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十、勤務評価

「ルミィ、もうすぐ時間よ、起きなさい。今日は新人冒険者の指導員の仕事があるんでしょう?」


アリネーのあの優しい声……とても心地いい……。


「ルミィ?」


「ん……んん……?」


あ……そうだ、昨日はアリネーの部屋で寝たんだった……。なんだか、記憶が少しぼんやりしている……。何かが起きたような、でも……何も起きなかったような?


「どうしたの? よく眠れなかった?」


あれ? あ、思い出してきた……。んん……細かいことは忘れることにしよう……。結果的に無事だったんだし……。


でも……もしあの『夢遊病』のアリネーが本当の姿なのだとしたら……お兄ちゃんが帰ってきたら大変なことになるわ。あらら、これは本当に厄介なことになりそう……。私ももっと気合を入れなきゃ……。





「それでは皆様、行ってまいります」


「ええ、気をつけてね」


いつものように朝食を済ませ、領主邸からギルドへと向かった。『フローラ』ギルドの『新人冒険者支援計画』の指導員を務める初日。やはり少し緊張する。


けれど、この初仕事は一筋縄ではいかない。なぜなら……。


「おはよう! ルミナスちゃん!」


「おはようございます!ニーラさん! ……はは……おはようございます……フェニャさん」


「……」


はぁ……本当に礼儀のなっていない先輩。私はこんな悪い見本、絶対に真似しませんからね。


一級神官ニーラ、一級神官フェニャ。中央聖教会から私の仕事ぶりを視察しに来た二人の先輩だ。今日も私の仕事を見学すると言っている。……もし、もしパフォーマンスが悪いなんて判断されたら、中央に呼び戻されるんじゃ!? 嫌よ! 私、たとえ聖教会を脱退してでも帰りたくないわ!


私は、冒険者『流星』が最近休暇中であることを伝え、今日の仕事は一般的な冒険任務ではなく『新人冒険者支援計画』の指導員であること、そして同行できるかどうかはギルドの判断次第だと告げた。


「ヘレンさん、かくかくしかじかな理由で、今日はその……」


私はギルドのヘレンさんに、彼女たちの事情を正直に説明した。


「なるほど。神官様方、これがあなた方の公務であることは理解いたしました。ですが、ルミナスさんの今日の任務は新人冒険者の世話であり、命に関わる仕事です。本来、部外者の見学は許可されておりません。ですが、どうしても同行されるというのであれば、一つの優先条件を守っていただきます」


「チッ、何よ? 言ってみなさい」


チッ? 本当に失礼な人。


「お二人の神官様は、あくまで同行するだけの一般人として扱います。支援対象ではありませんので、必要があればご自身で戦って身を守ってください。そしてルミナスさん、あなたはギルド職員としての責任を自覚してください。支援対象である受講生の安全確保を最優先とし、万が一の取捨選択を迫られる局面では、友人ではなく――受講生――の権利を保障しなければなりません。」


わぁ……格好いい。責任、痛いほど理解しました! これは先輩たちも諦めるのが正解じゃないかしら……。


「問題ないわ。自分の身くらい自分で守れる。」


えっ?フェニャさん!? あっさりと承諾した?


「じゃあお願いね!フェニャさん!」


「うるさいわよニーラ。戦闘のことは全部私に任せておきなさい」


え? 戦闘?


「ニーラさん……私、何か知らないことがあるんでしょうか……フェニャさんについて……」


「あら? ああ! 知らなかったの?フェニャさんも昔、外勤神官の冒険者だったのよ! しかも支援兼アタッカーだったんだから。新人の付き添いで浅い層の迷宮へ行くだけなら、何の心配もいらないわ!」


「あ、あはは……そ、そうだったんですね……」


ああっ! 失敗した!ヘレンさんの言葉でも彼女たちを追い返せなかった!


