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ジュリアのいつもより甘い朝 72

 アイアン大公が斬首というのは——少し衝撃だったけど。

 でも……ルーランの事や、国王様のことを思えば、彼の罪は決して軽くないものね。


 何度も殺されかかったり、一番安全が必要な幼い時間を不安のまま過ごさなくちゃならなかったり。国王様だって、自分だけじゃない。息子を思えば、胸が潰れそうになるくらい不安な日々を送ってたろうから。


 私はシャインさんの紅茶をセットしながら、ロザリー妃のことをボンヤリと思う。彼女は、スノー妃になりたかったのかもしれない。


 ——でも。


「人は自分以外になれないもんね」


 私は改めてビビに強く感謝してしまう。

 彼女が私を大切にして、大切なことを教えてくれたから。


 ——だから。

 私はこんな私でも自分が好きでいられるんだものね。


 シャインさんのお部屋に入った私は——もう一人、私が自分を大好きになれるキッカケをくれた人を見つめる。


 椅子の上にボンヤリ座って、私を見てヘニャッって笑った、大好きな人。


「おはようございます」

「おはよう」


 私はカーテンを開けて、すっかり葉を落とした庭の木々を眺めた。


「秋も深くなって来ましたね。冬も近いのかな?」

「……そうだね」


 熱い紅茶を渡すと、彼は笑って足を下ろし、ポンポンと膝を叩いた。


「おいで、ジュリア」

「……私は猫でしょうか」


 それでも、私は黙って引っ張っられて膝に座った。

 彼の膝に足を広げて座って、対面でその笑顔を見ると胸が熱くなってくる。


 シャインさんは私を片手で抱いて、肩に顎を乗せた。


「冬になってもね。君がこうしてくれれば暖かい」

「やっぱり、猫扱いでしょうか?」


 彼は笑って深い口づけをした。

 体の芯が熱くなってき、少し身じろいでしまう。

 背中に回された手に力が入って、私が逃げないように抑える。


 淡い瞳が私を見つめて、優しい色を浮かべた。


「猫に、こういうキスするのかな?」

「……シャインさんなら、しかねないかな」


 彼はクククッと喉で笑って、私を捕まえたままカップに口をつけて紅茶を啜る。


 ——気が抜けてるシャインさんを見てると、あの事件は終わったんだなって思えた。


 私は彼の膝で彼を見つめて、少し引っかかってた事を聞いてみる。


「ねぇ、シャインさん。大公は——どうして陛下の寝所へ入れたんでしょう。あそこはノワール様の結界が張ってあったんじゃないんですか?」


 彼は紅茶を啜りながら、小さく息をついた。


「結界魔法っていうのもね、万能じゃないんだ。あれは壁とか、床とか、物を媒介にしてかける物質魔法の一種でね。囲った空間の中にまで及ぶものじゃない。僕も、兄貴も、アイアン大公が空間移動の魔法を使えるとは思ってなかった。隠してたんだろうね」


 ——でも。


「シャインさん。あの部屋へ何度も入ってますよね? 空間移動だって、魔法を使えば軌跡が残るんじゃないですか?」


 彼は片眉を上げて、面白そうに私を見る。


「どんな事でも過信は厳禁だよ。本当、今回は痛感した。僕は見える所しか見えないからね」


 私は彼の物言いが不思議で首を傾げる。


「あの、どういう意味ですか?」

「大公が使った魔法の軌跡はね。ベッドの下に残ってた」

「え? ベッド下に移動してたんですか? えっと、寝転んで?」

「その通り。盲点だったよな。くまなく探せば、国王の体調が悪かった理由にも早く気づけたんだろうけど」


 あの気位の高かそうな大公が——それは、私でも思いつかないなぁ。

 少しへこんでるシャインさんの髪を、私はゆっくり撫でた。


「間に合って、本当に良かったですね」

「ああ。これでルーランも少しは気楽に過ごせるかな?」


 彼は私の首を引き寄せて、猫にはしない口づけをする。


「で、ね。そのルーランに、小さくなって着られない服を沢山もらったんだけどね?」

「へ? ルーランのお古ですか?」

「うん。お古って言ったって、王太子の服だからね? 生地もいいし、縫製も立派だよ?」

「はぁ」

「いつ、着てもらえるのかな? まあ、脱がすのに着せるんだけど」

「!!」


 そういう事を、背中を撫でながら言うの止めて欲しいんだけど。


「え、あー。ね? そういうのは、妻になったらですよね?」

「もったいぶるんだね? もったいぶると、期待値が上がって何するか分かんないよ?」


 ——!!


「シャ、シャインさん。あの」


 太もも撫でるの止めて。

 ス、スカート捲れちゃうから!


「ちょっとだけ」

「ダ、ダメでしょ」


 彼はシーッと指を唇に当てて、カップをサイドテーブルに置くと、私の腰をガッチリと捕まえた。


「あ、あの」

「ほら、暴れない。捕まった魚みたいだよ?」

「だ、だって、あ。ちょ……シャ……」


 彼は耳に口を寄せて、私の体に触れながら嗤った。


「粋のいいうちに、さばいて食べちゃおかな」

「や……そ、そこ、止め」

「どこ?」

「………意地悪」

「もっと言ってくれ」


 嬉しそうに含み笑いをしたシャインさんが、私を両手で持ち上げて膝の上に乗せ直した。


 もう——遅刻したって知らないから。


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