マーカライトの独り言 73
俺は王太子の部屋を出て、シャインの執務室で文句を言っていた。
「なぁ、いい加減に仕事辞めたいんだけどな?」
「辞めてどうすんだよ。自分で側付きにしろって言ったんだろ」
「あん時は、その必要があったからだ。ついでに、お前は忘れてるかもしれないが、俺はお前の側付きにしろって言ったんだぞ?」
シャインは軽く首を竦める。
「僕の側付きはジュリアだ。間に合ってる」
「あれは嫁だろうが」
「嫁で、側付きで、相方だ」
「盛りすぎだろ」
「それだけ、有能なんだよ。僕の妻はね」
俺は思わず頭を抱える。
コイツとジュリアが結婚してから二年は経ってるぞ。
未だにメロメロってどうよ。
シャインは色の薄い目で俺を見る。
「それにさ、リュカオンがお前を気に入ってんだから諦めろ」
「……王太子が気に入ってるのは、俺の幻術だろ」
「同じことだ」
そりゃあな。
王太子が居ようが、居るまいが、俺は彼の幻を見せられるさ。
けど、その間は俺がサボれないだろうが。
「もっと、悠々自適な惰民の生活をさせろよ」
「それで食ってけるのか? もう公爵家はないんだし、財産も没収されたろ? お前はいいけどな、奥さんが困るだろ」
「………大丈夫…のはず」
そうなんだよな。
俺、嫁をもらっちまったんだ。
不覚だったよなぁ。
シャインが呆れたように俺を見る。
「彼女に苦労なんかさせてみろ、兄貴が取り返しに行くぞ」
「分かってるよ」
しかも、ノワールの側付きを嫁にしちまったんだよなぁ。
なんていうんかね。
魔が差した。
彼女が俺を——マークって呼ぶからさ。
そしたら、な。
家族にならないと。
「気持ち悪いから、ニヤニヤすんなよ」
「煩いな。ウチは新婚なんだよ」
「なら、真面目に働いて女房に甲斐性のあるとこ見せろよ」
その発言は少し胸に刺さる。
そういや、俺は結婚式も挙げてやってないしな。
シャインが面白そうに俺を見た。
「神官長が変わる前に、神前式でもするか?」
「お前、自分のとこがそうだったからって」
「安く上げる方法を知ってるぜ? 綺麗だろうな、メグの嫁入り姿は」
「………」
「ツリッチャキでさえ、結婚式は気合い入れてやったのにな」
「………」
「ジュリアが、そういうのは、女の子の夢って言ってたぞ?」
「………まぁ、そのウチな」
金が貯まったら。
うん。
絶対に。
シャインは呆れたように書類に目を落とす。
そこに、王太子が顔を出した。
「やっぱりここに居た。マーカーライトは僕の側付きなの? シャインさんの側付きなの?」
「なんの用だよ」
「あんたに用じゃないよ。シャインさん、ジュリアが来てる」
そう言ったリュカオンの横から、ジュリアがヒョコッと顔を出した。すっかり背が伸びたリュカオンの後ろにいると、ジュリアはスッポリ隠れてしまうらしい。ぜんぜん気づかなかった。
——相変わらず、可愛らしいことは認める。
ま、俺の嫁のほうが美人だけどな。
シャインが笑って手招きすると、彼女は嬉しそうに執務室に入って来た。
「あれ、お久しぶりです。マーカーライトさん」
「久しぶりだな。元気そうだ」
「お陰様で」
そう言いつつ、真っ直ぐにシャインの側へ行く。
まったく、この娘はブレないな。
「どうかしたの?」
「いえ……あの、報告が」
「急ぎで?」
「んん、まあ、そうですね」
「なに?」
彼女は俺とリュカオンへ視線をやって、困った顔になった。
先に察したのは、年下のリュカオンの方だ。
「じゃあ、行こうかマーカライト」
「どこへ?」
「どこへじゃないでしょ。僕ら仕事中なんだから」
引っ張られる形で廊下に出ると、リュカオンは人差し指を鼻に当て、黙ってろってポーズを取った。すぐに扉の向こうから、シャインの声が聞こえてくる。
——子供?
——本当かい?
ニッと笑ったリュカオンが、小さく行こうかって言う。
まあ、放っとくのが最善だよな。
「ジュリアに子供ができたら、モンテール家は大騒ぎだな」
俺がそう言ったら、リュカオンが嬉しそうに笑う。
「まあ、そうだね」
「ナイン家もだろーな」
ツリッチャキの所に生まれた時は、赤鬼がお祭り騒ぎを起こしてたもんな。
リュカオンは面白そうに俺を見た。
「で? マーカーライトの所はまだ?」
「だから、ウチは新婚だから」
「そう言ったって、半年以上は経ってない?」
「……経ってるけどさ。新婚だろ?」
そんな話をしてたら、ポンと肩を叩かれた。
「サボりか、マーカライト」
「ノワール。いやそれが——」
ジュリアとシャインの事を話そうとしたら、リュカオンに脛を蹴られた。
「痛っ、何す」
じろりと睨まれる。
最近、リュカオンも王太子の迫力ってのが出て来たか?
「何でもないですよ。すぐ戻ります」
不思議そうなノワールを残し、リュカオンが俺の腕を引っ張る。
「なんで言おうとすんの? ああ言うことは本人たちが話すもんだよ」
「え、あ……そうか」
そう言われれば、確かに、その方が嬉しいかもな。
コイツ、いつの間にか成長したなぁ。
「じゃ、僕は国王の部屋に寄ってく。シャインさんの邪魔しないようにね」
「あのなぁ」
リュカオンは笑って廊下を曲がって行った。
俺は一人で執務室へ向かいながら、二人への祝いを考える。
結婚の時には絵を贈った。
ジュリアとシャインへ一枚づつ、お互いの絵を。
今度は——。
「家族の絵でも描いてやるかな」
——完成は少し先になるだろうけど。
最後まで付き合って読んで下さった方々に感謝を! 最後まで書けたのは、一重に読んで下さった方々のお陰です。ブックマークとか、評価とか、下さった皆様にも心から感謝! 私のモチベーションを維持してくれました(^ ^)
物語は終わらせたい方なので、完結はいつも嬉しいです。
明日から次のお話を上げようと思っております。予定では、ええと、お姉さんとショタくん。相変わらずファンタジー設定で……。




