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狐さんと行く歴史探索  作者: 貝石箱
中二、最強説ホラー

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45/48

45.島根合宿、一日目~二日目――封印の歴史


 現れたのは、懐中電灯ではなく、本物の『松明たいまつ』を掲げた尼子先生だった。

 その後ろには、異変に気づいて駆けつけた熊谷君、武田さん、そして住吉さんの姿もある。

「久恵ねーちゃん!」


「山田、下がってろ。……まったく、じいちゃんの警告を無視して騒ぐからこういうことになる」


 尼子先生は松明を大きく振りかざすと、何やら古い祝詞のようなものを口走った。

 松明の炎が青白く燃え上がり、影を押し返していく。


「去れ! この者たちは我らが教育しつけし直す! 鎮まりたまえ、月影の守護者よ!」


 凄まじい衝撃波が走り、僕たちは目を閉じた。

 再び目を開けたときには、もう巨大な影はいなかった。

 あるのは、ちぎれた注連縄と、気絶して失禁している大学生の男、そしてガタガタと震えながら座り込む仲間たちだけだった。


「……助かった、のか?」


 大学生が恐る恐る口を開く。


「ええ。でも、これで終わりじゃないわよ」


 尼子先生は冷ややかな目で大学生たちを見下ろした。


「あんたたち、明日の朝一番で、じいちゃんと一緒に境内の全清掃と、本殿の修繕を手伝ってもらうからね。逃げようと思わないこと。この土地の神様は、逃げた奴をどこまでも追いかけるから」


 大学生たちは、幽霊を見た時以上に青ざめた顔で「はい……っ!」と平伏した。


 帰り道。

 僕たちは、ぐったりとした大学生たちを尼子先生に任せ、先に旅館へ戻ることになった。

 月明かりが、静かになった参道を照らしている。


「……なんか、合宿初日からとんでもないことになったね」


 住吉さんが僕の隣を歩きながら、ぽつりと呟いた。


「でも、山田くん。さっき、真っ先に助けに行こうとしたの、かっこよかったよ」

「え、あ……。いや、無意識っていうか」


 照れて頭をかく僕を、毛利さんが横から小突く。


「ふーん、ヒーロー気取り? まあ、一理あるわね。でも次は、私を置いていかないこと。いい?」

「……了解、」


 僕たちは笑い合い、古びた旅館へと続く坂道を下っていった。

 島根の合宿は、まだ始まったばかり。歴史探索部の明日は、今日よりももっと騒がしくなりそうだ。


 ……あっ、そういえば僕、さっき、大学生のお兄さんのことをバカって言ったんだよな。後で仕返しとかされないかな? 念のため今日はもう旅館の部屋から一歩も出ないでおこう。


 項の心配をよそに、島根の夜は更けていくのだった。


 ***



 翌朝、昨夜の騒動が嘘のように、島根の山は清々しい空気に包まれていた。

 大学生たちは、尼子先生のじいちゃん……月影館の主である尼子老人に連れられて、魂が抜けたような顔で境内の掃除へと向かっていった。



 朝食後、囲炉裏のある広間に集められた僕たちに、尼子先生が『尼子氏』の当代当主なのだと告げられた。


「さて、お前ら。昨夜の件で、少しはこの土地の『重み』が分かっただろう」

 尼子先生が真剣な面持ちで切り出した。


 隣には、毛利さんの祖父にあたる尼子老人も座っている。尼子と毛利。戦国時代なら覇権を争った宿敵同士の名字が、こうして一つの卓を囲んでいる光景は、歴史探索部の部員としては奇妙な興奮を覚えるものだった。


「先生、さっきから気になってたんですけど……」


 部長の毛利さんが、壁に掛けられた一枚の古びた地図を指差した。


「この旅館の周辺、地図で見ると不自然に空白地帯がありますよね。昨日の神社よりもさらに奥、月影山の裏側……」


 尼子老人が、ゆっくりと煙管キセルを置いた。


「……鋭いな、六花。そこはな、尼子と毛利が『手を取り合った』唯一の場所と言われとる」

「手を取り合った? 尼子経久と毛利元就が!? そんな記録、どの史料にも……」

「表の歴史には残らんよ。ここは『隠し里』だったからな」


 尼子老人が語ったのは、戦国時代の異聞だった。


 かつてこの地には、どちらの陣営にも属さず、ある『異形の力』を封印し続けてきた一族がいた。しかし、戦火がその里を飲み込もうとした時、尼子と毛利は一時的な休戦協定を結び、共同でその力を「山の深淵」へと再度封じ込めたのだという。


「昨夜、拝殿に出たあの影。あれは、その封印が弱まっている証拠かもしれん」


 老人の言葉に、場が凍りつく。


 尼子先生は苦笑混じりに僕たちを見遣った。


「本当は生徒を巻き込みたくはなかったんだが、お前たちは一度『向こう側の世界』を見て、生還している。この土地が呼んだのかもしれない」


 先生は居住まいを正し、教え子である僕たちに深く頭を下げた。


「今夜、月影山の裏にある石碑に向かい、封印の補強を行う。これは、この土地を守るための重要な儀式だ。この儀式に、君たちの力を貸してほしい。勿論、君らに参加する義務はないし、危険を伴うことに生徒を巻き込もうとしている私は、教師としては失格だと思う…………だが、どうか頼む!」


 尼子の当主としての姿と、教え子を案じる教師の顔。両方に突き動かされて、僕たち『歴史探索部』の中に断る者は一人もいなかった。



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