「ついでに言っておくけれど、私は実力でDランクからCランクまで這い上がった支援系冒険者よ。棚ぼたでBランクをもらったあんたとは違うのよ、ルミナス」


「わ、分かりました……」


これ……まずいわ。彼女たちがいたら、私の奇跡を全力で放てない……。それに祈祷の問題もあるわ。私の奇跡が祈祷なしだってバレたら、中央に知られて大問題になる……どうしよう……。というか……正式な祈祷文なんて忘れちゃったわよ……。それなら……。


「あの、ヘレンさん。お二人があまり近くにいると、受講生たちに影響が出てしまうのではないでしょうか……」


「ご指摘ありがとうございます。神官様方、どうか ルミナスさんから二十メートル以上離れて見学してください」


「二十メートル? まあ、いいわよね、フェニャさん?」


「ええ、妥当な距離ね。問題ないわ、それでいきましょう」


ヘレンさん、ナイス! これなら『声を潜めて唱えているだけです』というフリをして、祈祷しているフリができる!


「では……ルミナスさん。今日が初日ではありますが、お伝えしておかなければならないことがあります。本日の支援計画の枠はすでに埋まっております。全部で六名です」


「六名、ですか?」


「はい。人手不足のため、ずっと新人冒険者が待機リストに並んでおりました。今日、あなたが来てくださるということで、すぐに定員が埋まったのです」


ああ……それは仕方ないわね。人数が多いのは、それはそれでメリットもあるし。


「問題ありません!」





『東の森』浅層。


「遭遇戦!戦闘開始!みんな、気合を入れて!」


「はい!」


一同が声を揃えて応じる!


「敵魔物『ウッドジャッカル』!計8体!視認できるのは5!スカウト!残りの3体を見つけ出してください!」


「索敵中……左前方、草むらに注意!2体!それと……外周に1体!迂回して接近中!現在位置、真右です!」


このアーチャーのスカウト、筋がいいわね。


「前衛はまず固守、包囲網に入らないで!フェンサーは右からの奇襲に対応。アーチャー!正面右の個体に一射、誘い込んで!」


「了解!」


「メイジ!ファイアボールの詠唱を!左前方の草むら、見えますか?魔法で草むらの左側を叩いて!伏兵を炙り出すのよ!」


「わかりました!」


メイジが詠唱を始める。アーチャーの矢は一番右の魔物に回避され、後ろ足をかすめるに留まったけれど、問題ないわ。その個体は単独でこちらに突っ込んできた。


「右翼!迎撃!」


「おおおおお!」


前衛右翼の盾剣士がスキルを発動し、前進して迎え撃つ!


「『ファイアボール』!」


メイジの火球が味方を避けるように軌道を描き、一番左の草むらへ着弾した!


ドォォォン!!!


二体の魔物が右方へ逃げ出すが、左側の個体は進路を塞がれたせいで反応が遅れ、その場で絶命した!


「真右、交戦中!」


先ほど向かわせたフェンサーも外周の個体と接触したわね。それなら……。


「敵の伏兵は崩れました。タンクは前方の群れを足止め、左翼はタンクを支援!」


「はい!」


「アーチャーは右翼の挟撃を援護、最速で撃破して!そのあと合流!」


「了解!」


「メイジ、次の火球を準備。敵の後衛を狙って待機、できるかしら?」


「やれます!」


グルゥゥ……。


「外周の一個体、撃破!合流します!」


フェンサーの実力もなかなかのものね!確実に隙を突いてくれたわ。


「右翼、一個体撃破!」


「よし!メイジの攻撃を合図に、右翼は前進して包囲を!」


「『火球術(ファイアボール)』!」


メイジの火球が魔物の後衛に炸裂し、二体が負傷した!


