく模範生とは面白い)


壇上に上がった際にアイリーニと目が合った。一瞬だが確かにウインクをされ、ルカは目を逸らした。


「あー、選ばれなかった生徒諸君らは、彼らを参考にするように」


(そう、俺を見習うことだ。凡人どもよ)


「さて、これから実力審査に向かうわけだが…君たちは模範生なので、例えば3対1でも容易く勝利することができるだろう。期待してるよ」


背後からポンと肩に手を置かれたルカは、しばし立ち尽くしてから勢いよく振り向いた。


(能力なしで3対1?これは…もしやただの貧乏くじでは?制度として定められた特典があるわけでもなく、ただ教師に目をつけられただけではないか!)


ルカは一瞬歯噛みしたが、すぐに平静を取り戻した。


(いや、問題ない。雑魚が3人群れた程度でこの俺を倒せるか?路傍の石ころが2つ3つ増えた、それだけのこと)


ルカは堂々と壇上から降り、レヴィアの指示に従って歩き出した。


――――――


15分の休憩を挟んで天蓋付きの運動場に集められた新入生は、思い思いの武器を手にして教師の指示を待っていた。


「では、模範生5名は前に出てくれ。では…ルカ君。まず君にやってもらおうか」

注目を集める最初の一戦だが、模範生に選ばれた時点でこの展開を予想していたルカは、堂々と進み出た。そして、指輪からアーミングソードを取り出した。

他の生徒のそれとは質が違う。バルベリーニ家の財力で手に入れた剣である。特別な能力があるわけでもない、単に極めて頑丈なだけの武器だが、長らく友達のいなかったルカにとってはこれだけが信用できる相棒であった。


ルカの相手として選ばれたのは、テオとカイル、そして弓を背負った少年であった。

(鼠と豚か。あと1人は知らんが、まぁ良い)


ルカは拳を握り締めた。同じ制服を着ていても、服の仕立てや立ち居振る舞いでわかるのだ。貴族はテオ1人だけ。他2人は平民出身であると。分校は戦闘力に重きを置き、他国からの留学生から平民まで広く受け入れていると。にしても。


「こんな連中が相手とは、俺も舐められたものだ」


ルカは独りごちた。平民など貴族である自分の相手として相応しくない。

カイルはズルフィカールを引き抜いた。先端が二股に割れた、優美な剣である。時間が経ち、もうその瞳に涙の跡は見当たらない。


「さっきは醜態を晒してしまったが、今度こそ正々堂々と君を超えるよ」


「3対1で正々堂々とは、下民の言うことは分からんな」


カイルはギリッと歯軋りをした。


「だが恥じることはない。勝てる状況で勝ちを拾いにいくことこそが正道だ」


「僕は、君とは違う。貴族としての権力やコネじゃなく、実力でここまで来たんだ。本当なら、数の優位なんてなくても、君みたいな情熱のない人間には、絶対に負けないんだ」


「なら証明してみせろ、下民が」


ルカの横を通り過ぎたカイルの後を、テオはオドオドと下を向いて通り過ぎようとした。その時、ルカはテオの肩を掴んだ。


「ヒッ!?」


その目に広がる恐怖の色を見て、ルカの胸は締め付けられた。勝てるはずもない相手だと諦め、萎縮し、下を向く。それはかつて、ルカ自身も辿った道だった。そもそも、テオを叩きのめしたのは自分ではない。命じた責任はあれども、畏れられる資格なし。ルカは己を恥じた。


「もう、それはやめろ。お前も貴族ならば胸を張って戦え。誤解があったとはいえ、お前をここまで卑屈にさせてしまったのは俺のミスだ。……すまなかった。貴族として、俺が真に求めるのは対等な関係だ。能力抜きでの勝負なら、俺を恐れる必要はない」


「……」


テオの目に驚きの色が広がり、やがて据わるのを見て、ルカはそっと手を離した。


――――――


すり鉢状の闘技場の中央で、3対1の勝負が始まろうとしていた。テオとカイルの2人が前衛として剣を構えて立ち、弓を構えた男が後衛を務める陣形だ。

テオは、ルカを見つめていた。頭の中にフラッシュバックするのは、試験時のトラウマ。

石礫で宙高く浮くほど吹っ飛ばされ、お手玉でもされるかの如く弄ばれた。そのまま、試験終了の合図まで容赦なく叩きのめされたのだ。執拗に。何をしても無駄と思えるほどの力の差に、抵抗の意思は失われ、気づけば豚のように鳴き、媚びへつらっていた。


中等部3年間、細身で弱い自分を変えるため身体を鍛えた日々。その甲斐あって、今では筋骨隆々、見た目だけなら強者の風格である。それでもなお自信が持てず、金をかけて血糊や切り落とした腕のレプリカを用意してまで交戦を避けようとした。

(見た目の問題じゃない。僕は根っからの臆病者なんだ。でも、3対1での純粋な勝負。ここまでお膳立てされてなお立ち向かえないなら、僕は臆病者以下だ!)


テオは立ち塞がるルカを見つめた。分からない人間だ。振る舞いからして性格が捻くれていることだけは確かだが、その実力も、価値観も掴めない。何を考えているのか、つい知りたくなってしまったのだ。


しかしテオは頭を振り、瞬時に雑念を払った。


相手を知るのは後でいい。それよりも今である。今勝たなければ、今後プライドを取り返す機会は二度とないだろう。その確信が、テオの背中を押したのだ。


「それでは……始め!」


両者の視線が交差した時、ルカは前に飛び出した。待ち受けるテオは、剣を握る手に力を込めた。

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