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狐さんと行く歴史探索  作者: 貝石箱
中二、最強説ホラー

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40/43

40.八剣祭祀⑤ーー陣羽織の戦い!


……これは、一体どうゆう…………あっ、そうか! こいつ、後ろの川 ((よど)み)と繋がっているんだ。あれを何とかすれば良いんだ。


 打開策が見えた途端、僕の中の「山田」が別の欲望を拾い上げた。視線の先には、後方で優雅に弓を構える毛利さん――いや、輝元さん。その背でひらりと翻る、あの最高級の『黄天鵞絨地桐紋付陣羽織』。


 この絶体絶命のピンチ。でも、今言わなきゃ、あの豪華な羽織は戦いの汚れで台無しになるか、消えてしまうかもしれない!


「毛利さんッ!!」


 僕は巨人の振り下ろす拳をハナコパワーの裏拳で弾き飛ばしながら叫んだ。


「その陣羽織! この戦いが終わったら、僕にも一度着させてくださいッ!!」


 戦場に一瞬、微妙な沈黙が流れた。

 大太刀を構え直していた熊谷君が「……は?」と素っ頓狂な声を上げ、巨大な化物の動きさえ、庄屋の息子の困惑を反映したのか、わずかに鈍る。

 後方で弓を引き絞っていた毛利さんは、一瞬だけ呆気に取られたように目を丸くしたが、すぐに「ふふっ」と、だらしない……いや、不敵な笑みを浮かべた。


「良いだろう! この『輝元』、美しいものと称賛を解する者は嫌いではない! ただし……無傷で戻らねば、貸してはやらぬぞ!」

「約束ですよッ!!」


 僕のモチベーションは最高潮だ。

 僕はニヤリと笑うと、隣の熊谷君に視線を送る。


「熊谷君! あのデカブツの足元、供給路をぶった斬れる!?」

「……お前、この状況でよくそんなことが言えるな。だが、分かった! 道は作る、お前はそのまま上へ飛べ!」


 僕は土手の斜面を強く蹴り、巨大な化物の頭上へと跳躍した。


「狐さん、力を貸して!」

『ククッ……まったく欲に忠実というか、なんというか……だが、よかろう、その「報酬」のために、全力をたたき込め!』


 下では、熊谷君の放った一撃が、化物の足元と街を繋ぐ黒い水の流れを断ち切ろうとしていた。


「絶対に汚さない、絶対に手に入れる!」


 その強欲な執着が、僕の脳内で「ハナコモード」の演算をバグらせた。

 空中で体を捻り、落下速度にハナコパワーを乗せる。

 けれど、普通に殴ればまたあの冷たい泥水に腕を突っ込むだけだ。それじゃだめだ。無傷で戻ると約束したんだ。侍たちの返り血(水だけど)や泥で汚れてしまうわけにはいかない!


「吸い込め……全部、吸い込んで、消えてなくなれぇぇッ!!」


 その瞬間、僕の右拳に宿っていた白い光が、まるでブラックホールのような「渦」へと変貌した。

 狐さんの力が、僕の「汚したくない」という極限の潔癖心(物欲)に反応し、浄化の力を『吸引と圧縮』に特化させたのだ。


「新技! ハナコ・バキューム・パンチ!!」

「……名前、ダサッ!?」


 熊谷君の鋭いツッコミが聞こえた気がしたが、構うもんか!

 僕の拳が巨人の化物の眉間に触れた瞬間、ズズズッ!と凄まじい吸引音が響いた。


 化物を形成していた数トンはあるだろう黒い水が、僕の拳一点に向かって濁流のように吸い込まれていく。

 それはまるで、お風呂の栓を抜いた時のようだった。

 巨人の巨体が、僕の小さな拳の中にドンドン凝縮され、純白の光に包まれて無害な「ただの霧」へと分解されていく。

 足元の供給路を熊谷君に断たれ、本体を僕に吸い込まれた化物は、悲鳴を上げる間もなく霧散した。

 衝撃波が土手の空気を震わせ、舞い上がった霧が月光に反射してキラキラと戦場を彩る。


 着地した僕の目の前には、尻餅をついた庄屋の息子が呆然と座り込んでいた。


 後ろを振り返ると、そこには霧の中に立つ、一点の汚れもない『黄天鵞絨』を纏った毛利さんの姿。


「毛利さん! 見ててくれた!? 無傷で戻ったよ! さあ、約束の陣羽織を!!」


 僕は、目を爛々と輝かせて毛利さんに詰め寄っていく。


「お、おい山田、まだ敵の親玉が目の前に……」


 熊谷君の呆れ顔をスルーして、僕は陣羽織に手を伸ばす。


「ま、待って! 近い、近いって山田君、ちょっと……近いぞ山田! くるしゅうない……ケド、近すぎだよぉ!」


 詰め寄る僕の勢いに、さしもの毛利(輝元)さんも一歩後ずさった。

 あのだらしない……もとい、優雅な笑みが少し引きつっている。


「ねぇ、山田君。貸すのは別に良いんだけど、約束だし……でもこれ、今は実体化しているように見えるけど、私から離れると消えちゃうかもしれないんだね。だから、こうしよう!」


 毛利さんはバッと扇子を広げると、僕の肩をガシッと抱き寄せた。


「こうやって、二人一緒に羽織れば、ほらっ、消えない!」


 最高級の天鵞絨 (びろうど)が、僕の肩を包み込む。

……ふわぁぁ、柔らかい。そして、なんだか歴史の重みというか、成金的なゴージャスな匂いがする! 幸せだ。


「……おい。お前ら、何やってんだ。敵を、見ろ」


 熊谷君の声に、僕と毛利さんは「あ」と同時に視線を前方へ戻した。




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