「おらぁぁぁ!!!」


全員が一斉に踏み込み、魔物を包囲した!右翼の戦士二人も話が早いわね!真っ先に手負いの二体を仕留めてくれたわ。


これで、戦闘はほぼ終わりね。





「戦闘終了!みんなお疲れ様!負傷の報告を!」


「うおおおおお!」


みんな、喜びのあまり大声で歓声を上げた。見たところ負傷者はいないわね、上出来よ。


「戦士三人は魔晶石の回収をお願い。他の人は先に休んで。メイジは今のうちに瞑想を」


「問題ありません!」





「わぁ……すごい……。最初にウッドジャッカルが5体見えた時は正直ビビったけど、あんな数と戦うのは初めてだ。今まではすぐ逃げてたから」


「伏兵が3体もいたなんて。先生が教えてくれなきゃ危なかったよ!」


「先生、すごすぎますよ。神官なのに、スカウトの俺より索敵能力が高いなんて。最初に総数を把握してたじゃないですか!流石はBランク冒険者だ!」


「そうだよ!さっきの指揮!反応が早すぎじゃない!?こっちが状況を確認する前に、もう指示が飛んできてたもの!」


「本当だよな!8体相手に誰も怪我してないなんて。全部先生が伏兵と包囲を打破してくれたおかげだ!」


「今日初めて会った臨時パーティーなのに、こんなにうまく連携できるなんて思わなかった。先生の指揮のおかげです!正確で効果的で、無駄がなくて分かりやすい!」


『東の森』に入ってから、この臨時パーティーは何度か小規模な戦闘を繰り返し、お互いの実力を把握し始めていた。だからこそ、先ほどの群れにも挑戦させたのだ。


「皆さんお疲れ様。今の戦闘は、みんなが自分の実力をしっかり発揮できたからこそ、これだけ鮮やかに勝てたのよ。パーティーを組む時は、こうしてお互いを助け合い、単独の実力以上の力を出すことが大切なの」


「それもこれも、先生の指導が適切だからです!」


さっきのフェンサーの女の子……確かに、個人技のレベルが一番高いわね。


「けれど、戦闘に勝ったからといって満足せず、今の状況をしっかり振り返って自分の経験に繋げることが大事よ。さて……今の戦いで何か印象に残ったことはあるかしら?」


「はい!僕、あります!」


メイジの男の子だ。


「ええ、言ってみて」


「先生が側面から攻撃しろって指示してくれたおかげで、魔物の左側を封じることができました。逃げ場を失った一体をそのまま仕留められたんです」


「それだけじゃないぜ。俺は見てた。あの火球が左から飛んできたから、右に逃げた一人が元々いた前の4体と重なって、動きを制限されてたんだ。もしあれが真ん中や右からの攻撃だったら、逃げたやつは俺たちの左側に回って、逆に包囲されてたと思う」


左翼の剣士もなかなか鋭いわね。


「よく気づいたわね。戦況に合わせて攻撃を調整すれば、より多くの優位を作り出すことができるのよ」


「先生!私、私、さっき……」


彼らは次々と、今の戦闘で得た気づきを発表し始めた。ええ!いいわね、みんな勉強熱心で教え甲斐のある子たち……じゃないわ、見た目からして私より年上みたいだけど。あはは、まあいいわ、役に立てればそれで。


「先生、さっき……」


「どうしたの?声を潜めて聞けば、あそこにいる二人には聞こえないわよ」


そう、最初にあの二人のことは、別の組織から派遣された『産業スパイ』みたいなものだって説明しておいたの。ごめんなさいねニーラさん、こう言った方が分かりやすかったから。悪気はないのよ。


「さっき……右側で単独で魔物と戦っていた時……一瞬、魔物が光の壁みたいなものにぶつかって隙ができたんです。それでそのまま仕留めたんですけど……私の見間違いでしょうか?」


「ううん、見間違いじゃないわよ。心配しないで、あれは私の防御奇跡……。ごくごくごく基本的な防壁よ」


「あれを攻撃の起点に使えるんですか? 戦闘の最中に?」


「そこには私の専属テクニックが詰まっているの。そんなに驚かないで」


「ふむふむ……わかりました。ありがとうございます、先生!」





ギルドの大ホールは、迷宮探索から戻った冒険者パーティーでごった返し、人々がせわしなく行き交っている。


受付嬢たちは目が回るほどの忙しさだけれど、私はギルドのスタッフですからね。当然、優先的に手続きしてもらえるのだ。


「さて、今日は皆さんお疲れ様でした。報酬の分配は済みましたか? 問題がなければ、今日の臨時パーティーはこれにて解散となります」


「バッチリです! 先生、改めてご指導ありがとうございました!」


私たちは『東の森』の浅層外周で一日中魔物を狩り続け、浅層の奥深く、難易度が上がるエリアの直前まで到達した。けれど、安全を期して、あえて難易度の低い区域に留まることにしたのだ。それでも、六人のパーティーというのは違うわね。たとえEランクの新人冒険者ばかりでも、組織的に動けば戦力は決して低くない。


ギルドへ戻る道中も、私は彼ら一人ひとりに注意すべき点――些細な癖から戦場での意識の持ち方まで――を言い含めておいた。彼らがしっかり成長してくれることを願って。


「チームの戦力と個人の戦力は全くの別物だと忘れないで。今日の成功で調子に乗っちゃダメですよ。とにかく、迷宮に入る時はちゃんとパーティーを組んでからにすること!」


「了解です!」


うぅ――! 最高に気持ちいいわ! 今日は『新人指導員』という立場のおかげで、みんなが凄まじく素直だった! 前に組んだ野良パーティーとは大違い! 私、この仕事がどんどん好きになってきちゃった。


「それでは! 皆さんの冒険者生活に幸多からんことを! 必要があれば、また『新人支援計画』に申し込んでくださいね! 解散!」


「おおっ!」


彼らは三々五々散っていった。見れば、二つのグループに分かれて食事に向かったようだ。そのままパーティーを結成するのも悪くないわね。


「コホン……」


来たわね。『二十メートルの距離』という条件は解除だ。


「ルミナスちゃん! この数ヶ月で一体何があったの!? あなた、本当に私たちの知っているルミナスちゃん? 一日中我慢して、もう気になって死にそうだったんだから!」


「え?ニーラさん……我慢って、何を……ですか?」


おトイレならロビーの右側から外に出ればありますけど……。


「好奇心に決まってるじゃない! どうやってあんな指揮を覚えたの? あなた、どこかの老練な戦場指揮官か何かなの?」


「あ……そっちのことでしたか」


そりゃあそうですよ。私の師匠は『戦闘狂』のお兄ちゃんで、そのお兄ちゃんの師匠は『鬼教官』のアリネーなんですから。


「勉強ですよ! 私は毎日しっかり知識を詰め込んでいるんです! 『八大種族』の種族特性だって完璧に暗記していますし! それに実戦経験……例の『流星』と組んでいる時も、私はちゃんと学んでいたんですよ!」


「それだけで、あそこまで?」


「も、もちろんです! 私、すごく努力したんですから!」


まだ疑う気? だからこの年増女は……。


「……分かったわ」


え?


「『神官ルミナスは、この数ヶ月で外勤冒険者としての職務を完全に遂行できるまでに成長した』……そう報告しましょう、ニーラ。いいわね?」


「えええっ?」


「もちろんよ! だって事実なんだもの!」


「ほ、本当ですか?」


ま、まさか!?フェニャさんって、実はいい人だったりするの?


「正当に評価して報告するわ。中央もあなたの業績がさらに向上することを期待するでしょうね――ふふっ、頑張りなさい」


結局最後は業績なの!? 前言撤回! この恩知らず! 心のねじ曲がった年増女め! まだ冷笑してるわ!


「ええ!フェニャさんの言う通りよ! ルミナスちゃん、その才能を存分に発揮して、中央に貢献しなきゃね!」


ニーラさんまでそんなことを!? 二人とも結局はグルなんですね! ……まあ、考えてみればグルに決まっているけれど……。同じ一級神官で、中央の人間なんだから! 私が甘かったわ!


「そ、それでは……そういうことなら、明日はお二人ともゆっくり休んでくださいね! お疲れ様でした!」


「何を言っているの、ルミナスちゃん?」


「え? ですから……私の仕事ぶりは十分分かったでしょうし、明日は見学しなくていいですよね?」


「あら? 自分でも忘れたの? あなた、明日は新人指導員じゃないでしょう?」


ニーラさん? あなた……どうしてそれを?


「えっ? あ、ああ……!」


当番表だ! 掲示板に貼ってあった新人指導員の当番表を見たんだわ! あぁ! どうして気づかなかったのかしら! たった一枚の貼り紙に敗北するなんて!


「それで、明日の ルミナスちゃんの予定は?」


……まあ、別に構わないわ。元々彼女たちに知られてもいいように準備していたことだし。


「あはは、ぼんやりしていました。明日は伯爵様の学校へ行って授業を行うんです。ボランティア活動ですよ!」


「ボランティア?」


「そうですよ! 何かおかしいですか?」


着眼点はそこ? この年増女、また何なの? まさかまたお金の問題? どこまで守銭奴なのよ。


「何でもないわ。場所を教えなさい」





お父様の学校に到着し、二人と合流してから校長先生のところへ挨拶に向かった。校長先生は彼女たちがオリシウス中央聖教会の第一級神官だと知ると、それはもう恐縮して、何の疑いもなく授業への同行を許可してくれた。まあ、中央聖教会の外部公共奉仕は有名だし、校長先生も「教育に関することなら彼女たちはプロに違いない」と思ったんでしょうね。


そうして、私はクラスの子供たちに彼女たちを紹介し始めた。


「皆さん、今日はゲストが来ていますよ。名高い『オリシウス中央聖教会』の第一級神官様たちです! 今日は皆さんの授業を見学して、後で勉強も手伝ってくれますよ! さあ、元気に挨拶しましょう~」


「ゲ──ス──ト──さ──ん、こ──ん──に──ち──は──!」


(わぁ……右側のおばさん見てよ、怖い。表情がすっごく凶悪だよ!)


(本当だ! あれでも神官なの? 殺し屋の間違いじゃない?)


みんな、見る目があるわね! その通りよ!


(左側のお姉さんは違うよ! 笑顔がすっごく可愛い!)


そうでしょう!ニーラさんはとっても親しみやすいんだから!


(うんうん、胸もすっごく大きいし!)


ちょっと、またあんたね、ガキんちょ! 朝から晩まで胸、胸って!


「座りなさい!」


「ええと……それじゃあ、今日の授業を始めますよ……」


そんなわけで、授業はいつも通りに進んだ。子供たちは相変わらず元気いっぱいで、先輩二人が見ていようが、案外どうってことはなかった。教えているうちに、彼女たちの存在すら忘れてしまったくらいだ。


演習の時間になると、二人は私の誘いに応じて子供たちの中に入り、個別指導を手伝ってくれた。


ニーラさんは子供たちに大人気で、相変わらずの腰の低さであっという間に子供たちの心を掴んでいた。


フェニャさんはてっきり横で微動だにせず座っているだけかと思っていたけれど、意外にも自分から子供たちに歩み寄る場面もあった。……歩み寄る、というか。顔は相変わらず冷徹そのものだったけれど。でも、わざとなのかしら。彼女、あの「おっぱい小僧」をずっと凄まじい威圧感で抑え込んでいたわ……。ふふっ、運が悪かったわね、おっぱい小僧。


そうして……休み時間を挟み、次の授業も終わり、子供たちは放課後の家路へとついていった。


思いのほか、今日は順調だったわ。


「ルミナスちゃん、冒険者の仕事だけじゃなくて、先生としても様になっているじゃない! かなり努力したんでしょう?」


「あはは、恐縮です。ありがとうございます、ニーラさん。確かに、色々と工夫は凝らしました」


「フェニャさんも、ルミナスちゃんの働きぶり、素晴らしいと思ったでしょう?」


「能力はあるわ。だが問題は――貴様が『ここ』で教師をしていることだ」


問題?


「ええと……それ、どういう意味でしょうか、フェニャ様? これも立派な……公益活動ですよね?」


「教師をしていることが問題なのではない。『ここ』でしていることが問題なのだ。学校なら、我が聖教会の名の下に運営されている場所が各地にある。聖教会の神官でありながら、伯爵の名義の下で義教を行うのは、不適切だ」


「名義……ですか? そんなに大きな違いがあるんですか? どちらも『公益活動』ですし……誰かを助けることに変わりはないでしょう?」


「どこが同じだ? 聞いていなかったのか。貴様は聖教会の神官だ。貴様の労働時間は一分一秒たりとも聖教会のためのものであるべきだ。そんな簡単なことも分からんのか」


「私……冒険者の仕事もしっかりこなしています! それに……それに! 業績だって期待以上でしょう!? 労働時間というなら……子供たちの週末は休みですし、わ、私、週末にもっと頑張りますから!」


「ルミナスちゃん。これは業績の問題でも、時間の使い方の問題でもないのよ」


ニーラさん? あなたまでそんなことを言うんですか?


「じゃあ! 何が問題なんですか!?」


「チッ。貴様の立場の問題だ」


「立場? 何が問題なんですか」


「あらゆる善行は、オリシウスの名の下にあるべきだ。中央聖教会の神官でありながら、その自覚がないのか?」


自覚? また自覚って……。


「フェニャ様。もうはっきり言ってください。私はどうすれば、あなたを満足させられるんですか?」


「ルミナスちゃん。フェニャさんの言うことは間違っていないし、あなたをいじめようとしているわけでもないの。私から説明させて。すべての善行はオリシウスの名の下に行われなければならない。オリシウスの教義に基づかない『善』は方向を見失い、人々を無条件の恩恵の中に迷わせることになる……」


「……だから、聖教会の……特に『中央』出身の神官であればなおさら、善行と教義を共に行かせる自覚が必要なのだ。具体的に言えば、『聖教会』の公益機関の下で善をなし、我々のしていることが『オリシウス聖教会』の善行であると世に知らしめなければならない」


『オリシウス聖教会』の善行……。彼女たちの言いたいことが、ようやく分かってきたわ。


「分かりました。今後は聖教会の神官服を着て教壇に立ちます。たとえ伯爵様の学校であっても、『オリシウス聖教会』の名義で教えますし、毎回子供たちに『オリシウス聖教会』の教義を話す時間を作ります。これでいいですよね?」


「あら? そういうこと? それなら良さそうね! どうかしら、フェニャさん?」


「……」


くっ。なら、とっておきの切り札を出すしかないわね。


「もしそれでもダメだと言うなら、私は教師を辞めます。伯爵様のお宅にも……申し訳なくてこれ以上はお世話になれません。宿屋にでも引っ越しますね」


「貴様……! ……ふん、いいだろう、それで手を打つ。聖教会の神官服を着用し、教義を宣教する時間を作ること。そして……伯爵の邸宅にはそのまま留まれ」


やっぱりそう来た!


「本当ですか! やったぁ! ありがとうございます、フェニャさん! 私、頑張りますね!」


ふん! 私の凄さを思い知ったかしら!


「さて、我々にこれ以上の用はないわ。ニーラ、明日の朝に出発する。今日の残りの時間は別々に自由行動にしましょう。また夜に」


「あ、ええ、分かったわ! また夜にね」


そう言い残すと、あの年……あのフェニャさんは一人で立ち去ってしまった。


その後、私はニーラさんと街をあちこち歩き回り、晩ご飯も一緒に食べて、楽しく旧交を温めた。けれど、私たちはもう一度も、学校の話題を口にすることはなかった。



そして翌日、二人は王都へと帰っていった。まあ……。


結果オーライってことで! イェーイ! 自由の空気だわ! 神官服なんて、冒険者をする時だけ着ればいいのよ! ははは!



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